1ページ目から最終ページまで「完全読破」してきた『会社四季報』に囲まれる筆者(撮影:梅谷秀司)

『会社四季報』と言えば、「企業を調べる辞書」というのが多くの人の印象ではないでしょうか。実際、毎号2000ページ超えの厚さ。この辞書のような本を毎号、毎号通読する人たちがいます。その1人が渡部清二氏です。渡部氏は20年以上、『会社四季報』を長編小説のように読み続けている達人。「会社四季報オンライン」で「四季報読破邁進中」を連載し、『インベスターZ』の作者、三田紀房氏の公式サイトでは「世界一『四季報』を愛する男」と紹介されています。
「お宝株」「大化け株」を見つけるノウハウを解説した渡部氏の初めての著書『会社四季報の達人が教える10倍株・100倍株の探し方』の中で、渡部氏は「四季報の読破で人生が豊かになった」と語っています。どういうことか、理由を解説してもらいました。

四季報読破で見つけた10倍株

『会社四季報』を最初から最後まで、およそ2000ページすべて読む。


そんな“四季報読破”を私は20年以上、続けてきた。『会社四季報』は1集新春号、2集春号、3集夏号、4集秋号と1年に4冊刊行される。今までに完全読破した『会社四季報』を、最初の1998年1集新春号から積み重ねると、その数なんと80冊以上。すべてのページを毎号読むからこそ、いつも新しい驚きや感動があった。思い返せば本当に感慨深い。

2015年4集秋号の「四季報読破」に取り組んでいたとき、とても気になる銘柄を見つけた。

それは2015年9月に上場したばかりの「STUDIOUS(ステュディオス、現TOKYO BASE)」という会社で、「国内ブランド特化型のセレクトショップ」を手がけると書かれていた。国内ブランドに特化する、というのはどういうことなのか。

興味をもって読み進めると、コメントに「過去最多の年8出店と躍進」と書いてあったが、「8出店」が躍進なのかどうか。前期の店舗数を『会社四季報』に掲載されている【店舗】欄で確認してみると9店舗しかない。つまり店舗は今期ほぼ倍増しており、当然、売上高や営業利益など業績面も伸びている。このことから、この銘柄の将来性を感じとった私はさっそく投資してみることにした。


実際に店舗を訪れてみた

しかし、筆者の期待に反して、株価は下がり続け、しばらく我慢の時期が続く。同社のような小売業の現状を知るには、実際の店舗に行くのがいちばん早い。少し心配になった私はさっそく店舗を訪れてみた。すると、日本製で品質の高い商品がそろっていて、店員たちもイキイキと働いているではないか。手はじめに購入したカバンは今でも愛用している。それぐらい使い勝手がよい。

その後、店舗横の小さな会議室で開かれた、上場後はじめての株主総会に出た私は、谷正人代表取締役CEOの熱い想いやコンセプトに触れ、ますますこの会社を応援したくなった。

我慢強く持ち続けていると、TOKYO BASEの株価は上昇に転じ、2016年2月の安値107円(株式分割を考慮した修正株価)から2018年にかけて10倍以上になった。

もし『会社四季報』をくまなく読破しなかったら、私はおそらくこの銘柄の存在に気づかなかっただろう。

もしかしたら、アパレル業界で10倍に“化ける”銘柄があるなんて思わなかったかもしれない。加えて、今や私がプライベートで着る服のほとんどは、TOKYO BASEのものである。品質の高さはもちろん、応援している会社のつくる服だから、着ていて本当に気持ちいい。「四季報読破」は私の日々の暮らしにも楽しみと潤いを与えてくれたのだった。

ここまで『会社四季報』に対する私の個人的な思いと経験を熱く語ってしまった。以後、『会社四季報』を「四季報」と略して呼ぶことを許してほしい。

四季報を「企業、あるいは銘柄を調べるための辞書」だと思っている人は多いのではないだろうか。かくいう私もかつてはそのひとりだった。


読破してきた四季報は、「180センチ以上」という筆者の身長を軽く超える(撮影:梅谷秀司)

その考えを改めたきっかけは、かつて在籍していた証券会社の先輩から「四季報、全部読んでこい!」という迫力の“ツメ”(当時の社内用語で厳しい言葉で叱咤激励すること)を受けたことであった。厳しい社風だったので、返事は「はい」か「Yes」しかない。「やらなきゃヤバイ」と動物的直感が働いた私は、条件反射的に「はい、わかりました!」と答えてしまった。

しかし、実際に取り組んでみると、四季報読破は予想以上に過酷な作業だった。1冊目を読破するのに1週間以上を費やした。大変だったが、以来、欠かさず読破を続け、もはやライフワークになっている。読めば読むほど四季報の奥深さを知るから続けられる。

ちなみに今はぶっ続けで読み通すとすれば20時間ほど。普通に生活しながら読むのであれば、2日半で読破している。

四季報読破とは長編小説と同様、「1ページ目から読む」。1ページ目から巻末特典、編集後記までのおよそ2000ページを、数字、記者コメント、月足チャートなど、気になる部分にマーカーをつけながらすべて読むということだ。

四季報読破は「人生を豊かに」してくれる

なかには「全部読んで何の意味があるのか?」と思う人もいるだろう。そういう疑問にははっきり、「四季報読破は、人生を豊かにしてくれる」と答えたい。

私も、はじめのうちは読み終えた達成感しかなかった。だが、続けていくと企業を知る喜び、社会を知る喜び、そして人生を知る喜びと、どんどん楽しみが増えていった。

フェーズ1:街のいたるところで、知っている会社が光って見える

最初のうちは、街のいたるところで、知っている会社が光って見えるようになる。たとえば、「下を向いて歩いているとマンホールのフタが……。虹技! これも上場しているんだ!」「私が好きな長崎の人気土産、九十九島せんぺい……。寿スピリッツ! でも親会社は鳥取にあるんだよなぁ」などなど。ほかの人にとってはどうでもいいような、自分だけが知っている小ネタにちょっとした満足感を覚える。

