「有名企業への就職率が高い大学ランキング」トップ10

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2018年の卒業後の進路を集計したところ、有名企業400社への実就職率が最も高かったのは、東京工業大学だった (写真:千和 / PIXTA)

英国オックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン准教授が、AI(人工知能)の発達によって現在の仕事の半分がなくなると指摘したのは、数年前。大学生の就職活動に直結する問題だが、2018年卒業生を対象にした「有名企業400社の実就職率」ランキングにも、その兆しが見える。


「有名企業400社の実就職率」は、誰もが知っている大企業400社に対し、卒業生(大学院進学者を除く)のうち、どれだけの割合で就職しているのかを算出したもの。対象となる400社は、トヨタ自動車や日立製作所、三菱UFJ銀行などを筆頭に、日経平均株価指数の採用銘柄や、会社規模、知名度、大学生の人気企業ランキングなどを参考に選んでいる。

全体的な傾向としては、400社に含まれる3大メガバンクの就職者が減少する大学が増えた。その結果、400社への実就職率を下げる大学が多数あった。

3大メガバンクは、報道されている2019年卒の採用減より早く、すでに2018年卒の採用を減らしている。今春の入行者数は、みずほフィナンシャルグループが2017年卒の採用数1880人から1365人に、三菱UFJ銀行が同1206人から1024人、三井住友銀行が同1347人から803人と、いずれも減少しているのだ。マイナス金利による収益悪化など要因はいくつか考えられるが、その中には、AIの発達を見越した採用減も含まれると見られる。

自動車、電機など大手製造業に強い工科系

メガバンクの採用減の影響は、女子学生に大きく、女子大で実就職率が下がる大学が続出した。東西の女子大御三家である、津田塾大学(43位)、東京女子大学(35位)、日本女子大学(37位)、京都女子大学(71位)、同志社女子大学(68位)、神戸女学院大学(50位)も例外ではなく、400社の実就職率が下がっている。

女子大以外にも、400社の実就職率が下がっている大学は多く、ランキング100位以内の大学の6割弱が前年を下回った。ランキング上位の大学も例外ではない。2位の一橋大学は文系学部のみで構成され、金融系の就職者が多い。そのため、実就職率は前年を4ポイント下回る54.9%で、昨年の1位から順位を下げた。同大の就職者数が多い上位3社は、2017年卒と2018年卒ともに3大メガバンクだが、就職者数は61人から53人に減少している。

一橋大学と入れ替わって1位になったのは、実就職率57.1%の東京工業大学だ。2018年卒の就職者が多い企業は、本田技研工業(25人)、日立製作所(23人)、ソニー(21人)などで、大手製造業に強いのは例年通りの傾向である。製造業の採用が安定しており、実就職率の高さを後押ししている。理系の学生にとって、どのような企業でも情報部門の人材が不可欠なことも、就職の間口の広がりにつながっている。

研究などを通じて、論理的な思考力が身についている理系人材は、求人市場でも引っ張りだこ。そうした状況を背景に、ランキング上位には、4位の豊田工業大学や5位の名古屋工業大学、7位の東京理科大学、8位の電気通信大学、12位の九州工業大学、15位の豊橋技術科学大学、17位の芝浦工業大学など、数多くの工科系大学が入っている。

メガバンクの採用減少に伴って、女子の就職先の選択肢が狭まる中、3位の国際教養大学は、女子学生の割合が高い大学にも関わらず、前年の実就職率を6.2ポイント上回る44.0%となり、昨年の5位から順位を上げた。1年次に外国人学生と寮生活を行い、海外留学が必須の同大は、ソニーやアシックス、京セラなどグローバル展開をしている企業の就職者が多い。一方で、国内勤務が中心のメガバンクに就職する学生は少ないため、それが実就職率と順位を上げた要因になっているようだ。

日本語と英語のバイリンガル環境で授業を行い、海外からの留学生が多い25位の国際基督教大学も、就職者数が多い企業に、アクセンチュアや日本アイ・ビー・エムなど世界展開する企業が並ぶ。もともと3大メガバンクの就職者が少なく、採用減の影響を受けない同大の実就職率は、前年を2.6ポイント上回る28.3%で、昨年の35位から順位を上げた。

大規模総合大学を見ると、私立大学では、6位の早稲田大学が前年の7位から順位をアップ。就職者の上位企業を見ると、2017年はみずほフィナンシャルグループ(109人)、三菱UFJ銀行(105人)、東京海上日動火災保険(81人)から、2018年は、富士通(87人)、みずほフィナンシャルグループ(87人)、東京海上日動火災保険(82人)となった。400社の実就職率は昨年と変わらないが、メガバンクの就職者が減少している。

グローバル企業への就職が強い大学が浮上

早稲田大学以外の私立難関総合大学の状況をみると、昨年3位の慶應義塾大学は、2人以下の就職者数非公表のため、ランキングに登場しない。13位の上智大学はメガバンクの就職者が前年並みだが、実就職率が前年を4.8ポイント下回る33.5%となり、前年の4位から順位を下げた。18位の青山学院大学は、三菱UFJ銀行と三井住友銀行の就職者が減ったが、みずほフィナンシャルグループが昨年を上回った。日本生命保険など大手生保が増えたこともあり、実就職率は前年を1.9ポイント上回る30.9%となり、昨年の23位から順位を上げた。

文系の定員が多く、メガバンクの採用減の影響を受けやすい私立大学は、実就職率を下げる大学が少なくない。24位の明治大学が微増のほかは、19位の同志社大学や26位の学習院大学、29位の関西学院大学、32位の立教大学、38位の立命館大学などが前年の実就職率を下回っている。

国立の難関総合大学では、大阪大学が昨年とほぼ同じ実就職率35.8%で9位。就職者が多い企業は、三菱電機(61人)、パナソニック(48人)、ダイキン工業(40人)などとなっている。大阪大学に次ぐ10位の名古屋大学の実就職率は、前年を1ポイント上回る35.3%。就職先上位企業は、デンソー(78人)、トヨタ自動車(40人)、三菱電機(30人)だ。理工系学部の定員が多い国立総合大は、工科系大学と同様、大手製造業の就職者の多さが有名企業の実就職率を底上げしている。14位の京都大学や21位の神戸大学、22位の東北大学も前年の実就職率を上回った。

大学生全体の就活環境は今年も好調だが、今後、文系学部の就職はAIの発達の影響を受ける可能性がある。男女を問わず事務系職種の人気は高い。そうした仕事がAIにとって変わられるということは、文系学生のキャリア形成に大きな影響を与えるだろう。学生個人個人が今後の変化にアンテナを張るとともに、個々の学生のキャリア観を養成する大学のキャリアセンターの役割も大きくなりそうだ。





■データについて
データは2018年9月7日現在。400社実就職率(%)は、有名企業400社への就職者数÷〔卒業(修了)者数-大学院進学者数〕×100で算出。同率で順位が異なるのは、小数点2桁以下の差による。一部の学部・研究科などを含まない大学もある。大学名横の*印は大学院修了者を含むことを表す。設置の「国」は国立、「公」は公立、「私」は私立を表す。大学院進学者数の「-」はゼロまたは未集計。有名企業400社は、日経平均株価指数の採用銘柄や会社規模、知名度、大学生の人気企業ランキングなどを参考に選定。慶應義塾大学は3名以上就職先のみ公開のため表に含まない