東京の地下鉄網のラインカラーはどのようにして決まったのだろうか(写真:blackie0335 / PIXTA)

東京都心に通う、あるいは住んでいる人なら、日頃何気なく使っているであろう地下鉄。複雑な路線網をわかりやすく見せているのが、路線ごとに決められたラインカラーだ。多数の路線が入り乱れる東京の地下鉄路線図は、銀座線はオレンジ、丸ノ内線は赤……など、鮮やかな色にあふれている。


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現在13路線ある東京の地下鉄はそれぞれに別のラインカラーがあり、東京メトロ都営地下鉄と運営は2つに分かれているものの、色はどれも重複していない。各路線のラインカラーはどのようにして現在見られる色に決まったのだろうか。東京の地下鉄のラインカラーが決まった理由を探ってみた。

ラインカラー誕生は約50年前

まず、どのようにしてラインカラーが決まったのか。

東京メトロによると、ラインカラーの導入に向けた検討がスタートしたのは1969年だ。「地下鉄網が広がりを見せていた当時、路線を色でご案内するという概念は乏しく、お客様へのご案内は『文字』に頼っていました。このような中、地下駅構内でもお客様へよりわかりやすいご案内となるよう、『色』による誘導・ご案内を検討しました」という。

1969年といえば、東西線が全線開業し、千代田線の最初の区間である北千住―大手町間が開業した年。東京の地下鉄網が飛躍的に拡大しつづけていた時期に、ラインカラーの検討が始まったわけだ。そして翌1970年に、それまでに開業していた路線、その後建設する路線を含めた色分けが決定した。

「1970年、当時開業していた営団地下鉄(現・東京メトロ)5路線(銀座線、丸ノ内線、日比谷線、東西線、千代田線)と都営地下鉄2路線、さらに建設が予定されていた計画路線(有楽町線、半蔵門線、南北線)を含めて、各線のラインカラーが決定しました」(東京メトロ

ただ、それまでも銀座線の電車はオレンジ、丸ノ内線は赤といったように、路線ごとに電車の色は異なっていた。これ以前は、ラインカラーという考え方はまったくなかったのだろうか。都営地下鉄を運営する東京都交通局にたずねると、次のような答えが返ってきた。

「1970年まで、都と営団地下鉄は独自のラインカラーを設定していました。当時、浅草線は緑、三田線は赤を使用していました」


東京メトロ丸ノ内線の旧型車両(500形)。開業時から赤い電車が走っていた丸ノ内線のラインカラーは赤となった(撮影:尾形文繁)

路線を色で案内するという概念は乏しかったというものの、一応は独自のラインカラーがあったわけだ。だが、地下鉄網の拡大により、営団・都営を問わず路線の識別をはっきりすることが必要となった。

「ラインカラーを設定することにより、お客様の乗り間違いを防ぐとともに、大手町のような多数の路線が集まる複雑な駅においても、乗り換えをわかりやすくすることが急務でした。これをふまえて、1970年7月、交通局は営団と覚書を取り交わし、ラインカラーを定めました」(東京都交通局)

営団と都営の協力で実現

また、営団地下鉄の歴史をまとめた『営団地下鉄五十年史』には次のような記述がある。

地下鉄道網の整備が進み、千代田線が北千住・大手町間で開通した後の昭和44年度末には、営団が5路線、都営が2路線合計7路線約130キロが営業するようになった。これらの路線は複雑に絡みあい、たとえば大手町駅が3駅あるようになると、毎日乗る通勤者は別にして、駅構内や連絡通路で目的の場所に行き着くのが非常に難しくなる。〈中略〉駅員に聞こうとしても、省力化で改札にしか駅員が見当たらない状態で、これが新聞紙上でも取り上げられるようになった。
営団はこれに対し、まず昭和45年7月、東京都交通局と覚書を交わし、路線別の色彩を決定することにした。

都内の地下鉄ネットワークが急速に拡大した昭和40年代、複雑化する路線網のわかりやすさを求め、営団と都営の協力によって現在に至る東京の地下鉄のラインカラーは生まれたのだ。

『営団地下鉄五十年史』では、その後旅客案内サインシステムの導入や、シンボルカラーの積極的な活用について述べられている。現在も形を変えて使われている、ラインカラーを使った円形のサイン類なども、この流れの中で登場した。こういった経緯を経て、東京の地下鉄はカラフルになっていった。

では、各路線の色はどう決めたのか。東京メトロによると、色の基準は都営地下鉄側と重ならないよう協議しつつ、明るく識別しやすい色を配分し採用したという。また、当時すでに開業していた5路線(銀座線、丸ノ内線、日比谷線、東西線、千代田線)は、車両の色に合わせたラインカラーとした。

