企業が歩むストーリーは時計の針のごとく進みます。あなたの会社はいま何時ごろ?(イラスト:スクエア提供)

アメリカでは企業の経営者や経営陣が、ブログなどを通じてビジネスや経営哲学などについて語ることは多く、日本のビジネスパーソンにとって役立つ情報がたくさんあります。今回は、アメリカの決済サービス大手、スクエアの経営陣のブログから、ハイテク企業のストーリーを「時計」で表すかどうなるかという記事を紹介します。

企業が歩むストーリーは時計の針のように進む

ハイテク企業に関する世間の反応は時計のように規則正しく進み、企業のストーリーをあらかじめ決まった型にはめ込んでいきます。これに対して、広報などコミュニケーションの専門家はどう対処するべきでしょうか。

企業のストーリーは時計のように動く、そう教えてくれたのが誰だったのか覚えていませんが、私は当時グーグルで働いていました。経験がなかったのにもかかわらず、コミュニケーションチームで働くことになりました。

仕事を始めたばかりの頃、すでにグーグルにはコミュニケーションの専門家がたくさんいました。彼らから学べることは多くあり、私はなるべく経験者の話に耳を傾けることで新しいキャリアの道を進もうとしていました。中でも、この法則は強く印象に残っています。

企業が歩むストーリーは時計の針のように動きます。深夜の12時を起点にチクタクと針は進んでいきます。この間、メディアの意見や論調はポジティブなもの(日の出、正午)からネガティブなもの(夕暮れ、暗闇)に移り、時には、時計の針はまた深夜に戻ってきて、もう一度新しい1日を始めます。

この法則は、誰かの口からふとした拍子に出た言葉で、画期的な発言だったわけではありません。ベタなヒーロー映画の展開や、何かほかの物語になぞらえたような発言でしたが、腑に落ちるものを感じました。

数年かけて時計の文字盤を一つひとつ埋めることで、この法則をさらに発展させてみました。ハイテク業界にいると、この法則は役に立ちます。特にスタートアップの場合、時計は大抵「創業話」から始まって、典型的なシリコンバレー時間に沿って進んでいきます。

もちろんすべての企業に当てはまる訳ではありません。1時間、時には数時間先にスキップする企業もあれば、途中で行き詰まったり、膠着したまま(時計も壊れたまま)姿を消したりする企業もあります。

典型的な時間の進み方を把握することで、つまずく場所に気付きやすくなり、コミュニケーションの仕事がやりやすくなりました。

メディアに取り上げられるのは1時ごろ

12時:黎明期

真夜中の時点ですでにメディアの注目を集めているなら、(記事投稿サービスの)「ミディアム」を立ち上げたエヴァン・ウィリアムズのように、おそらくそれ以前に成功しているのではないでしょうか。ただ企業を立ち上げただけでは、人は興味を持たないものです。もし、この時点で何らかの理由で報道されているようなら、先行きはあまり思わしくありません。

あまりないことですが、もし本当に状況が悪ければ、ひと息に時計の針を一周りさせることができます。大抵は、傲慢な姿勢と人気者の力に頼りすぎたことでローンチ時には消費者の気持ちが冷め、さらに過剰な宣伝と資金調達で状況がさらに悪化すると、時計はすぐに一周します。

写真アプリの「カラー」がいい事例ではないでしょうか。同社は2011年3月に4100万ドルの資金を集め、24時間で時代の寵児から批判の対象となり、そして二度と表舞台に戻ってきませんでした。

1時:ニューフェイス

最初にまともにメディアに取り上げられるのは1時頃ではないでしょうか。適切な道を通っていれば、どの企業でも1時にはたどり着けます。すでに製品やサービスを売り出し、数人の著名な投資家から資金を集めているなら、記事の見出しはまずまずのはずです。

強い関心はないにしても、名前くらいは聞いたこと企業になっているはずです。この時点では重要なことです。今では時にいる多くの企業が、「ウーバーっぽい」サービスを提供しています。たとえば、レストラン版ウーバーと言われる「リザーブ」はちょうど1時に針が止まっています。

2時:時代の寵児

2時は本当の意味での到達点です。ここにたどり着けないスタートアップもたくさんあります。地球の引力から脱出するような勢いとは言わないまでも、盛り上がり具合はすさまじいはずです。ツイッターを見ても、テック関連のメディアで取り上げられる回数の増え方からもわかります。

大手企業は自社にも似たような製品があるのに、なぜそれほどヒットしないのか、どうしたら手っ取り早くアイデアをまねして自社のものにできるかと考え始めています。SXSWでブレイクした「ミーアキャット」2時に針を進め、その後に「ペリスコープ」がやってきました。

3時、4時にいるホットな会社は?

