この日米首脳会談の席上のことを、田中は帰国後、秘書の佐藤昭子に「ニクソンは、オレを隣にすわらせてくれたぞ」と、いかにも嬉しそうに述べている。田中にとっては、米側が“ポスト佐藤”は田中と踏んでいるとの印象を得たことにほかならなかった。

 訪米の最後の日はロサンゼルスだったが、こんなエピソードがある。前出の同行記者の弁である。
「同行記者団はロスの夜をストリップ劇場で楽しんだのだが、踊り子の艶技“泡踊り”が佳境に入った頃、なんと田中、福田の両人が秘書官を連れて入ってきた。そのあと、田中の知人が本場の無修正ポルノ映画に誘ったんだが、福田は『行こう、行こう』、田中は『イヤだ』で、結局、これは実現しなかった。もともと田中は“下ネタ”嫌いで知られていたが、両者の来たるべき総裁選への緊張感の違いも垣間見られた」

 なるほど、帰国後の両者の動きは大きく異っていた。田中は周到の構えで多数派工作に動き、政権構想を練り上げていた。対して、福田の動きは鈍かった。まさに「動」と「静」、田中の凄まじい動きが展開されることになる。
_(敬称略/この項つづく)

***********************************************
小林吉弥(こばやしきちや)
早大卒。永田町取材49年のベテラン政治評論家。抜群の政局・選挙分析で定評がある。著書に『愛蔵版 角栄一代』(セブン&アイ出版)、『高度経済成長に挑んだ男たち』(ビジネス社)、『21世紀リーダー候補の真贋』(読売新聞社)など多数。