関連画像

写真拡大

ライターの姫野桂さん(31)は今春、発達障害だと診断された。当時を振り返り、「ショックでした。ただ、これが私の『生きづらさ』の原因だったのかと納得する気持ちもありました」と語る。

姫野さんは、自身が当事者だとわかる前から、東洋経済オンラインで発達障害についての連載を担当していた。インタビューした当事者は22人。このほど、その連載と自身の体験談をまとめた初の単著『私たちは生きづらさを抱えている』(イースト・プレス )を出版した。

発達障害は一見してわからないこともあり、ただの『困った人』と思われやすい。当事者の実情や本音が、定型発達(発達障害でないこと)の人に伝われば、私も含めて生きづらさの緩和につながるのではないかと期待しています」(姫野さん)

●「繰り上がりがあると、今も暗算ができない」

姫野さんは小さい頃から本を読むのが好きだった。学校の成績は良い方だったが、算数、特に足し算、引き算が苦手だった。「今でも2桁以上の繰り上がり、繰り下がりのある足し算と引き算の暗算ができません」と言う。

発達障害は、生まれつき脳の発達が通常(定型発達)と異なることに起因する。自閉症スペクトラム障害(ASD)、注意欠如・多動性障害(ADHD)、学習障害(LD)の大きく3つに分けられ、姫野さんはLDだった。読み、書き、算数などのうち、特定のもの(姫野さんは算数)の習得・使用に困難のある状態のことだ。

しかし、姫野さんが子どものころ、「発達障害」は、まだまだ一般に知られていなかった。元塾講師だった父親は、姫野さんに何度も計算ドリルをやらせた。しかし、うまくいかず、怒鳴りつけられた。

「いくら勉強してもできないわけです。下半身不随で車椅子に乗っているのに自力で歩けと言うようなものです。それがわかっていれば、あんなに算数の勉強で苦しまなくてもよかったのに…」

●自己肯定感を育みづらい幼少期…生きづらさが増す要因に

姫野さんは、LD以外にも、ASDとADHDの傾向もあると診断されている。それぞれ、冗談を真に受けてしまったり、優先順位がつけられなかったりする傾向があるとされる。姫野さんは、自営業になるまでは集団になじめず、いつも「浮いている」と感じていたそうだが、こうした傾向も「生きづらさ」につながっていた。

取材した当事者も、ほとんどは大人になってから発達障害がわかった人だった。小さい頃、診断を受けていたのに、親が教えてくれなかったという人もいた。

結果として、本人は苦手なことに正面から立ち向かい、失敗を繰り返す。周りも「能力」や「努力」の問題だと捉え、適切なサポートができない。ただでさえマイノリティで生きづらいのに、自己肯定感が下がり続け、より生きづらくなる構図がある。

発達障害はトレーニングや薬によっても、症状を緩和できる可能性がある。姫野さんのように、得意分野で才能が開花することもある。

「(発達障害に限らず)生きづらさの原因は早くわかるに越したことはない。わからないと選択肢すらありませんから」と姫野さんは言う。

取材した人の中には、うつ病や依存症などの「二次障害」に苦しんでいる人もいた。自己肯定が低下する中で、「自分はダメ人間だ」「怠け者だ」という「認知の歪み」が起き、より生きづらさが増してしまうことがあるという。

●誰もが抱える「生きづらさ」…「つらさ自慢」より「歩み寄り」を

「生きづらさ」は発達障害に限らず、誰しもが少なからず抱えている。そもそも「グラデーション」と表現されるように、発達障害の当事者の考え方や症状も十人十色だ。だからこそ、発達障害のつらさを発信することで反感を買ったり、「つらさ自慢合戦」に発展したりすることがある。

姫野さん自身も、一度この罠にかかった。まだ発達障害と診断される前、ある当事者の話に「努力が足りないのではないか」と思ってしまったのだ。自分も同じようなことで悩んでいると感じたのが理由だった。

しかし、自身も発達障害と診断され、過去の苦労が、努力ではどうにもならなかったことを知ったとき、「人の苦しみは本当には理解できない」と思ったという。「だからこそ、歩み寄りが大切だと思うんです」。姫野さんは強調する。

人の生きづらさに「そんなのは大したことない」と返す社会よりは、それぞれの生きづらさを受け止めてあげる社会の方が生きやすいーー。

本の副題は当初、「発達障害じゃない人に『知ってほしい』当事者の本音」の予定だったが、「伝えたい」に変えた。22人と自分の「生きづらさ」に、読者が歩み寄ってくれることを期待しているという。

(弁護士ドットコムニュース)