世の中には、なぜか“女に嫌われる女”というものが存在する。

女がその女の本性に気づいても、男は決して気づかない。それどころか男ウケは抜群に良かったりするのだ。

そんな、女に嫌われる女―。
あなたの周りにもいないだろうか?

明治大学卒業後、丸の内にある証券会社に勤務する高橋太郎(28)は、ただいま絶賛婚活中。

さまざまな女性と出会う中で、太郎は女友だちから「見る目がない」と散々ダメ出しを受ける。

これまでに、笑顔で友達を蹴落とす女やSNSにすっぴんを投稿する女がいた。今宵、そんな太郎が出会った女とは・・・?




「太郎さんって、モテるってよく言われませんか?」

『ゴドノフ東京』での食事会。

太郎の隣に座った、大手日系メーカーで社長室秘書をしているという美緒がニコニコと話かけてきた。

「え?そうかなぁ。全然そんなことないと思うけど」

そう言いながらも、“モテそう”と言われて喜ばない男はいない。口元を緩めながら、太郎も美緒を褒める。

「美緒ちゃんもモテるでしょ?いい女オーラが満載だし」

ふんわりとしたニットに、タイトスカート。丸の内ではよく見るフォルムだが、モテ要素は満載だった。

「そんなことないですよ〜。ちなみに、太郎さんって、どのビル勤務ですか?私も会社が丸の内なので、近いかもです♡」
「そうなんだ!僕はねぇ…」

そんな会話で盛り上がり、“今日の食事会はかなり良いかも”なんて能天気に考えていた太郎。

この時はまだ、美緒の計算高さに全く気がついていなかったのだ。


既に女の計算高い発言あり。あなたはそれに気がつきましたか?


「そう言えば、太郎さんと宏美さんって、何友達なんですか?」

今日の会の主催者は、太郎と宏美だった。

昨年、友達の紹介で知り合った宏美とは妙にウマが合い、こうしてお互いの友達を紹介したり、飲みに行く仲だった。

「宏美さんは、私の憧れの先輩なんです♡お知り合いの方も多いし、お店も詳しいから、いつも宏美さんの後ろについていくばかりで・・・」

宏美は自らを“元港区女子”と公言している通り、無駄に顔が広く、そして自分では絶対に行けぬようなお店もよく知っている。

たまに困った時は宏美にこっそりレストラン情報を聞いているが、それがまた良いお店が多い。太郎は一人で“ヒロログ”と呼んでいるくらいだった。

「本当に、宏美のグルメ偏差値の高さには舌を巻くよ。そういう美緒ちゃんはどんなお店が好きなの?美緒ちゃんも良いお店たくさん知っていそうだけど」

可愛い女の子は誘いも多いため、いい思いもさせてもらえる機会も多い。同世代の男女で比べると、圧倒的に女の子の方が良いお店を知っているだろう。

-きっと、美緒もそんな思いをさせてもらっているんだろうなぁ。

太郎がそんなことを考えていると、美緒からは意外な一言が飛び出した。

「全くそんなことないんです。高級なフレンチとか、よく分からなくて・・・。実は、ちょっと汚いけど美味しい居酒屋さんとか大好きなんです」




「そうなの?美緒ちゃん、そんなお店もOKなの!?意外だなぁ。だけどものすごく好感度アップ!」

どれほどの高級店の名が挙がってくるのか怯えていた太郎だったが、美緒の発言に驚くと同時に“いい子だな”と思った。

美緒がよく行くというお店は、どこもリーズナブルでワイワイと飲めそうなところばかり。

たまに“綺麗なお店じゃないと嫌だ”と言う女の子がいるが、そういった子は少し敬遠してしまう。たとえ付き合ったとしても、高級店ばかり要求されたらたまらない。

-あれ?この子いい子じゃん・・・!!

