中村憲剛インタビュー@後編

 川崎フロンターレの中村憲剛がボランチとしてのプレーを確立させたタイミングで、出会ったのが大島僚太だった。プロとしては華奢だった中村は、だからこそ、体格的に恵まれてはいない大島に若き日の自分を重ね、持てるものすべてを伝えた。

 そして今シーズン、流通経済大学から新たに守田英正が加入した。体格やプレースタイルは異なるが、円熟味を増してきた今だから、中村には伝えられることがある。

 攻撃的なパスサッカーを体現すべく、脈々と受け継がれていく川崎フロンターレのボランチの系譜。中村の目にルーキーである守田の成長はどのように映っているのだろうか。

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中村憲剛が大島僚太と守田英正のダブルボランチについて語る

―― 今シーズン、大島選手ともっとも多くダブルボランチを組んでいるのが、先の日本代表に初招集された守田選手です。彼の第一印象とは?

中村憲剛(以下:中村) 守田のプレーを初めて見たのは、昨シーズンの中断期間中に行なわれた夏の函館キャンプだったんですよね。まず、流通経済大の選手がフロンターレに加入するのが史上初のこと。これは僕の勝手なイメージですけど、流通経済大の選手ってハードワークするというか、激しい印象があった。だから、これまでフロンターレに加入してきた選手とは、ちょっとタイプが違うのかなと思っていたんです。強化部の(伊藤)宏樹さんに聞けば、大学ではボランチを中心にサイドバックやセンターバックもやっているという。

 そうしたイメージを持ちつつ、いざ一緒にプレーしてみたら、意外と言ったら失礼かもしれませんが(苦笑)、足もとの技術がしっかりしていたんですよね。それでいて身体も強くて、走れるし、とにかく無理が利く。激しいは激しいんですけど、決してラフという感じじゃない。綺麗に身体の強さを活かすことができるんですよね。これは僚太にも通じるんですけど、ひとことで言えばしなやか。だから、将来的に、「これはもしかしたら(エドゥアルド)ネット(現・名古屋グランパス)からポジションを奪うかもしれないな」と思っていました。

―― 中村選手から見た守田選手の特徴とは?

中村 うーん。なんでしょうね(笑)。パッと思い浮かぶのは守備かなと思いますが、セールスポイントかと言われると(苦笑)、すば抜けた特徴がないところが特徴かもしれないですね。その分、五角形で選手の能力値を表せるとしたら、どの項目も高くて、その五角形が大きいとでも言えばいいですかね。守田はボールも運べるし、止められるし、蹴れる。さらには守備も強いし、最近では気の利いたパスも出せるようになってきている。

 でも、一番は攻守において無理が利くところ。走り切れるし、がんばり切れる。純粋に守田に走力があるので、それが中断明けのチームの安定に導いているのは間違いない。それによってネットと僚太と僕のトライアングルのときとはまた異なる、新しい色というものができてきている。ただ、そこにピタッとハマるというのは、決して簡単なことじゃないですけどね。

―― まさに、チームにひとりいると助かる選手。

中村 ほんと、それですよね。まさかルヴァンカップ準々決勝のとき、僚太がケガをしていたというのもありますけど、(守田が日本代表に招集されていて)加入1年目の選手に対して不在の穴を感じるとは、僕自身も思わなかったですから。

―― 守田選手はルーキーながらフロンターレで出場機会を伸ばし、日本代表戦に招集されると、9月11日のコスタリカ戦で代表デビュー。その試合でケガを負いましたが、ここまでの成長曲線をどう見ていますか?

中村 とくにここ3〜4カ月の成長というか、吸収力はすさまじいですよね。今年のキャンプでも、みんなと遜色なくプレーしていて、「今年のうちに試合に出るな」って確信してました。それを本人に言うと、「いや、いっぱいいっぱいです」とか「いや、緊張してます」って言うんですけど、そこも僚太と似ていて、言葉は謙虚でも、プレーはふてぶてしいというか(笑)。プレーは堂々としているんですよね。

 それとふたりに共通しているのは、とにかく人の話を聞けるということ。こちらが何かを伝えたときに、まず素直に聞こうとする。「もういいです」とか、心のなかで「うるさいな」って思っていたりしないんですよね。そういうのって態度でわかるもの。話しかけにくかったり、聞く耳を持っていなかったりすると、プロでは長くプレーできない。これは僕のなかで統計が取れているので、間違いないと思いますよ。

 僚太も、守田も、言えば言うだけ吸収していく。それは練習の動きひとつ見ればわかりますし、試合でも大きく変わってくる。僕だけでなく、監督やコーチ、さらには他のチームメイトから言われたことを吸収して、成長してきているんだと思います。その成長の過程には、本来の彼が持っている能力の高さもあるとは思いますけど、アドバイスされたことを取捨選択して、自分自身をコーディネーションできている証拠だと思います。あとは、ふたりとも勘がいい(笑)。

―― 守田選手には、具体的にどのようなアドバイスをしているのですか?