同社によると、各路線のラインカラーとその選定理由は以下のとおりだ。

●銀座線:オレンジ(ベルリン地下鉄を模範にした明るい黄色の車両の色から)
●丸ノ内線:レッド(地下鉄建設調査でロンドンを訪れた営団関係者が見た、イギリスのタバコの包装の色を参考にした赤い車両の色から)
●日比谷線:シルバー(初のステンレス車の車両の色から)
●東西線:スカイ(ステンレス車で他線と区別するために車体に取り入れた水色のラインから)
●千代田線:グリーン(ステンレス車で他線と区別するために車体に取り入れたグリーンのラインから)
●有楽町線:ゴールド(ラインカラー制定後に開業。他と重複せず、識別しやすい色。『有楽町』という語感から『都心のオフィス街』などをイメージ)
●半蔵門線:パープル(ラインカラー制定後に開業。他と重複せず、識別しやすい色)
●南北線:エメラルド(ラインカラー制定後に開業。他と重複せず、識別しやすい色。沿線に点在する庭園をイメージ)
●副都心線:ブラウン(ラインカラー制定後に開業。他と重複せず、識別しやすい色)

都営地下鉄はどう決めた?

一方、東京都交通局は色の選定理由を回答しなかった。ただし、重ならないように配慮していることはひと目見てわかる。交通局によると、「当時(1970年)、三田線は赤のラインカラーでしたが、赤を丸ノ内線に譲って青となり、車体の側面の帯も赤から青に変更しました」とのことである。現在三田線を走っている電車(6300形)には青に加え、細い赤のラインも入っている。


都営地下鉄浅草線のラインカラーは「ローズ」。新型電車5500形(中央)にもローズ色のラインが入っている(撮影:尾形文繁)

ちなみに都営地下鉄の色は、都営浅草線が「ローズ」、都営三田線が「ブルー」、都営新宿線が「リーフ」、都営大江戸線が「マゼンタ」である。

路線図を見て目立つのは、やはり赤系の色の路線だろうか。東京メトロ丸ノ内線、都営浅草線、都営大江戸線の3路線が赤系のラインカラーだが、色の違いははっきりしている。都営大江戸線(当時は都営12号線)の色はピンク色がかかっていて若干派手に思えるが、1986年制定とのことで、景気がよかった時代の決定ゆえかもしれない。なお、「13号線」である東京メトロ副都心線のラインカラーも、このときに決められた。

東京に限らず、複数の地下鉄路線がある都市では路線ごとにラインカラーを定めるのが一般的だ。日本国内では東京に次ぐ地下鉄ネットワークを誇る大阪の地下鉄(大阪メトロ)も当然ながら各路線にラインカラーがある。大阪の地下鉄で路線ごとの色が決められたのは1975年だ。

しかし、色の決め方は東京とちょっと違い、「意味付け」に力を入れて色が定められたようだ。公式資料にはないものの、石本隆一著『大阪の地下鉄』(産調出版)では、筆者の石本氏が大阪市営地下鉄(当時)に取材したものが記されている。一部を引用すると以下のとおりだ。

●御堂筋線:臙脂色(赤)
これは、動脈である。すなわち、人体図でも大事な血管である動脈は赤で示すためであろう。
●四つ橋線:縹色(青)
これは、御堂筋線より海側を走っているからだと言う。しかし、御堂筋線のバイパスでもあり、動脈に対する静脈ということも考えられないこともない。また、堺市の大浜まで特許を持ち、さらに、かつては海水浴で賑わった浜寺までの計画もあったからかも知れない。

このほか、たとえば紫色の谷町線は主な経由地である谷町筋に寺が多く、最高位の僧侶がまとう袈裟(けさ)の色から、緑色の中央線は大阪城公園の緑から……と、それぞれの色に意味があることが示されている。

色彩に見る東西の地下鉄の違い

こうしてみると、東京と大阪の地下鉄のラインカラーには単に東西の色彩感覚の違いだけではなく、2つの事業者が地下鉄を運営する東京と、単一事業者の大阪の違いも感じられる。

東京の地下鉄は、かつては営団と都営で一部のラインカラーが重なることもあったものの、協議の上で重複を避け、それまで親しまれていた電車の色を活かしつつ色彩感覚あふれるラインカラーを採用した。特に東京メトロ各線のラインカラーには、はっきりした色彩が目立つ。

一方、大阪の地下鉄は、ラインカラーが決まる前から各線で電車の色が違った東京と違い、かつては基本的に車両の色は同じだった。それもあってか、ラインカラーを決めるにあたっては当初から意味付けを重視し、路線の性格を「色」で示そうとしたのだろう。色調も東京よりややおとなしい印象だ。

今では当たり前となっている地下鉄のラインカラー。利用者なら、路線名とともにイメージが定着しているであろう各線の色彩だが、その決定にはさまざまな背景や狙い、工夫があったのだ。