日本が後れを取り戻すために総デジタル化が必要だ(写真:BeeBright / PIXTA)

「2030年GDP1000兆円」シナリオを提言。「AI×IoT×5G」で可能と説く。その真意を、『全産業「デジタル化」時代の日本創生戦略』を書いたブロードバンドタワーの藤原洋会長兼CEOに聞いた。

「2030年GDP1000兆円」シナリオ

──日本のGDP(国内総生産)1000兆円は夢ではない?

産業のデジタル化を例外なく一気に進める必要がある。日本全体であらゆる産業でのデジタル化(デジタルトランスフォーメーション)ができれば、後れは一気に取り戻せる。GDP1000兆円は達成可能だ。情報通信ばかりでなく、流通、農業、金融、医療・福祉などでのビジネスに加え、2030年には生活も一変する。

──総デジタル化ですか。

今やIoT(モノのインターネット)、ビッグデータ、AI(人工知能)という技術革新の「三種の神器」がそろった。あらゆる企業経営者に、この神器を駆使してデジタル化しようと言いたい。それはベンダーがやり、自分たちは発注していればいいでは、済まない。中でも金融機関は、情報システム部門の役割が軽すぎる。なぜITベンダーに丸投げ発注なのか。経営者は誰もが意識改革すべきだ。

──デジタル化も第3フェーズに入っているとか。

第1フェーズは業務ツールの一部のデジタル化、第2フェーズは業務そのものの一部をデジタル化するものだった。そして第3フェーズでは業務全体がITにリプレースされる。銀行業務でいえば、スマートフォンさえあれば店もATMもいらない。決済も送金もでき、現金がなくても取引は可能に。

──モノづくりでは。

メーカーの第3フェーズはサプライチェーン・マネジメントの次世代化に当たる。たとえば設計。CAD(コンピュータ利用設計システム)ツールを使い、機械設計をするとする。エンジンを例にとると、部品の設計図面を書くと、即時に部品表ができ、受発注システムにもつながる。各部品メーカーと連携ができていて、最後の検査段階のデータをどう提出したらいいのかも、設計時点からネットワークで一貫してできてくる。そして自動的に発注もされる。

──今はできていませんね。

日本の機械設計を例にとると、CADツール、シミュレーションツールは、ほとんどが外国製。主要自動車メーカーでもそう。高いおカネをドイツやアメリカの会社に払っている。ソフトウエアに日本製はほとんどない。

サプライチェーン・マネジメントを一気にリードしたのはドイツのSAP。設計ツールはじめ製造業において重要なポジショニングを担っている。日本のIT会社はできていない。ビジネスパーソンの机上のツールはマイクロソフトだったし、スマートフォンはアップルかグーグルのアンドロイド。日本はソフトウエアのプレゼンスをほとんど発揮していない。

ハードを作っている側だからわかることも

──ソフトウエアは弱いまま。


藤原洋(ふじわら ひろし)/1954年生まれ。京都大学理学部卒業。東京大学博士(電子情報工学)。日本アイ・ビー・エムほかでコンピュータネットワークの国際標準化などに従事。1996年にインターネット総合研究所を設立。グループ企業のブロードバンドタワーを上場させた(撮影:田所千代美)

少なくとも「モノづくり日本」を押し出しているならば、モノづくりのソフトウエアツールでプレゼンスを発揮すべきだ。日本の製造業の強さは生産技術にとどまった。ソフトを重視してこそのデジタル化なのだから、日本が強い技術分野で早急に独自に開発・育成を行う必要がある。

──逆にインターネットが根底的な変革を強いているのですね。

IoTを通じてあらゆる分野で自律・分散・協調型が促進される。たとえばテクノロジー。トヨタ自動車がインターネットにつながったコネクティッドカーを世界の主戦場と見ているが、まさに正しい方向といえる。

重工業でいえば、アメリカのGEと日本の会社とではデジタル力が圧倒的に違う。一例を挙げるとジェットエンジン。GEはセンターを作り、世界中のジェットエンジンがどういう状況にあるか、各エアラインに燃費情報を提供し始めている。

飛行機メーカーにエンジンを、電力会社に発電機を納めたら「はいおしまい」ではなく、その先にいるユーザーや消費者はどんな使い方をしたらいいのか情報提供をする。ハードウエアを作っている側だからわかることが豊富にある。

──インターネットが日本企業のピンチをチャンスにする?

IoTのもたらす力を活用するのだ。何しろインターネットの接続数は今や指数関数的に伸び始めた。対象が人間だけでなくなったからだ。2020年には人口の7倍に相当する500億の接続がなされるとの観測がある。インターネットの最多ユーザーになったIoTのインパクトは強烈だ。

日本にとってチャンスなのはIoTには言語の障壁がないことだ。インターネットサービスで米国や中国と競争してもなかなか勝てない。言語圏の人口に違いがあるからだ。だが、モノは言葉を話さない。特にIoTはモノづくりに近いところで大いに有効だ。世界とIoTを基盤に十分戦える。

5Gの世界で暮らしはどう変わるか

──情報通信の共通基盤も高度化します。


2020年に本格化する。超高速、大容量の5G(第5世代移動通信システム)への移行だ。1ミリ秒程度の「超低遅延」に加え、1平方キロメートル内で100万台が同時接続できる。それで生活や暮らし向きはどう変わるか。ランダムに挙げれば、スポーツの楽しみ方や救急医療、買い物、防災・減災の仕組み、地方での暮らし、仕事のやり方、さらには車のナビゲーションなどで大きく変わることになる。

──日本の技術が生きる?

一例を挙げると、5Gはスマートフォンよりさらに使用周波数が高く、シリコン素材では追いつかない。化合物半導体の作り方が変わってくる。5Gデバイスはノーベル賞を受賞した青色発光ダイオードの技術が生きる。5Gのデバイス生産を支えることになる。

──企業、生活全般にIoTが浸透するわけですね。

トヨタ、キヤノンを先頭に2020年ごろまでにスマート工場が作られるだろう。中小企業も含めて今直ちにスマート工場化に着手したほうがいい。人手不足でもあり、農業や流通、金融を含め、全産業はスマート化すべきだ。

──グループ企業のインターネット総合研究所をこの8月にイスラエルのテルアビブ証券取引所に上場させました。

世界のイノベーション拠点はシリコンバレー一極集中から3極化しつつある。イスラエルは中国・深圳と並ぶ3極の1つ。資金調達に加え、開発の「アンテナ」にもなる。