3時:業界の破壊者

3時に針を進められる企業はそう多くありません。飛び立った後に燃え尽きる企業もあれば、1時間スキップして先に進む企業もあります。3時になると物事は面白くなってきます。この時間で重要なのは、主要メディア(ニューヨーク・タイムズやブルームバーグ、ウォール・ストリート・ジャーナル)が関心を向けるようになるということです。大手メディアに大きく取り上げられることで、ストーリーの信頼性が高まります。

時計の針が3時を通過した企業には、エアビーアンドビーとスクエア、ウーバーがあります。空いている部屋やリビングのソファを誰かに貸したり、スマホでクレジット決済ができたり、アプリでハイヤーを呼べたり、どの企業のアイデアも目新しいものでした。しかし、企業が成長すると同時に、従来のビジネスモデルを壊す可能性を大いに持ち合わせていることが明確になってきます。

エアビーアンドビーはホテル業界に衝撃を与え、スクエアはクレジットカードを取り扱える事業者を増やし、ウーバーはタクシー業界を通過して交通手段そのものを変えつつあります。

3時にはさまざまな企業がいます。『フォーブス』誌によれば、「年間取引額1.4兆ドルに達するが、長年既存のビジネスモデルに変化のなかった住宅市場に大きな変革をもたらそうとしている」オープンドアは3時の中ではなかなか順調のようです。

4時:シリコンバレーでいちばんホットな企業

4時に針が到達する頃には、ビジネスも(報道も)拍車がかかり、その勢いは採用活動を後押ししてくれます。大抵の人は次の有名企業で働きたいと考えるもの。おかげで、シリコンバレーでいちばん注目の企業になれます。問い合わせ窓口にはメールが殺到し、有り余るチャンスに溺れそうになります。

そして、色んなことに手を付けるようになります。たとえば、話題性のある創業者のプロフィールや右肩上がりの業績グラフ、時には意図せずニュースを提供してしまうこともあります。BtoC向けのサービスを提供している企業なら、4時ならおそらく朝の情報番組に登場する頃ではないでしょうか。「スラック」ちょうど4時にいるようです。スラックは今や大人気です。

5時:急激な拡大と成長

5時が来たら、もう怖いもの知らずでしょう。企業は早いスピードで成長し、世間の評価もうなぎのぼりです。業績不振の報道? 5時の時点なら、この類の報道は見当違いでしょう。抜け目のない経営戦略に、堅実な業績予想、契約締結には当然のごとく成功するなど、完全に勝ち組です。ピンタレストやエアビーアンドビーは、5時に針を進めています。

6時をまわった途端、何かが変わる

6時:世界一の企業!

企業の歩む道では、成長や成功の後に摩擦と疑念がやってきます。それゆえ、山の頂上まで到達したら、もう降りる以外選択肢はありません。

6時1分:世界一の企業……?

6時1分から下山は始まります。険しい山道をどのように下っていくかは選択次第です。「開発に失敗」に、「収益化に苦労」、「社員の離職」、恐怖の「プライバシー問題」。企業ごとに6時1分時点で抱える課題はそれぞれ異なりますが、共通する点もあります。

7時:あそこの製品は最低

ツイッターはすでに時計の針が数周回っていますが、現在は7時にいて「ツイッターの未来はどうなるか」という問題に向き合っています。

8時:業績低迷

グーグルにいた頃、ユーチューブを8時から移動させるのに数年かかりました。(「ウォール・ストリート・ジャーナル」によれば、ユーチューブはつねに8時にいるようですが……)。フォースクエアは、2013年から8時で針が止まったままです。

9時:不安・疑念・不信

今私が働いているスクエアは、2014年半ばにそれなりの時間を9時で過ごしました。9時はすべての出来事、よいニュースでさえもが悪いようにとられます。ありもしないこと真実味を帯び、何をしてもまともには受け取ってもらえません。

