※写真はイメージです(写真=iStock.com/dima_sidelnikov)

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「若い人は話しかけても無反応で、コミュニケーションが取れない。どうすればいいのか」。飲食・小売・サービス業の現場で、こうした悩みをもつ上司、店長が増えているという。店舗運営コンサルタントの鳥越恒一氏は「若手スタッフが好きなことに関心を持ちましょう。たとえばスマホゲームもバカにしてはいけない。『関心力』が重要です」という――。

※本稿は、鳥越恒一『ほめられたいときほど、誰かをほめよう 店長の心を励ます50の言葉』(プレジデント社)の一部を加筆・再編集したものです。

■叱っても褒めても無反応な若者たち

最近多くなってきた店長からの相談に、「若いスタッフが無反応で困っています」というものがあります。これは特にここ1〜2年で増えてきた相談です。

これは店舗に限らず、若手社員や学生アルバイトがいる職場なら、どこでもあり得る問題ではないかと思います。顕著なのは今の大学生ぐらいから下の年齢でしょうか、基本的なコミュニケーションさえ取れないことがネックになっています。

無反応な若者と、どうやって関わっていけばいいのか?

まず言えることは、まだ相手が仕事に関心を持つステージになっていない、ということです。特に新人スタッフや新入社員であればなおさらです。そのステージになっていない段階で、仕事のやりがいや目標について尋ねても、「そんなのないよ」と思われてしまいますし、その重要性などを懇々と説かれても、「めんどくさいな」と思われるだけです。

ですが実際、無反応な若手スタッフたちは、仕事は粛々とやってくれます。すごく良い笑顔で接客しているわけではないですが、クレームも出ない。生産性が悪いというほどでもないですが、決して高いわけでもない。ですから、叱るポイントも少ないのです。ちょっとしたことでも、良いと思ったことは褒めてみても、それに対して反応がありません。

以前は、そういう無反応なスタッフの意識を変えるために、表彰したり、賞与を増やしたり、承認欲求を満たすような工夫をすることがよくありました。しかし、今はそんなお金や名誉はいらないという若者が増えてきています。

■賞罰や評価制度ではモチベーションは上がらない

これはつまり、賞罰や評価制度の効果が薄まっているということです。もちろん現場にもよりますが、「別に評価されても給料がすごく増えるわけでもないので、普通でいいです」という感覚の若者が増えているのです。責任が重くなるくらいなら今のままでいい、社員にならず自由に休めて面倒なことを言われないアルバイトのままでいい、そんな感覚です。

こうした感覚ですから、仕事に関心を向かせるというのは、とてもハードルが高いです。言ってしまえば、こうした感覚の若者は、どこで働いてもいいと思っています。特に、できるだけストレスがない職場であることが重要です。それでも、アルバイトよりはポテンシャルが高い、仕事ができるから問題がないと本人は思っています。

実際、こうした若者は無能ではありません。あくまで普通です。当たり障りのないギリギリの及第点を取るような仕事ぶりなので、叱るような点もありません。かと言って、大きく成長してほしいと期待をかけられるのも嫌がります。マネジメントの進め方が大きな変わり目を迎えていると言っていいでしょう。

■興味のないスマホゲームにも関心を寄せるべき

仕事に関心がない無反応のスタッフには、まず上司である自分に関心を持ってもらうことが必要です。若手スタッフと上司、その関係が良くなっていくことが大切なのですが、そのためのフックが“仕事”ではうまくいきません。

そこで上司は、その若手スタッフが好きなことに関心を持ちましょう。ゲームだったらゲーム、サッカーだったらサッカーなど、その人ごとに興味関心があるものが何かを知り、相手の好きなことに自分の関心を寄せていきます。そうすることで、「この人は自分のことをわかってくれている」と思ってもらえるようになるからです。

若者の間ではスマホゲームが流行っています。私のような上の年代の価値観からすると、「1日中スマホでゲームしているなんて意味がわからない」と思ってしまいますが、そこで相手の価値観を否定していては、若者は上司の話に聞く耳を持とうと思わないですよね。