中村 そこは僚太にかけてきた言葉と一緒です。毎日、声を掛けてアドバイスしているわけではないので、練習や試合で気になったことがあれば、その都度、言うようにしています。たとえば、ポジショニングのことだったり、身体の向き。ポジショニングを半歩下げるだけで、身体の角度を30度変えるだけで、見える視野が劇的に変わったりする。

 あとは対戦相手をしっかり見ること。そこを意識して、自分の立ち位置を決めろということも言いました。自分がこうしたいからというのではなく、相手や試合の状況を見たうえで、ポジショニングを考えろと。ちょうどいいところにいれば、自ずとボランチにボールは入ってきますから。

 他にも連続して動くこととか……挙げればキリがないですよね。でも、今言ったようなことを、いっぺんに言うとパンクしてしまうので、ひとつずつ言うようにしています。ひとつができるようになったら、また次、それができるようになったらまた次。忘れてしまっていたら、同じことをもう一度、といった感じですよね。

―― これからの守田選手に、チームメイト、先輩として期待することは?

中村 むしろ、ここからですからね。日本代表に選ばれましたけど、それでつけあがってしまっては困ります。僚太と比べれば、まだまだ足りないところだらけ。試合によって波もあれば、自分のなかでミスが続くと、それを止められなかったり、判断が鈍ってしまうところもありますから。これはプロ1年目の選手にありがちなことでもあるので、試合を重ねるなかで覚えていくしかないんですけどね。

 ただ、あまりに急スピードで成長しているので、周りの評価と自分の成長が追いついていないところもあると思う。否が応でも日本代表に選ばれると、ステージに上げられてしまいますから。今までは「ルーキーなのにがんばっているよね」だったのが、スタジアムで見ている人も、テレビで見ている人も、『日本代表の守田』という目で見てくる。選手としては、そうなってからが勝負。

 そのプレッシャーに押しつぶされてしまうのか、それとも糧(かて)にできるのか。守田はちょっと(呼ばれるのが)早すぎるところもあったので、自分もできる範囲で、教えられることは教えてあげられたらと思っています。

―― 守田選手の代表デビュー戦は、ボランチではなく、右サイドバックでの出場でしたね。

中村 偶然にも、フロンターレでのデビューも右サイドバックでしたからね。でも、シーズン開幕からここまでの彼を見ていると、ひとりだけ別の世界から来た人みたいですよね。やっていることも、やらされていることも(笑)。ただ、守田にはそれができてしまう能力がある。

 今回、追加招集という形でしたけど、最初のメンバー発表に名前がなかったときに、本人に「残念だったね」って、少し茶化し気味に声をかけたんです。そうしたら「まだ早いです」って言うから、心の準備が足りていないなと思って、「そんなこと、わからないぞ。うちでプレーしているんだし、代表に行ってもビビらなくて大丈夫だぞ。だから、いつ呼ばれてもいいようにしておけよ」って言ったんですよね。

―― その直後に守田選手は日本代表に追加招集。言葉をかけるタイミングも絶妙ですが、アドバイスも含めて、まるでコーチみたいですよね(笑)。

中村 教える意味ではコーチかもしれません(笑)。それにもう、僕は(1列)下がる気はありませんからね。そのためならば、コーチングも惜しみません(笑)。でも、ゆくゆくは、僚太と守田のふたりが日本代表でダブルボランチを形成する存在になってほしいとも思っているんです。それがまた、自分の夢でもありますから。

―― 自分の夢を後輩に託す。どうして、そこまで自分が培(つちか)ってきたものを惜しみなく還元できるのですか?

中村 それは、自分がずっとこのクラブでプレーしてきた生え抜きだからというのがあるのと、フロンターレを強くしたい。ただ、それだけです。僚太は高卒だったこともあり、多少時間がかかりましたけど、独り立ちして、ワールドカップのメンバーに選ばれるまでになった。そうしたらまた新しい選手がやってきて、それをまた僚太が教えながら、次の世代が育っていく。

 それがクラブとしての新陳代謝であり、世代交代でもあると思うんですよね。僕らがいる間に、僕らの背中を見て、次の世代が育っていく。きっと、そこをぶった切ってしまうと、チームのサイクルは難しくなってしまう。だから今、フロンターレはすごくいいサイクルを迎えているんじゃないかと思うんです。

 僚太や守田だけじゃない。(小林)悠もそうだし、(谷口)彰悟もそうだし、(車屋)紳太郎やノボリ(登里享平)もそう。ちょっとずつ、みんなに言葉をかけながら、育ってきた選手たちがチームの幹になる。こんなにうれしいことってないですよね。

 今、名前を挙げた選手たちが試合に出ている間に、(長谷川)竜也や知念(慶)、さらには(脇坂)泰斗や(田中)碧たちが、またその背中を見て、次の主軸になっていく。そこには今は期限付き移籍で外に出ていますけど、三好(康児)や(板倉)滉もいる。来シーズン以降には、三笘(薫)や旗手(怜央)も加入することが内定していますし、いずれ、それぞれがフロンターレの幹になってもらいたい。ここ数年で、そうした次への土台をしっかりと築いていくことができたらなって思うんです。