日本代表の守護神としてW杯に3大会連続で出場した川島【写真:松橋晶子】

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独占インタビュー後編、今振り返るW杯と“まだ見ぬ日本の守護神”に願うこと

 サッカーのワールドカップ(W杯)ロシア大会で16強入りを果たした日本代表。全4試合にフル出場し、ゴールマウスを守ったのがGK川島永嗣(ストラスブール)だった。

 ティボ・クルトワ(ベルギー)、ジョーダン・ピックフォード(イングランド)ら上位各国には絶対的な守護神が君臨し、GKの存在が脚光を浴びた大会。日本にとって課題となるのは、将来的なGKの裾野拡大だ。少年サッカーでは「やりたい人がいないから」が理由で、背が高い子供がGKを任されることも珍しくない。

 日本代表歴代最多タイのW杯出場11試合を誇る守護神が「THE ANSWER」の独占インタビューに応じ、「『部活と勉強』と7か国語を話すまで」を語った前編に続き、後編ではW杯を振り返るとともに「やりたい子がいない日本のGKと未来」について思いを明かした。

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 日本中が熱狂したロシアW杯。前評判を覆し、16強進出を果たした一方、決勝トーナメント1回戦のベルギー戦では2-0から逆転負けを喫した。川島にとって、3度目の夢舞台はどんな記憶として刻まれたのだろうか。改めて聞いた。

「悔しさを挙げれば、キリがない。それが4年に一度しかないW杯の大きさを意味していると思う。『悔しい』にもいろんな形があるけど、この悔しさは一生、常に持ち続けなければいけない感情。その中でW杯に3回行かせてもらって感じたのは、サッカーが持つスポーツとしての魅力です。

 一つのスポーツで日本はもちろん、世界がこれだけ一つになれるというのはそうあることじゃない。それをピッチの上で、本当の意味で体感させてもらったのは本当に素晴らしい経験になった。そういうスポーツの価値がサッカーを通して広がっていってほしいと思った大会です」

 ロシアで過ごした1か月で一番忘れられない風景を問うと「ベルギー戦で2-0になった瞬間」を挙げた。「今までにない“日本サッカーの先”を見た気がする。今まで代表に関わらせてもらった中でも見たことがない景色でした」と語る。

 しかし、W杯8強という日本サッカーが誰も見たことはない景色は、ベルギーの逆襲によって閉ざされた。近くて遠かった“日本サッカーの先”を一瞬でも見ることができたからこそ、次なる課題も感じている。

「W杯で『ベスト8』『ベスト4』に行くと、口に出すことは分かりやすいし、簡単だけど『ベスト8』『ベスト4』になることの偉大さを改めて感じた大会。偉大なものに挑戦するんだという大きな志をもう一度、持っていかないといけないと思う。今回、W杯を通して見せられた日本人らしさ、日本人だからできることを、世界基準の中で発揮していくことは次につながると思います」

課題となるGK強化、今問いたい「GKの醍醐味って何ですか」

 海外で長年、プレーしてきた川島は「日本人らしさ」について「緻密さ、繊細さ」と考えるが、大事なことは「それを世界基準の中でできなければ、意味がない」と言う。「どれだけダイナミックな形で、表現できるかというのが本当の意味での日本らしさ。そこを自分たちは目指していかなければいけないことだと思います」と語った。

 川島にとって10年南アフリカ大会に続き、2度目の16強進出。同じ結果であっても、内容は違ったという。

「自分がどう思うかは正直、考えてない。チームを見渡した時、あの時と今回の16強は全く違うものだった。それは1次リーグを突破した時の心意気、志、雰囲気を見ていると、今回は『W杯はここからだ』というものがチーム全体に凄くあった。その点において、16強という結果は同じでも大きな差があると思います」

 嬉しさも悔しさも味わった今大会。上位進出国には絶対的な守護神が君臨し、例年以上にGKの存在がクローズアップされる大会となった。FWは10本中9本ミスをしても1本でゴールを決めれば称えられる。しかし、GKは9本ファインセーブをしても1本ミスをすれば責められるポジション。日本サッカーにとってもGKの裾野を広げることが不可欠となる。

