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大学生の就活は空前の売り手市場だが、有名企業の内定を勝ち取るのは簡単ではない。人事ジャーナリストの溝上憲文氏は「面接官の質問技術が向上し、何度もしつこく問いただすので、生き残れる学生はわずか」と言う。採用担当者が学生の本性を暴く必殺の「質問」とは――。

■採用面接官の質問スキルが飛躍的に向上している

2019年卒学生の10月1日時点の就職内定率は94.0%(就職みらい研究所)と、就活も終盤にさしかかっている。

一方、大学3年生の20年卒学生は夏のインターシップを皮切りに就活戦線がスタートし、ITベンチャーやコンサル系を中心に選考面接も始まっている。

19年卒の内定率94%は前年同月より1.9ポイント高い。人手不足もあって「売り手市場」を反映しているように思えるが、それは主に中小企業の話。有名企業への入社は昔も今も狭き門だ。

しかも、会社の歴史の浅いIT系を含め、企業の採用担当者は採用基準が年々レベルアップしている。あるIT企業の担当者はこう語る。

「“売り手”という言葉に踊らされ、楽に採用してもらえると思ったら大間違いです。以前に比べて格段に面接時のチェックが厳格化しています。たとえば『会社に入ったら何をしたいか』と聞くと、文系の学生でもシステム・エンジニア(SE)になりたいと言う人が少なくない。どうやらSE志望なら入社しやすいと安易に考えているようなのです。もしSE志望ならば学生時代にプログラミングの基礎を学んでおくべき。無料で学べるツールもたくさんあるのに、何も手をつけていなければ面接で『なぜやっていないの』と突っ込まれます」

高度な専門性までは求めないが「本当に当社で活躍したいのか」という熱意やマインドを執拗に聞く企業も多い。大手ベンチャー企業の採用担当者はこう語る。

「社会に対して当事者意識が高く、何かクリエイティブな仕事をしたいという思いが強く、そういう課題意識を持って自分で行動を起こしていける人を求めています。専門の知識があるとか、仲間の統率力やリーダーシップがあるとかいうのは二の次です。仕事に対するマインドを測って決めています」

■体育会系にありがちな「実績自慢」は真っ先に除外される

では、どういう手法で本気度やマインドを測定しているのか。

ひとつは学生に過去の成功・失敗経験のプロセスをじっくり聞くことだ。学生がそのときに何を感じ、どうすればよいかを自分で考え、率先してアクションを起こしたのかを探っていく。

この「成功・失敗経験のプロセス」を聞くなかでは、武勇伝を雄弁に語る「実績自慢型」の学生もいるが、そういう学生は真っ先に弾かれるという。前出・大手ベンチャーの採用担当者はその理由をこう話す。

「学生の中には実績のアピールがすごい人がいます。たとえば体育会系の学生が『全国大会で優勝しました』と、そこだけを強調してくる。こっちは優勝しなくても、地方予選のベスト4でもいいので、そこまでにどういう過程があったのか、何を感じ、何を考えたのかをすごく聞きたい。それに触れずに『実績だけ』を語る人だと、コミュニケーションが成り立たない。もういいやという気になってしまいます」

優勝した、1位になったと「ドヤ顔」の学生に鼻白む担当者は多い。以前は、学生時代に華々しい実績を持つ人はほぼ無条件に高評価された。とくに体育会系の学生は全国クラスの成績優秀者をこぞって採用した時代もある。

だが、今では実績や情熱だけではなく、コミュニケーション力や論理的思考力といったスキルがより重視される。体育会系の学生だけでなく「結果だけ」を強調する実績自慢を敬遠する傾向が採用の現場に出てきているのだ。

