「いま無性にコレが食べたい!」は、身体からのSOS?

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執筆:山本 ともよ(管理栄養士・サプリメントアドバイザー・食生活アドバイザー)
医療監修:株式会社とらうべ


お腹が空いたから何か食べたい、ではなく「肉が食べたい!」「チョコレート!」など特定の食品を無性に欲するということはありませんか。

この

「特定の食べ物への渇望」

は、私たちの身体が示す何らかのメッセージかもしれません。

ご一緒に詳しく見ていきましょう。

「無性に何かが食べたい=栄養素不足」という見解

我慢ができないほど〇〇が食べたい…という状況は、身体にとって何らかの栄養素が不足しているのではないかと考えることができます。

具体的には、たとえば、甘いものが無性に食べたいときは、エネルギー源となる「糖質・たんぱく質・脂質」の不足、あるいは、ストレスにより抗ストレスホルモンの分泌を促したくて糖質やアミノ酸を欲している、などです。

また、しょっぱいものが無性に食べたくなるのは、ミネラル不足が影響しているのではないか、という指摘もあります。

他にも氷が食べたいのは鉄分不足、チョコレートが食べたいのはマグネシウム不足、ポテトチップスはカルシウム不足など…こうした関連付けはインターネットを中心にさまざまな情報が飛び交っています。

しかしながら、「食品に含まれる特定の成分の情報を身体がキャッチして食べたいと欲する」という現象が、どのようなメカニズムで起こるのかまだほとんど解明されていません。

ですから、前述のような情報は、いわば「経験知」のようなものであって、現時点においては科学的な裏付けがあるとはいえません。

空腹とは違う「食物渇望」

お腹が空いている「空腹」は、一般には身体の栄養素が欠乏していることを示すサインとみなされます。

この「空腹」は何か食べれば満たされます。

つまり、極端にいうと何を食べても満たすことはできます。

これに対して、特定の食品を食べないと満たされない状況は

「食物渇望」

と呼ばれています。

食物渇望は突然起こり、時には耐えがたいほどの強い欲求になる、という特徴があります。

ですから、何か食べれば満たされる通常の空腹とは性質が異なると考えられています。

単調な食生活の繰り返しによって、食物渇望が出現しやすいという報告もあります。

また、食物渇望が起こる理由は、体内の栄養素が不足するという生理学的な根拠だけでなく、経験的な要素も関与しているといわれています。

たとえば「無性にお寿司が食べたい」という渇望は、寿司を常食とする日本人か、寿司好きの外国人だけに起こる現象でしょう。

これは、しばらく食べていないという欠乏感や刺激的な食体験が食物渇望を招いたのではないかと推察できます。


また、食物渇望と薬物依存症の類似性についても指摘されています。

近年、神経生理学などの分野において、依存症に関わるドーパミンなど脳内麻薬の働きが解明されてきました。

その見地から、食物渇望のケースも脳内の神経伝達物質が関与していると考えられています。

脳が食欲を感じるメカニズム

「食べたい」という欲求は、脳の視床下部にある摂食中枢の活動によって起こります。

摂食中枢を刺激する要因はさまざまですが、おもに次のようなシグナルがあります。

飢餓状態のシグナル


血糖(血液中の糖質量)が下がる、胃が空っぽになる、空腹を感じさせるホルモンが分泌されるなど、身体が飢餓状態(栄養補給が必要な状態)になったというシグナルが発せられ、摂食中枢が刺激されて「食べたい」という空腹感が生まれます。

感覚器からのシグナル


お腹が空いていなくても、「いい匂いがする」「心地よい音がする」「食べたいものが目に留まる」など、嗅覚や聴覚、視覚などの感覚によっても「食べたい」という欲求が生じます。

脳内物質からのシグナル


摂食中枢を刺激する脳内物質として、オレキシンやドーパミンなど複数の種類が発見されています。

オレキシンは摂食行動を促す以外にも、覚醒作用や睡眠サイクル、エネルギー代謝亢進、血圧上昇など、さまざまな生理作用に関わる物質です。
好ましい味の摂食量を増やす、いわゆる「やみつき」にも深く関与していると言われています。

一方、ドーパミンは「快楽」の感覚をコントロールします。
食べるという行為は「満足感」や「陶酔感」といった快楽の感情を生みます。
そのため、「快楽」を得るために食べるという反応を起こします。

この反応は、時にストレスを発散する快楽の位置づけで働くときもあります。
具体的には、強いストレスがかかったときに「やけ食い」や「やけ飲み」をするなどの行為です。

空腹に限らず「食べたい」と感じやすい食品

何かを無性に食べたいと思わせるのは、私たちのカラダの問題だけではなく食品の側にも要因があります。

「おいしい」と感じやすい味覚は「甘味」「塩味」「うまみ」です。

栄養素としては「糖質」「ナトリウム」「アミノ酸」「脂質」があります。

これらの栄養素は多くの食品に含まれていますが、とくに分子を小さくして吸収しやすく加工した成分(※)を含む加工食品は「無性に食べたい」と感じやすい食品と言えます。

※たとえば、ご飯に含まれる糖質のでんぷんは、分解されて分子が小さくなるとブドウ糖になって吸収されます。
でんぷんのまま摂取するより、ブドウ糖を摂取したときの方が甘みを感じやすく、吸収も早くなります。
ブドウ糖は、スナック菓子や清涼飲料水、飴、カップラーメン、菓子パンなどに多く使用されています。


「無性に何かが食べたい」という欲求。

多かれ少なかれどなたも一度は経験をお持ちではないでしょうか。

今回お伝えしたとおり、科学的な解明が今後に期待される現象です。

もちろん、自分が美味しいと思うもの、食べたいと思うものを食べる、という行為自体は悪いことではありません。

しかし、空腹感や満腹感といった本来のカラダからの要求なしに食べてしまうと、栄養バランスが偏って肥満などにつながり健康を害することになりかねません。

ですから「食物渇望」については、いわば欲望に委ねるまま食べてしまうのではなく、自分のカラダと対話しながら食べる、というスタンスがよいと思います。


<執筆者プロフィール>
山本 ともよ(やまもと・ともよ)
管理栄養士・サプリメントアドバイザー・食生活アドバイザー。
株式会社 とらうべ 社員。企業で働く人の食と健康指導。糖尿病など疾病をもった人の食生活指導など活動中

<監修者プロフィール>
株式会社 とらうべ
医師・助産師・保健師・看護師・管理栄養士・心理学者・精神保健福祉士など専門家により、医療・健康に関連する情報について、信頼性の確認・検証サービスを提供