 だから敢えて今、日本の守護神に問いたい。GKの醍醐味とは何か。

「GKは一つのミスがそのまま失点に直結してしまう。(守備陣の)最後のプレーヤーなので、いろんな責任を背負わないといけない部分もある。でも、一本のセーブでゲームの流れを変えられたり、試合を勝利に導くことができたりするのは最大の喜びだと思うし、背負っている以上のものがついてくるのがGKの醍醐味なんだと思います」

 自身がGKになったきっかけも単純な動機だった。「シュートを止めるのが楽しい」――。その感情ひとつだけ。「小さい頃、友達と家の前でサッカーをやっていた時もコンクリートの上でシュートを止めるのが大好きだった。それが同じような感じで今も続けています」と明かす。GKならではの特徴もある。

「ポジション柄、味方と離れているし、孤独なポジション。周りと感情を共有できない部分もあるし、それでも戦っていかなきゃいけない。だから、GK同士は仲が良かったりする。色々なことを考えさせられる場所で、他のGKを見ても同じように俯瞰的に物事を見ているなとGKだから感じることある。代表の東口、中村と話していてもそう。GKだからこそ感じる人生観もあるのかなと」

 フィールドの最後尾に位置し、味方がゴールを決めた後も一緒に喜ぶことはない。自身がW杯で最も印象に残ったベルギー戦の2-0の瞬間ですら「GKはそんなに喜んでいられない。2-0になった時点で、どうキープしなきゃいけないかに頭は切り替わっていたので、他のことを考えている余裕はなかった」と振り返る。それもGKが背負っているものの大きさゆえだ。

“まだ見ぬ日本の守護神”に贈る言葉「シュート止める喜びを感じて」

 自身にとって生涯一番のセーブは? そう問うと、GKらしい答えが返ってきた。

「僕からしてみると、練習で誰も見ていないセーブも美しいし、止める時の感情は試合と変わらないもの。一つを選ぶのは難しい。仮にスーパーセーブが一つあったとしても、GKは次のシーンでセーブしなければ意味がない。だから、一つというものにあまりこだわりはないですね」

 一流と思うGKの条件については「すべての状況において、その人が考える理屈がある。ポジショニング、キャッチの仕方もそう。プレーを見ていて感じる瞬間があるし、それが見えるGKがいいGKと思います」と挙げる。そんな才能あふれるGKが日本サッカーにも増えてほしいから、裾野からGK人口の拡大を望んでいる。

「日本では、誰もやりたくないからGKをやらされるという文化。でも、僕も好きでやっているように、きっかけは見ていて『カッコいいから』という単純なものでいいと思う。そういう子供たちが増えてくれるといいなと思うし、自然と多くなることで、より日本の中でGKの文化が根付いてくるのではないかと感じます」

 W杯で3大会、日本のゴールマウスを守り、堪能な語学も駆使しながら、海外で長年プレーしてきた。“まだ見ぬ日本の守護神”に今、GKの魅力を伝えるならどんな言葉を贈りたいのか。

「シュートを止めた時の喜び、じゃないですかね。それ以外にないと思うし、むしろ小さい子に一番感じてもらいたい。そのためにはミスを恐れずに素晴らしいものを目指してもらいたい。GKは常にミスと隣り合わせではあるけど、リスクを冒していかないと最高のものが生まれることはない。だから、狭間は常に葛藤ある。

 その中で、若いGKにはミスを恐れず、最高のものを目指してもらいたい。自分自身、90年W杯のゴイコチェア(アルゼンチン)の映像を見て影響を受け、松永成立さん、川口能活さん、楢崎正剛さんと偉大なGKを見て育ってきたので、今度は自分が今、子供たちにそう思ってもらえるように努力していきたいと思っています」

 そして、日本サッカー界にとっても次代を担う才能の出現を待ち望んでいる。

「どんなGKをとひと言で言うのは難しい。ノイアー(ドイツ)がやっていることはナバス(コスタリカ)にできないし、デヘア(スペイン)がやっていることはクルトワ(ベルギー)にできない。それぞれの良さがある。だから、理屈じゃなくシュートを止めるという情熱を持ったGKが増えてほしい。方法論はたくさんあるけど、それを突き詰めているGKが増えてほしいと思います」(THE ANSWER編集部・神原 英彰 / Hideaki Kanbara)