■掘り下げた質問でも論理破綻しない体育会系は有望

しかも、最近の面接官は学生から説明を受けても簡単に満足しないタイプが多い。

大手メーカーの採用担当者は、質問を繰り返しながら話がロジカルかどうか、に意識を集中しているという。

「2つ3つ掘り下げた質問をすると、話がロジカルかどうかわかります。何かひとつのことについて話してもらい、具体的な部分を掘り下げて質問した際、ちょっと論理的な破綻があっても、話す学生の熱意やエネルギーが伝わると、採用してもなんとかやってくれるのではないかと思います。しかし、話の筋道があやしく、論理的にぐちゃぐちゃになってくると、この学生はロジカルに考える力に乏しく、考える習慣や問題意識も低いなと思ってしまいます」

典型的なのは、就活本の面接の想定問答を暗記してくるようなタイプだ。面接官が少し掘り下げて聞くだけで簡単にボロが出てしまう。

また、掘り下げた質問を受けた学生が、過去の経験のプロセスをそれなりに語れたとしても、それでひと安心とはならない。面接官は別の角度からさらに追求してくる。前出IT企業の採用担当者はこう語る。

「例えば失敗体験の理由をしっかりと説明できれば、コミュニケーション力はあるな、と感じます。第一関門は突破です。でも、問題はその後。私は『もし過去に戻ることができたら、どうやって達成しますか』とツッコミます。成果体験を語る学生に対しては『成果の目標が3倍だったとしたら、どうやって達成しますか』と質問します。これらの追加質問の意図は、自分がやったことに対する構造的理解ができているのか。失敗や成功の要因をちゃんと認識しているのかを確認することにあります。それによって、この学生の考える力を測り、会社に入っても再現性があるかないかを判断しています」

■「会社に適応できない」体育会系が増えている

じつはこの「過去に戻ったらどうしますか」という質問を使う面接官は多い。

「たとえば高校時代に野球部に所属した学生に『当時の体力があり、もう1回その頃に戻れるとしたら、勝つために何をどう変えますか』という質問をします。過去の経験から深く学んでいるなと思える答だといいのですが、中には『根性や意欲が足りなかった』『やり切ったから戻りたくない』と浅い回答の学生もいます。これだと反省もあまりしていないし、物事を深く考えるタイプではないなと見なさざるをえません」(前出・大手ベンチャー企業の採用担当者)

過去に華麗な実績や経験を持つ学生はそれだけ努力しているわけで、会社でも活躍してくれるのではないかと考えてしまう。だが、採用担当はしつこく何度も聞くという。大手ベンチャー企業の採用担当者は「よりしつこく聞く必要性が発生している」と語る。

「企業の置かれたビジネス環境は10年前と比べてはるかに厳しくなっています。仮に、部活やスポーツの世界でとんでもない成果を上げ、成功のプロセスも理解し、歯を食いしばって努力してきた人でも、社会人になった瞬間に適応できません、という残念なケースも増えています。それは学生の責任ではなく、見極めるわれわれの責任だと思います。ですから学生の本質を見極めるべく、試行錯誤しながらやっているのです」

■ねちっこく質問をしてくる採用担当に打ち勝つ方法

では、就活生がとりわけ面接での採用基準が厳しい有名企業から内定をもらうにはどうすればよいのか。IT大手の採用担当者はこうアドバイスする。

「抽象的な言い方ですが、まずは自分で意思決定する習慣を学生時代に身につけておくことです。何かの意思決定をしたとして、自分でその実現に近づくにはどうするべきか考えながら努力をすることが必須だと思います。今後、世の中のあらゆる事象の『正解』はAIに任せればよくなるかもしれません。人間はその正確さにおいてAIより劣るかもしれません。しかし、自分が選んだ人生の選択に対して、正解に近づくためにアプローチする。そのスキルを磨いてほしいと思います」

学生時代に積極的に物事に挑戦し、どうすれば自分なりの解を導き出せるのかを試行錯誤するクセをつけること。その経験の積み重ねが、ねちっこく質問をしてくる採用担当者に打ち勝つ近道なのではないだろうか。

(ジャーナリスト 溝上 憲文 写真=iStock.com)