太郎は、思わず身を乗り出した。

「あと、よく誤解されるんですけど、私意外に料理も得意なんですよ♪」

これまた、美緒の意外な一面に太郎は驚く。ところどころストーンがあしらわれたネイルはとても綺麗だが、あまり料理をしそうな感じではなかったからだ。

しかし、男はこういうギャップに弱い。

「へぇ〜それも意外!美緒ちゃんあまり料理とかしなさそうに見えるのに」

「ひどくないですかぁ?私、肉じゃがとか得意ですもん♡」

美緒の可愛らしい発言の数々にテンションが上がり、その日の2人はとても盛り上がった。

太郎は二人で盛り上がっている時は全く美緒の本性に気づかず、彼女の発言を鵜呑みにしていたのだった。


いくつ騙された?女の自己アピールの“嘘”探し


女から見た本音


「太郎ちゃんも、美緒にハマっちゃった?」

結局この日、3軒目にたどり着いた時には既に24時を回っていた。家が遠い美緒や明日早いという仲間たちは去り、宏美と一対一で飲む流れとなった。

宏美の発言に、太郎は照れながら頷く。

「バレた?美緒ちゃんっていい子だよね」

太郎が言い終わるかどうかのタイミングで、宏美はとびきりの笑顔で忠告する。

「友達として助言しておくけど…。美緒を下手なお店に連れて行ったら何を言われるか分からないよ。真剣に口説きたいなら、デートの時はちゃんとしたお店を選んだ方がいいと思う」

-な、なぜ・・・・?

声にならない言葉を太郎は宏美に投げかける。

そんな太郎を察したのか、宏美は美緒のInstagramの裏アカウントを見せてくれた。そこには“超高級店”のみが投稿されている上、お店の評価と、一緒に行った男性の評価がかなり辛口に記されている。

「“居酒屋が好き”は、敢えてお金のかからない女の子をアピールするためだけであって、実際にそんなお店に連れて行ったら裏で何言われるか分からないよ」




動揺する太郎に、宏美は追い打ちをかける。

「太郎ちゃんって、女性に料理を求める人?」

「ま、まぁ出来ないよりは出来た方が嬉しいかなぁ」

「ふ〜ん。前にホムパで美緒の包丁さばきを見た限り、料理をしている風には見えなかったけどなぁ。ま、そういう私は一切料理出来ないから言う資格ないと思うけど。ちなみに、“肉じゃが”作ってもらって本当に嬉しい?カレーとかでよくない?」

宏美の妙に的を射た指摘に、太郎は黙って頷く。

男性は肉じゃが好きと言われることが多いが、言われてみればたしかに肉じゃがよりもっと分かりやすい料理の方が好きだ。

「あと “料理が得意です♡”って言う子よりも、 “料理が好きです”と言う子のほうが、料理上手の割合が高い気がするのは私だけなのかなぁ」

そう言われてみれば、“料理が得意”と言っている女性に限って、見栄えやインスタに載せるために作った料理の写真を撮ることに必死で、料理自体は意外に普通だったことを思い出す。

得意と言ってしまうことによって自らハードルを上げているのかもしれない。

「でもさ、でもさ。女性陣はみな会社名とかを聞きたがったけど、美緒ちゃんはガツガツしていなくて良いなぁと思ったんだよね!」

計算高いのかもしれない。
料理だって、本当はできないのかもしれない。

それでも、会社名などにがっつかない美緒はやっぱり良い子なのではないかと、太郎は希望を捨てていなかった。

「太郎ちゃんってさ、バカなのかお人好しなのかよく分からないよね・・・。直接会社名を聞かなくても、業種とビル名さえ分かれば会社名なんてすぐに分かるから。にゃんにゃんOLのデータバンク、なめないほうがいいよ♡」

-なんのデータバンクなんだよ!怖いよ、そのデータバンク。

そう心の中でツッコミを入れながらも、今日もまた女の計算を見抜けなかった太郎は、目の前でキラキラと輝くバカラのグラスに入ったウィスキーを飲み干したのだった。

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一見清楚、なのに中身は一番腹黒い女