発売3年で改良したトヨタ「シエンタ」(写真:トヨタグローバルニュースルーム)

トヨタ自動車は、同社最小のミニバン「シエンタ」を9月11日にマイナーチェンジ(一部改良)して発売した。

今回のマイナーチェンジでは、フロントグリルをはじめとするデザインの変更のほか、従来の3列シート車(6人または7人乗り)に加えて、2列シート5人乗り仕様を新たに設定、安全装備も充実した。車両本体価格は177万6600〜253万2600円(車いす仕様車除く)。販売目標は月間7600台に設定した。


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2代目となる現行型が発売されてから約3年が経過したこともあり、最近の日本車のモデルサイクルから言えば、マイナーチェンジは常識的なスケジュールと言える。

現行シエンタの販売は好調だ。日本自動車販売協会連合会(自販連)によればシエンタは、今年1〜6月(上半期)に4万5417台(月間平均7569台)を販売し、乗用車ブランド通称名別新車販売ランキング(軽自動車除く)で7位に入っている。

なので小さな改良にとどめてもいいような気がしたが、内容を見るとマイナーチェンジとしては大掛かりであると感じた。

カラーコーディネートは落ち着き方向にシフト

まず目立つのは、これまでブルーやブラウンを用意していた前後バンパーやドアミラーのアクセントカラーが黒だけになり、代わりにルーフを塗り分けた2トーンが新たに設定されたことだ。

路上で現行シエンタに遭遇することは多いが、アクセントカラーにブルーやブラウンを選んだユーザーはわずかだ。ボディカラーも、デビュー直後はイメージカラーのイエローを頻繁に見掛けたものの、最近は白やシルバーなど落ち着いた色がほとんどという印象がある。

「スニーカーをモチーフにしたアクセントカラー」という提案は、ユーザーにはなじまなかったのかもしれない。そこでこの部分を黒に統一し、代わりにルーフの塗り分けを用意したものと思われる。

イエローなどのビビッドなボディカラーは残るが、ルーフの色は黒あるいはブラウンで、ここでもカラーコーディネートが落ち着き方向にシフトしている。

現行シエンタは、一般的な乗用車としての用途以外で使われることも多い。

ひとつは福祉車両だ。トヨタは近年この分野に注力しており、現行シエンタについてはルーフの改造なしにリアゲートから車いすでアクセスできる設計としたうえで、車いす仕様車の中には改造車ではなく型式指定を受けたグレードを用意するなど、かなり力が入っている。

もうひとつはタクシーだ。地方都市ではシエンタのタクシーを見掛ける。筆者も8月に関西地方のある街を訪れたとき、JRの駅前でタクシー乗り場に並んだところ、やってきたのはシエンタのタクシーだった。

トヨタは昨年秋、新型タクシー車両の「JPN TAXI」を発売したが、価格は300万円以上と高めだ。それまでのタクシー専用車だった「コンフォート」はすでに生産中止になっている。そんな中でJPN TAXIのベースでもあり、トヨタの5ナンバー車ではコンパクトでありながら車内空間の広いシエンタを選んだのだろう。

こうした用途に用いられる車両は、黄色いボディカラーやブルーのアクセントカラーを選びにくい。事業所や会社の名前をボディサイドに記す必要があるし、タクシーであればコーポレートカラーに塗ることも多い。白などを選ぶユーザーが多数派になることが予想できる。

代わりに用意されたルーフ塗り分けの2トーンカラーは、軽自動車を含めて多くの車種に用意されており、おなじみのカラーコーディネートである。新しさを出しつつ多くの人に受け入れられるのではないだろうか。

さらにマイナーチェンジではフロントマスクも一般的になった。こちらもより幅広いユーザーに受け入れられそうだ。

2列シート5人乗りが追加

もうひとつ今回のマイナーチェンジで特筆すべきは、「ファンベース」というサブネームを付けた2列シート5人乗りが追加されたことだ。

シエンタは2003年に発表された初代から、全長4m台前半、全幅1.7m未満というコンパクトなボディサイズでありながら、3列シートを用意していることがアピールポイントだった。

このクラスで最初の3列シートを備えたミニバンは、ホンダ「フリード」の前身である「モビリオ」で、続いて日産自動車が2代目「キューブ」に3列シートの「キューブキュービック」を追加した。

初代シエンタが登場したのはこの直後なので、トヨタのオリジナルではないが、モビリオ〜フリードやキューブが2列シートを並行して用意する中、トヨタは「ファンカーゴ」の後継として「ラクティス」を用意しており、シエンタは福祉車両を除き3列シート専用であり続けた。

2世代続いたラクティスは2016年に販売を終了し、代わりにトヨタグループのダイハツ工業が生産する「ルーミー」「タンク」に切り替わっている。

日産「ノート」の快進撃を止めたい

ではなぜ今回、シエンタに一般向けの2列シートが設定されたか。理由のひとつに前述のタクシーのような需要があり、一般ユーザーでも3列シートのミニバンにこだわる人が減りつつあることのほかに、日産「ノート」の快進撃を止めたいという気持ちがあるのではないかとも想像している。

ノートはシエンタよりも背が低い、いわゆるハッチバックのコンパクトカーだが、2600mmというクラス最長のホイールベースを生かしたキャビンの広さが自慢のひとつになっている。日産のニュースリリースによれば、販売の約7割は1.2L3気筒エンジンで発電機を回し、その電力で走行する「e-POWER」になっている。

2016年11月にこのe-POWERが投入されると、同月の新車乗用車販売台数ランキングで、日産車では「サニー」以来30年ぶりのトップを獲得した。するとトヨタは翌年、ライバルのヴィッツとアクアを相次いでマイナーチェンジ。ヴィッツには新たにハイブリッド車を設定した。それでもノートは何度か月間首位に立ち、年間では「プリウス」に続く2位につけた。そして今年上半期には、プリウスの人気が落ち着いてきたこともあり、ベストセラーになった。

ルーミー、タンクにはハイブリッド車はなく、アクアやヴィッツは改良を重ねているものの、ライバルを圧倒するには至っていない。一方のノートは広さと燃費の良さを生かし、近年はタクシーにも起用されている。シエンタへの2列シート追加は、こうした状況も関係しているのではないだろうか。

価格はノートやアクアに及ばないものの、3列シートより安い設定となり、ハイブリッド車のJC08モード燃費はリッター28.8kmと少し向上した。2750mmのロングホイールベースと1675mmの全高が生み出すキャビンは、5ナンバーの5人乗りとしてはかなり広い。

もちろん純粋な販売台数で言えば、登録車より軽自動車のほうが多い。こちらは全国軽自動車協会連合会の統計によると、ホンダ「N-BOX」が2015年から3年連続で年間最多台数をキープしており、安泰という状況だ。

しかしトヨタは登録車の分野で、「カローラ」が33年間にわたり販売台数首位を守り続け、2002年と2008年にホンダ「フィット」にその座を奪われたものの、それ以外はカローラやプリウスなどが頂点に立ち、現在に至っている。その座を守りたいという気持ちになるのは当然ではないかと思っている。