火星への旅は飛行士の胃腸に響く?宇宙放射線がDNA傷め、消化器官にガン性腫瘍

昔からSF小説や映画の中では宇宙を星から星へと旅するシーンが幾度となく描かれて来ました。しかし、現実に地球を離れて深宇宙へ出るとなると、越えなければならないハードルがいくつもあります。たとえば、宇宙を飛び交う高エネルギーの放射線である宇宙放射線もそのひとつ。地球上では、太陽風や地球の磁場、大気が宇宙放射線の大部分を遮る役目を果たすため、われわれは何も気することなく生活できます。しかし、宇宙船に乗って深宇宙へと飛び出した場合、飛行士たちは太陽や銀河系、またはさらに遠くから飛来する放射線に曝されることになります。

研究者たちは、この宇宙線が飛行士に与える影響について長年研究を重ねてきました。そして米ワシントンD.Cにあるジョージタウン大学メディカルセンターの研究者らによる最新の報告では、飛行士が銀河系からの宇宙線(GCR)に長く曝された場合、胃腸の機能に影響を与えることがわかりました。特に胃と結腸部分に影響が出やすく、進行すると細胞の変性が起こりガン性腫瘍に成長するとのこと。

研究チームのリーダーKamal Datta氏は「銀河宇宙線を形成する鉄やシリコンの重粒子放射線(重イオン線)は質量が高く、地上でみられるX線やガンマ線のような質量を持たない電磁放射線、または宇宙線の大部分を占める陽子などに比べて有害だ」と説明します。

研究では、マウスを低い線量の鉄イオン線に曝して行われました。その結果、マウスは食物から栄養を十分に摂取できなくなり、癌性のポリープを発症するに至りました。Datta氏は鉄イオン線が胃腸細胞のDNAを損傷し、これが「酸化ストレスや炎症関連分子を生み出して、さらに損傷を引き起こす」と付け加えました。一方で、ガンマ線を照射したマウスにはこのような兆候はみられなかったとのこと。

実験の結果から、宇宙線が飛行士に重大な健康被害をもたらす可能性があることはわかりました。では、それを防ぐにはどうすればよいのでしょうか。

現在の遮蔽技術では深宇宙に出る飛行士をこのような放射線からまもれないとされます。したがって、火星などに向け、長期に渡って深宇宙へ飛行士を送り出すミッションが始まる前には、各国の宇宙機関や宇宙開発関連企業は宇宙線を船内に透過させない遮蔽技術を開発する必要があります。内臓を宇宙線から保護する飲み薬などの開発も必要かもしれません。

Datta氏は「われわれはいくつかの重要な臓器に宇宙放射線が影響することを確認したが、同様の損傷反応はもっと多くの臓器で起こると考えている」と述べ「飛行士を守るあらゆる手段をとれるようにするため、宇宙線の影響を事前に理解することが重要だ」と語っています。