これからAIやロボットを導入する企業は「倍々ゲーム」で増える。「大失業時代」がやってくる可能性がある(写真:Graphs / PIXTA)

2007年にiPhoneが誕生してから11年余りが経ちましたが、「ガラケー」といわれる携帯電話が全盛だったその当時、現在のスマートフォンの席巻ぶりを予想できた人がどれほどいたでしょうか。新しく価値あるモノはその普及期に入ると、爆発的な伸びを見せながら広まっていきます。スマートフォンの先駆けとなったアップル社のiPhoneは最初の5年間の販売台数が平均して前年比で2.4倍超も伸びていたのです。

AIやRPAは、これから「倍々ゲーム」で増えていく

iPhoneの爆発的な拡大を見ても、日本におけるAI(人工知能、RPA=ロボットによる業務自動化も含む)の黎明期が2017年であるとすれば、AIやロボットを導入する大企業・中小企業の数は、2018〜2022年の5年間で前年比2倍のペースで増えていっても何ら不思議ではありません。


すなわち、2018年以降の5年間は2倍、4倍、8倍、16倍、32倍と倍々ゲームで大企業への導入が進み、それ以降は多少伸びが鈍化していくものの、10年単位で見れば経済に大きな変化を及ぼす可能性が高いといえるでしょう。

これからの日本は、少子高齢化が加速度的に進むなかで、総人口より労働力人口の減少率が大きく、慢性的な人手不足に陥ることが懸念されています。そのような社会では、AIやロボットの導入は人手不足を乗り越えるための重要な手段となることは間違いありません。

日本の労働力人口は2020年には2015年と比べて322万人、2030年には853万人、2040年には1751万人も減少していくのですから、AIやロボットは人手不足を解消するだけでなく経済の生産性を大幅に高めるため、それなりの期待をしていいというのも事実です。

とりわけ、団塊世代が定年を迎え始めた2012年以降は労働力人口が大幅な減少傾向にあるのに加え、2017年以降は世界的な景気回復により輸出の増加が重なったため、人手不足は深刻化の一途をたどっています。その結果として、2018年の前半(1〜6月)の失業率は平均で2.4%と低水準で推移しているなかで、多くの企業がAIやロボットで徹底した効率化に取り組むのは、必然の流れであるといえるわけです。


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今の日本では労働時間が長い割にはその成果が小さく、特にサービス業ではその傾向が著しいといわれていますが、これは裏を返せば、日本の生産性は改善する余地が大きいということを表しています。

そのような日本の現状を鑑みて、経済学者の多くが「人口減少をバネに生産性を高めていけば、日本は経済成長を続けることができる」と主張するのは、決して間違っているとは思いません。ただし、このような主張を際限なく肯定して推し進めることがあれば、日本の雇用にとって非常に由々しき結果を招きかねないと心配しているところです。

AIやロボットが「人余り」の状況をつくってしまう可能性

というのも、私が大いに心配しているのは、AIやロボットが人手不足を補うというレベルを超えて、人手が大幅に余るという状況をつくりだしてしまうのではないか、ということだからです。

AIの急激な進化に伴って自動化のスピードが格段に上がっているなかで、IoT(身のまわりのあらゆるモノがインターネットにつながる仕組み)によって農業、建設、運輸、医療・介護などの産業からデータが得られるようになり、今までは不可能だとされていた水準での自動化が進もうとしています。人の認知機能や経験・思考が不可欠な複雑な処理、たとえば農場の管理、建設現場の管理、自動車の運転、医療の画像診断、老人の健康管理などの業務で自動化が実現されつつあるのです。

そのうえ、AIの活用は大企業だけでなく、中小企業のあいだでも広がってきています。アマゾンやマイクロソフト、IBMなどのIT大手が開発したクラウド上の技術をベースにして、ベンチャー企業が生産・販売・会計などの基幹業務に特化したサービスを低価格で提供できるようになったためです。これまでITへの投資を躊躇していた中小企業のあいだでも、コスト的に利用するハードルが低くなってきているのです。日本の雇用の約7割を占める中小企業にAIの活用が広がり始めたことは、日本全体の人手不足を早い段階で解消する大きな要因となるでしょう。

AIやロボットの普及があまりに速いペースで広まることになれば、新たな雇用の受け皿が整う前にホワイトカラーを中心にしだいに余剰人員が膨らみ、失業率が上昇傾向に転じる時期は思ったより早まることになるでしょう。

2025年には失業率が5.8%になる?

日本の労働力人口の減少率だけを見れば、10年後も20年後も失業率が上昇する可能性は極めて低いと考えらます。しかし、企業が一斉にAI・ロボットの導入を加速する流れのなかで、2030年までに労働力の2割がAIやロボットに徐々に代替されていった場合、東京オリンピック終了後の2020年代初めには失業率が上昇傾向へと転じ、2020年代後半には5〜6%程度(2018年前半の失業率2.4%の2倍を超える水準)まで上がり続けることも十分に想定できるというわけです。


これから失業率は大きく悪化する可能性がある(図表:『AI×人口減少 これから日本で何が起こるのか』より)

実際のところ、雇用の現場に精通しているリクルートワークス研究所の試算によれば、AIやロボットによる代替が進むにつれて失業率が上昇に転じることになり、2025年には最大で5.8%まで上昇する可能性があるということです。

この数字は過去最悪だった2009年7月の5.7%を上回る水準であるので、将来の人手不足まで懸念している日本で、いかに雇用が悪化していくのかという情勢を指し示しているのです。社会保障システムを維持するために、高齢者雇用を増やさなければならない日本にとっては、雇用環境の悪化は大きな障壁となるかもしれません。

たとえ人口が減少していく日本であっても、生産性を上げていけばGDPを保つことができるというのは、あくまで2000年以前に通用した考え方であります。2000年以降の技術革新の質が過去のケースとは異なる次元にあることを考えると、むしろ国民全体で見た場合には生活水準の悪化という副作用をもたらす可能性が高いと思われます。

現在の経済学を支える主たる理論は、その多くが戦後の圧倒的にものが足りない時代に確立されたものです。言い換えれば、旺盛な需要があって市場の成長余力も大きい時代につくられた理論なのです。さらにいえば、現在のような「破壊的イノベーション」が起こることなど、とても想定してはいなかったのです。もはや時代遅れとなった経済学の教科書どおりの発想をしていては、とんでもないしっぺ返しが待っていることを意識しておく必要があるのではないでしょうか。

新刊『AI×人口減少 これから日本で何が起こるのか』においては、これからの10〜20年を見据えて、私たちの仕事、収入、社会がどのように変化していくか、実証的なデータを基に解説しています。ご覧いただければ幸いです。