中村俊輔の後継者──。

 横浜F・マリノスに所属する左利きのテクニシャン、天野純はそのプレースタイルと特徴、出自から、そんな風に評されることもある。11日のコスタリカ戦で彼は27歳にして代表初キャップを刻んだ。


コスタリカ戦の後半、ピッチに投入された天野

 出番は後半30分に訪れた。中島翔哉(ポルティモネンセ)と交代でピッチに入り、トップ下を任されると、浮き玉のワンツーや惜しいクロス、得意のセットプレーなど、積極的なパフォーマンスを披露。シュートこそ記録できなかったが、ボックスのなかでラストパスを待つなど、普段のクラブではあまり見せないような姿もあった。

「次はないと思っていたので、なにか爪痕を残さなければと。得点も欲しくて、なるべくゴールに近い位置でプレーしようと思っていました。(85分のフリーキックは三浦)弦太(ガンバ大坂)にあそこに入ってほしいと言っていて、ちょうど狙いどおりのところに落ちた。惜しかったですね」

 試合後に取材エリアに現れた天野はそう話した。いつもより少し上気した表情に、充足感が透けて見える。

「(代表のデビュー戦を)経験して、代表の主力としてやりたい気持ちが強くなりました。今日は途中から入って、勝っている試合をしっかりクローズするというミッションもあったけど、そのなかでもある程度は自分のプレーを出せたかなと。時間があればもっとやれたと思うし、そういう意味ではちょっと悔しさもある。でもたくさん刺激を受けて、練習でしっかりアピールもできたし、充実した日々でした」

 天野の刺激的な日々は9月3日から始まった。森保一新監督の初陣を担う代表メンバーは8月30日に発表されたが、その後に山口蛍(セレッソ大坂)と大島僚太(川崎フロンターレ)が負傷したため、天野と守田英正(川崎フロンターレ)が追加招集されたのだ。

 初招集ながら、年齢は上から数えた方が早い。それでも、初めて経験した代表合宿には「刺激しかなかった」と言う。

「わりと年齢の近い選手も多いし、槙野(智章/浦和レッズ)くんが盛り上げてくれるので、助かっています。最初はちょっと緊張したけど、徐々に慣れていきましたね」

 合宿の4日目の早朝には、地震が合宿地の札幌を襲った。新千歳空港へ発着するフライトがすべて欠航となり、翌日に予定されていたチリとの試合もキャンセル。予期せぬアクシデントにチームと彼はどう対処したのだろうか。

「幸いにも、僕らが泊まっていたホテルは電気がついたので、それほど不便は感じませんでした。ただ外を散歩したりすると、救急車の音がずっと鳴っていたりして、被害の大きさが感じられました。次の日の練習と紅白戦には、多くのファンの方が見にきてくれたので、うれしかったですね」

 その紅白戦では、天野のスルーパスが起点となり、佐々木翔(サンフレッチェ広島)の折り返しから伊東純也(柏レイソル)のこの試合唯一のゴールが生まれた。現在の日本代表にはスピードとテクニックのあるアタッカーが多く、「パスを出しやすい」と天野は言う。逆に言えば、今回の代表には彼のように柔らかく正確なパスが出せる選手は少なく、その価値は高い。

 加えて彼には、今季からマリノスの指揮を執るアンジェ・ポステコグルー監督の教えも身についている。その最たるものは、「ターンする技術」だ。

「ボールを受けて前を向く。簡単ではないですけど、今のマリノスでは、これをやらないと怒られます。そこは今季のクラブで大きく成長できたところだと思うので、違いを出せるようになっているのかなと。あの感覚を身につけられて、本当に助かっています」

 また、日本代表の森保監督の指導からは、別の側面を吸収しようとしている。

「森保さんのサッカーや考え方に初めて触れましたけど、自分に足りないものを成長させてくれるような期待感があります。一番は球際で戦うこと。ここについては、よく言われています。とくに自分はその点がまだまだ足りないので、しっかりやっていきたいです」

 大学を経て2014年にプロとなり、着実にステップを踏み、昨季には横浜FMの主力に成長。そして今季はポステコグルー監督の先鋭的な戦術のなかでも、中心として欠かせない存在となり、日本代表にも選出された。伸びしろは、まだまだある。

「今日はひとまず、一歩目を踏み出せたのでよかったです。これまでもひとつひとつ乗り越えてきたので、目標に向かって明日からまたマリノスで頑張ります」

 尊敬する中村俊輔のように、マリノスの中心選手から、代表の主力へ。27歳のレフティーの新たな挑戦が始まった。