20〜40代が発症のピーク。近年患者数が急増の「潰瘍性大腸炎」とは

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執筆:藤尾 薫子(保健師・看護師)
医療監修:株式会社とらうべ


今回お伝えする

「潰瘍性大腸炎(かいようせいだいちょうえん)」

は、大腸の粘膜に

びらん

(ただれ)や

潰瘍

(かいよう:上皮組織の欠損)ができる炎症性腸疾患の一つです。

慢性で原因不明の病気です。

最近は毎年約1万人が発症し年々患者数は増加しており、2016年度の統計によると、全国の総患者数は16万7872人とのこと。

若年層にとくに多いといわれるこの潰瘍性大腸炎。

どのような病気なのか、ご一緒に見ていきましょう。

指定難病97:潰瘍性大腸炎

潰瘍性大腸炎(Ulcerative Colitis:UC)

の特徴的な症状は、血便や粘血便、下痢、マヒ性のある持続的腹痛などです。

「1日に何十回もトイレに行きたくなる病気」という経験者もいて、夜中でも頻繁に症状が起こるので、睡眠障害やそれに伴うメンタル不調に陥る可能性もあります。

加えて、食べてもすぐに下痢になり排出してしまうため、栄養補給が困難になります。

栄養を血管に直接注入する静脈栄養(IVH)が必要になるとつらいものです。

また、重症化した場合、発熱や体重減少、貧血など全身症状も生じてきます。

直腸を中心に炎症が起こって、悪化すると大腸全体にまで拡がっていきます。

腸管以外に、皮膚や関節、目などに合併症が起こるケースもあります。

潰瘍性大腸炎が発病する原因は不明で、難病に指定されています。

要因として、腸内細菌の関与、免疫機構が機能しなくなる自己免疫反応の異常、食生活の影響、などが指摘されています。

さらに、家族内での発症が認められているため、遺伝の関与も考えられるのですが、目下のところ具体的な因子は特定できていないようです。

潰瘍性大腸炎は、遺伝的要因と環境的要因が複雑に絡み合って発病するとみなされています。

世界では欧米諸国に患者数が多く、とくに北米やアメリカの白人、ユダヤ人に多いといわれています。

日本での発症年齢は、男性20〜24歳、女性25〜29歳をピークに若年層から高齢者まで幅広く発病することが知られています。

発病に性差は見られませんが、喫煙者は発病しにくいという知見もあります。

潰瘍性大腸炎の治療

問診や血液検査に加え、X線検査や内視鏡検査を行って総合的な診断に至ります。

また、治療には内科的治療と外科的治療があり、内科的治療はおもに腸の炎症を抑え、症状をコントロールする対症療法が採用されています。

薬物療法では、炎症を抑えるために副腎皮質ホルモン(ステロイド薬)などが用いられています。

他には、血液中の異常に活性化した白血球を取り除くことを目的とした「血球成分除去療法」や、免疫調整薬や免疫抑制剤などが用いられる場合もあります。

一方、外科的治療は、内科的治療で効果が見られない、副作用により内科的治療が行えない、大量の出血がある、大腸の穿孔(大きな穴があいている)やがんの疑いがある、などのケースで、大腸全摘術が行われることがあります。

この場合、近年では小腸で便を溜める袋を作って肛門につなぐ手術が主流です。

人工肛門とは違って、手術後は普通の人と同じように生活を送ることができます。


潰瘍性大腸炎は、多くの患者が症状の改善や消失を果たすものの、再発する割合も高いのが現状です。

よって、症状の消失(寛解)を維持するための内科的治療が継続して行われます。

さらにごく一部で、発病から7〜8年経過すると大腸がんを合併する患者もいますが、ほとんどの患者にとって、病気の経過が生命に与える影響は健常人と同等とみなされています。


なお、潰瘍性大腸炎は指定難病に定められており、申請手続きを行い認定されると一部の治療に公費の助成が受けられます。

認定基準は、都道府県の保健福祉担当課や保健所などで確認できます。

日常生活を過ごすうえで注意すること

食事や運動、妊娠・出産など日常生活を過ごすうえで特別に注意する事項はありません。

ただし、睡眠不足や過労、暴飲暴食、激しい運動などは控えてください。

多大なストレスが再発のきっかけになる可能性もありますから、無理は禁物ということです。

規則正しく落ち着いた生活が求められています。

患者さんのための食事療法や患者会もあります。

患者さんの体験談を見ると、外出前にトイレの場所をチェックするなど、日常生活における工夫も述べられていますので、参考にしてみてはいかがでしょうか。


<執筆者プロフィール>
藤尾 薫子(ふじお かおるこ)
保健師・看護師。株式会社 とらうべ 社員。産業保健(働く人の健康管理)のベテラン

<監修者プロフィール>
株式会社 とらうべ
医師・助産師・保健師・看護師・管理栄養士・心理学者・精神保健福祉士など専門家により、医療・健康に関連する情報について、信頼性の確認・検証サービスを提供