「そんなにスマホゲームばかりしていて、つまらなくないの?」などと言ってくるような自分の価値観を否定する人とは、関わりたくないですし、近づきたくないと思うでしょう。そんな人から仕事であれこれ指示されても、最低限をこなすだけになるのは不思議ではありません。

■共通の関心を示すことで関係を構築する

若手スタッフを大事な存在だと思えば、「大事なスタッフは何が好きなのだろう?」と関心を持つでしょう。スマホゲームが好きだとなったとき、「どこが楽しいのか、わからない」と思ったのであれば、それを否定せず、「どういうところが楽しいの?」と聞いてみればいいわけです。共通の関心をまず示すのです。自分なりに調べてみたり、一緒にやってみてもいいですね。

そうやって関係構築からしていけば、「上司は私のことをわかってくれようとしている」「私を人として尊重してくれる」と相手は感じてくれます。その気持ちがあってはじめて、「上司の話を聞こうかな」と思ってくれるのです。

関係構築ができないうちにあれこれ話しかけても、「はあ」や「ふーん」という返事をする程度で反応が薄いでしょう。それを、「無能な部下だ」「最近の子は覇気がない」などと言い捨てて終わりにしてしまっていては、生産性も上がらないですし、イライラするだけで、何もプラスはありません。

■上司に「関心力」が求められる時代に

若いスタッフや社員を抱える上司は、「関心力」を高めておきましょう。若い新人スタッフや新入社員が入ることになったら、最初のオリエンテーションでは会社のルールや仕事の基本的な話も大切なのですが、それよりも相手が何に関心を持っているか、相手の趣味や関心事について話を聞く時間を設けてみましょう。「何が好きなの?」「それ、詳しく教えてくれないかな?」といったように関心があることを示すのです。

自分を認めてくれる人、自分が好きだと思う人、そういう人の話しか聞かない。これはつまり関心のない人の話に関心を持てないということであり、そういう人が増えている現状では、自分が相手に関心を持っていかないと何も始まらないということです。

以前は若者のほうに「関心力」が求められていました。会社の偉い人がゴルフをするなら一緒にゴルフに行ったり、釣りが好きなら釣りに付き合ったりと、そういう光景がよく見られました。しかし、今はそれが逆転している状態です。今、「関心力」が求められているのは若者ではなく、上司のほうなのです。

■価値観を否定しても問題解決にならない

私が社会人になりたての頃は、上司が読んでいる本が気になり、同じ本を買って、「あっ、その本、自分も読みました」と言って話しかけてみることをしたりしていました。今は上司が、「何を読んでいるのかな?」「その本、実は読んだんだ」と若者に声をかけてつながっていく、そういう光景が自然になってきています。

自分の子どもや家族だと思うと、相手の好きなことに関心を寄せられるでしょう。職場であっても同じです。若いスタッフが入ってきたら、まずは関心を寄せて、その相手のことを理解しようとしましょう。

せっかく入社してくれたのに、「スマホゲームなんてくだらない」などと価値観を否定してしまうことで、結局辞められてしまうことにもなり得ます。これでは何の問題解決にもなりませんよね。「今どきの若者は会話もまともにできないなんて、どうしようもない」と無反応なことを嘆いて文句を言っていても現状は変わりません。上司のほうから若いスタッフたちの関心事について楽しんで知り、若者の心に寄り添っていきましょう。

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鳥越恒一(とりごえ・こういち)
DIC幹部育成コンサルティング 社長
1973年生まれ。金融業、飲食業を経て2003年、株式会社ディー・アイ・コンサルタンツ入社後、人財開発研究部の担当役員として部門を統括。2012年にDIC幹部育成コンサルティング株式会社を設立し、社長に就任。飲食・小売・サービス業のコンサルティングに従事し、これまでに延べ5万人以上の店長の悩みを聞いてきた。著書に『プロ店長 最強の仕事術』(日本経済新聞出版社)などがある。

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(DIC幹部育成コンサルティング 社長 鳥越 恒一 写真=iStock.com)