タイタンの塵嵐のイラストイメージ。(C)NASA / ESA / IPGP / Labex UnivEarthS / University Paris Diderot

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 土星探査機カッシーニ(2017年運用終了)のデータから、土星の衛星であるタイタンの赤道付近において巨大な塵嵐が巻き起こっていることがわかった。このような嵐が観測されたのは、太陽系においては地球、火星に次いで3番目である。地球によく似ていると言われるタイタンだが、これによってその類似性がより高まった。

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土星“最大の月”タイタンとは

 タイタンは大気と豊富な炭素化合物を持つ衛星としてよく知られている。大気は分厚く97%が窒素、2%がメタンからなり、地球と同じような気象現象や地形も多く観測されている。太陽からの距離はあるものの、わずかな太陽光と大気中のメタンの相互作用により有機分子が形成され、それが大きくなり有機塵となる。そうして降り積もった塵によって赤道付近には砂丘が見られるのだ。太陽から遠く気温が低いため表面に液体の水が存在することはできないが、代わりにメタンの雨が降り、メタンやエタンの川や湖が存在する。季節ごとに天候が変化し、春分には大規模なメタン雲の形成も観測されている。

■赤外線画像に写し出された輝き

 今回カッシーニが春分に撮影した赤道付近の赤外線画像に輝点を発見した時、観測チームの天文学者でパリ・ディドロ大学のセバスチャン・ロドリゲス氏は、これまでと同様メタンの雲であると考えた。しかしこれまでのカッシーニによる観測結果から、この地域の、この時期に発生するメタン雲とは高度がはるかに違うことが判明、メタンの雲であることは物理的に不可能であるとした。それでは一体何なのか。氏らはさらに赤外線画像を調査、そこに見える輝きが5週間以上続いたことからタイタン地表の凍った溶岩やメタン雨である可能性を除外、少しずつ核心に迫っていった。

■唯一の可能性

観測された高度は地表にほど近く、さらに「観測されたモノ」はその特徴から大気であることがわかっていた。このことからロドリゲス氏らは有機粒子による薄い層が形成されている可能性に辿り着いた。さらにこれらが赤道付近の砂丘のすぐ上部に位置していたことから、砂丘の砂が巻き上げられたことによってできた塵の層であると結論付けた。これによりタイタンでは塵嵐が発生していること、砂丘に降り積もる砂の可動性、そして赤道付近を覆う砂丘が現在も活発であり変化し続けていることが判明した。

 今回塵嵐を巻き起こした強力な風は、地球や火星と同じような何かしらの効果をタイタンにおいて引き起こす可能性があり、今後の研究に新たな発見の期待を感じさせるものだ。未だ仮説の域を出ていないものの、タイタンには地球の生命とは異なる「水によらない生命」が存在するのではないかとも推測されている。土星の陰に隠れながらも非常に魅力的なタイタンの今後が見逃せない。