路面電車の線路が複雑に交差し、ひっきりなしに電車が通る高知市の「はりまや橋」交差点。ここで、「同じ交差点に同時に3両台の電車が入る」という「トリプルクロス」が見られることが話題になっています。

チャンスは1日1回! レアな「トリプルクロス」とは

 高知市の市街地では、とさでん交通の路面電車が発達しています。その中心部にある「はりまや橋」交差点は、東に後免線、西に伊野線、そして南北に桟橋線の線路が伸び、1日のべ700両以上もの電車が行き交う運行上の要所。日本では珍しい、線路が平面で十字に交差する「ダイヤモンドクロッシング」があり、鉄道ファンの見物客もよく訪れます。

 いま、この場所で「同じ交差点へ同時に3両の電車が入る」という「トリプルクロス」が見られることが話題になっています。トリプルクロスの時刻になると、交差点の南西角にある四国銀行本店の電光掲示板で「朝8時12分の奇跡・トリプルクロス」という表示も流れるようになりました。


3両の電車が交差点へ同時進入する「トリプルクロス」(画像:とさでん交通)。

 このトリプルクロスを世に広めようと活動しているのは、ボランティアの通訳ガイドグループ「高知SGG善意通訳クラブ」副会長の三井幸一さんです。路面電車で毎朝通勤する三井さんはもともと、はりまや橋のダイヤモンドクロッシングに「2両」の電車が同時に進入することがあると気づき、観察を始めました。これは、ダイヤモンドクロッシングの四方に渡り線がついていて、車両の全長も12〜13mとコンパクトなとさでん交通ならではの珍しい現象です。

 しばらくして、鉄道ファンから三井さんのもとへ、ある情報が入りました。はりまや橋交差点では、2両どころか3両同時に電車が進入する瞬間があるというのです。それが起きるかは、その日の運行状況によって変わり、タイミングは朝8時12分ころの1回のみ。実現すればかなり珍しいことと思った三井さん、果たして、その噂は本当でした。

「何事もない」ときは見られない? まさに奇跡の産物

 通常のダイヤで所定時間に交差点に進入するのは、次の便です。

 まず1両目は「北から西へ」の電車です。高知駅前8時6分発の枡形行きが桟橋線から右折して渡り線に入り、伊野線に進入し、8時12分にはりまや橋停留場に着きます。2両目は、「西から北へ」の動き。枡形8時3分発の高知駅前行きが、8時11分にはりまや橋を出発すると、左折して渡り線に入り、桟橋線(高知駅方面)へ進入します。

 そして、運行状況によって同時刻に交差することがある3両目が、「東から南へ」の電車です。後免町7時33分発の桟橋車庫前行きが、8時9分にデンテツターミナルビル前を出発し、左折して渡り線に入り、桟橋線(桟橋方面)へ進入します。

 この電車は本来なら、8時11分にはりまや橋へ到着するので、8時11分には交差点を通過し終わっています。しかし、後免町を始発とするこの便は、ラッシュ時の街中を40分近くかけて走ってきます。信号に捕まるなどで、少し遅れて交差点に進入すると、ほかの2便と同時に交差点へ進入するのです。

 三井さんは、3つ目の便である後免町発桟橋車庫行きで毎朝通勤していたため気づかなかったそうで、まさに「灯台下暗し」だったと話します。この現象が見られるのは、平日のみ月に数回程度。雨だとスムーズに運行できないことが多く、遭遇率が低いとのことです。また、2018年8月には10回以上見られたのが、同年9月は2回程度と、見られるかどうかはまさに「運頼み」なのだとか。


はりまや橋交差点。線路が直角に平面交差し、かつ4方向の渡り線を備える(画像:とさでん交通)。

 トリプルクロスで注目したいのは、上空に幾何学模様のように張り巡らされた架線(電線)と、それを揺らしながら走る電車の音。3両がいっせいに「ギィーッ」とフランジ音(レールと車輪が摩擦できしむ音)を鳴らしながら走るさまは、なかなか見られるものではありません。

外国人も驚いたトリプルクロス ブームとなるか?

 トリプルクロスを観察してきた三井さんと鉄道ファンらは、これを世に広めようと動きます。「ダイヤモンドクロス委員会」を結成し、この交差点での映像をまとめてYoutubeで発信するなどしています。前出した四国銀行本店の電光掲示板での表示も、増えた見物客へのアピールも兼ねて始まりました。

 映像を見た外国人からも、「交通機関の発達した日本でないとこの現象は成立しない」という声が寄せられているそうです。近年では高知港に入港するクルーズ船も増加しており、2019年2月には三井さんらSGG善意手話通訳クラブが主催し、この交差点を海外の人々に紹介するイベントを予定しています。

 また、各所で話題になっていることを受けて、路面電車を運行するとさでん交通自身も、ウェブサイトでトリプスクロスを紹介するようになりました。今後は広報活動を強化していく方針だそうです。

 ちなみに、交差点を一望できる「ホテル西鉄イン」では、交差点を見渡せる最上階を「トレインビュープラン」の部屋に設定し、鉄道ファンのあいだで好評を得ています。ただし、「トリプルクロス」が必ず見られるという保証はありません。

※記事制作協力:風来堂、oleolesaggy 

【写真】まるで3両が「オハヨー」!? これが奇跡の瞬間だ!


3両の電車が向き合うトリプルクロスの瞬間(画像:三井幸一)。