フェーズ2:『会社四季報』の中からよい銘柄が光って見える

次に四季報の膨大な銘柄の中からよい銘柄が光っているように見え始める。そのような銘柄は、実際に株式投資をしても、しなくても、株価が上がってくると自分の努力が市場に評価されたような、ゲームに勝ったような非常に楽しい気持ちになれるのだ。

フェーズ3:世の中全体か光って見える

さらに続けると世の中全体が光って見えるようになる。一人ひとりの働きを積み上げると企業活動になり、一社一社の企業活動を積み上げると日本経済という大きなうねりになる。

つまり、四季報読破を通じて企業活動を見るということは、株式を通して日本経済を見るのと同じこと。投資の結果がよくても悪くても、さまざまな企業の努力を見ていると「日本経済も捨てたものではない」と実感する。すると前向きに企業を応援したい気持ちになり、世の中全体が明るく見えてくるのだ。

フェーズ4:知識と話題が広がる

四季報読破の効果は、それだけではない。個別企業や日本経済の幅広い知識が身に付き、話題が豊富になるおかげで、周囲からの信頼が高まり、さらに業界を超えた人脈がつくれるようになるだろう。その結果、仕事の幅も広がり、充実した毎日を過ごせるという、非常に大きな成果がもたらされると思う。それはまさに「人生を豊かにしてくれる」ことではないだろうか。

四季報は投資の武器として最強

四季報読破を継続できた秘訣は、読破自体を目的とせず、読破の後、いかに仕事や生活に活かすかを目的にしたことが大きかったと思う。

私は大手証券会社に23年間在籍し、そのうち12年は機関投資家営業という業務に携わっていた。具体的に何をしていたかというと、世界中の運用のプロとされる機関投資家相手に日本株を売り込むことだった。市場全体が上がろうが下がろうが、毎日ひたすら日本株の個別銘柄を売り込んでいた。

一般にはあまりなじみがないが、この運用の世界はとてつもなく巨大だ。特に大きいのが「年金」であり、次が「投資信託」である。年金と投資信託を合わせた「運用しなければいけないお金」は、主に運用会社に委託・運用されている。この運用会社を機関投資家といい、その中で実際に運用している人をファンドマネジャーと呼ぶ。

「運用しなければいけないお金」の総額は、世界でおよそ9000兆円強にのぼり、その半分以上が株式に投資されているという。9000兆円というのは日本の国内総生産(GDP)の約16倍、日本の国家予算90年分にあたるとてつもない金額である。

運用のプロの世界では誰よりも好成績をあげることが至上命令だ。あるベテランファンドマネジャーのY氏はそれを「オリンピック」の世界にたとえ、「四季報、全部読んでこい!」と私を叱咤した先輩は自動車レースの「F1」の世界にたとえていた。

オリンピック出場者は傑出していて当たり前。その中で誰よりも速く走り、一番高く、一番遠くに跳んだ者が勝つゲームだ。F1でも速いのは当たり前で、その中で一番速くゴールを切ったドライバーと車が勝つレースである。プロの運用の世界も「儲けるのは当たり前で、その中で一番速く、最も高く上がる銘柄にのったものが勝つ」パフォーマンス競争なのだ。

そんなプロを相手に日本株を売り込んでいくには、セールスとしても“最強の武器”をもたなければ太刀打ちできなかった。そこで私は、片手に当時日本一だったアナリストのリポートを、そしてもう一方の手に四季報を持った。四季報を選んだのはやはり「最強」だからだ。

何が最強なのか ――。それはなんといっても「網羅性」と「継続性」と「先見性」である。

四季報のように上場する銘柄のすべてを1冊に網羅している書籍は世界に類を見ない。また継続性の点でも、四季報は1936年6月創刊号以来、戦中終戦直後の一時期を除いて、83年目の現在までずっと続いている。これだけ継続している書籍もまた珍しい(※1945年は休刊、翌年は年1回で復刊した)。さらに四半期決算などない80年以上前に年4回の発行としたのは先見性があったといわざるをえない(※四半期決算が義務化されたのは2009年3月期から)。

読み始めて4冊目で20倍株に出会った

四季報読破の経験を仕事に活かした事例で忘れられないものが、読破4冊目の1998年4集秋号で見つけた、当時上場したばかりの成長株シートゥーネットワークである(※現在は上場していない)。

当時はドンキホーテホールディングスが上場した直後。しかしディスカウント業態は当時まだ珍しく、デフレ時代にマッチした銘柄が注目を浴びていた。

そのようなときに私は四季報読破をしていて、シートゥーネットワークを発見した。同社は、加工食品のディスカウントストア「つるかめ」を展開していたが、安売りを実現するために、たとえばマヨネーズはトップブランドの「キユーピー」ではなく、値段は安いが味は確かな「ケンコーマヨネーズ」を置いていた。

ユニークな品ぞろえで差別化を図っていた点からも、この銘柄が“光って”見えた私は、証券セールスとして顧客に幅広くおすすめした。その結果、どうなったか。なんと株価は1年ちょっとで20倍以上に大化けしたのだ。

四季報をめくっていなければ見つけることができなかったのは確かで、当然、顧客からは大変感謝された。四季報読破が仕事の結果に直結することを実感した出来事だった。