10時:混迷期

10時は役員の退任や社内の「動揺」に関する報道に悩まされます。新規採用が難しくなることで、企業の成長、製品のローンチ、営業活動にも危機が訪れます。ソーシャルゲーム会社の「ジンガ」と「グルーポン」は両社とも10時で長い時間を過ごしました。今なら(アメリカ版2チャンネル)「レディット」が10時にいます。8時台をやり過ごし、今は社内の問題が利用者に波紋を広げているのです。

11時に戻ってしまったフェイスブック

11時:顧客情報の取り扱いに疑念

ここでは個人情報の取扱いが課題になります。11時は真っ暗な時間帯です。フェイスブックは11時を何度も経験しています。さかのぼれば2007年に、そして最近では2016年の大統領選をめぐって再びこの時間に戻ってきました。

11時59分:最低の企業

11時59分になると、批判は個人的なものになります。製品やサービスの利用を止めるといった声をよく聞くようになります。消費者は経営者の動機に疑問を呈するようになり、経営判断に悪意があるように受け止めます。まるでお金に取り憑かれた悪魔のような会社として見られます。一時期、ウーバーがそんな史上最適な企業とみなされていました。ネガティブ報道が次々と出ては、こきおろされていたのです。トラビス・カラニックCEOは辞任しましたが、次には何が起こるでしょうか。

12時:再生

復活ドラマはみんなが好きなものです。ウーバーも今ここにいるかもしれません。サティア・ナデラCEO就任以来、マイクロソフトの針は12時を指しています(2012年にブルームバーグに掲載されたツイッターの記事「The company that wouldn't die」は私がいちばん好きな復活ストーリーです)。

針が一回りして真夜中に戻ると、世間の評判もよい方に戻ってきます。戻ってこないなら、時計(つまりこの法則)の規則性は崩れ、時空間がゆがみ、ポジティブな評価とネガティブな評価の両方にさらされるようになります。

では、「シリコンバレー時間」を数回くぐり抜けた後に学んだことをいくつか紹介します。

1. 感情的にならない

感情的になる必要はありません。ネガティブなうわさ話はただのうわさ話でしかなく、何のためにもなりません。怒りをあらわにすると、過剰に自己防衛しているように見えます。過剰な反応は、ミスを引き起こすことになります。報道関係者はだた自分の仕事をしてるだけです。彼らに声を荒げても、何も意味はありません。ただ、攻撃を受け止めて、先に進みましょう。

2. 無理な方向転換をしない

6時以降の危機的状況の中で、何かをしなければと思うかもしれません。少なくとも役員は多少動揺しているかもしれません。簡単に忘れてしまいがちですが、何もしないことが何かをすることです。しっかりと立って、どんな報道にも備えておくようにしましょう。

あまりに早く状況を立て直そうとしないでしてください。リスクのある行動です。世間の評判は厄介なもので、企業イメージを作り上げ、すべてのニュースにそのイメージが付いて回ります。もし、イメージがネガティブなものなら、何をしても苦戦するだけです。単純な間違いは避けてください。

起きたことはほじくり返さない

3. 謙虚でいる

企業は完璧ではありません。人はミスをするものです。間違いを認めるのはおかしなことではありません。謙虚であることは時に課題の解決につながります。

何が今までと違ったのか。何を学んだのか。学びを次に活かせるのか。理性的な言動は信頼にもつながります。これからエネルギーを使う出来事はいくらでも起こります。もうすでに起きたことをほじくり返して、信頼をムダにするのではなく大切な財産として扱ってください。

4. 顧客と社員に注力する

2010年のニュースにはこんな記事が載っています。「グーグルはすでに終わっている」 「アンドロイドはiPhone(アイフォーン)の比ではない」「クロームの市場シェアは1ケタ台だ」「フェイスブックはGメールの対抗馬をローンチする」……。これらの記事の結末はすでにご存じでしょう。

報道内容を気にする代わりに、グーグルはユーザーに力を注ぎ、大きな勝負を仕掛け、さまざまな良質なサービスを提供しています。また、社内を快適で働きやすい場所に保つことで、従業員の満足度、仕事への情熱やモチベーションを維持しています。

スクエアでも、顧客に向き合うという同様のやり方を試みています。この取り組みは実際、うまくいきました。おかげで、メディアの反応にいくどとなく翻弄された、CEOのジャック・ドーシーも、このやり方を徹底的に信頼しています。くだらないうわさ話は無視をすればいい。もし、いいビジネスをしていて、時計との付き合い方も知っていれば、世間の評判は何とかなるものです。