サービス業に蔓延「悪質クレーム」の被害実態
UAゼンセンが今年2〜5月に実施した悪質クレームに関するアンケート調査では、3万件余りの回答が集まった(記者撮影)
「レジ打ちを間違えたら、15分くらい暴言を言われた」「『殺すぞ、子どもが泣いているのに景品をくれないのか』とクレームを受けた」「『介助したら蹴るぞ』と言われた」――。
飲食店やレジャー施設、介護施設などで見られる悪質クレーム。9月11日、産業別労働組合「UAゼンセン」(以下、ゼンセン)が、今年2〜5月に実施した悪質クレーム(迷惑行為)に関するアンケート調査の結果を発表した。調査は外食、タクシー、ホテル、病院・介護などサービス業の現場で働く組合員を対象に行われた。
1万9000件の具体的な事例
調査結果によると、回答した組合員3万人余りのうち約75%に当たる2万2440人が、「業務中に悪質クレーム(迷惑行為)に遭遇したことがある」と回答。そのうち9割以上が「ストレスを感じた」と答えた。
ゼンセンは繊維・衣料、食品、流通、レジャー・サービスなど多種多様な業種の企業別労働組合で構成される、日本最大の産業別労働組合である。2017年9月時点で2428組合、172万人余りで構成されている。
昨年、ゼンセンは百貨店やスーパーなどで働く組合員を対象に同様のアンケート調査を実施。5万件を超える回答を得た前回の調査でも、今回と同じく暴言や何度も同じ内容を繰り返すクレームを受けたといった回答が数多く見られた。
今回の調査についてゼンセン総合サービス部門の北山淳政策委員長は「関心を持って応じてもらえ、非常に多くの回答が集まった」と振り返る。実際、3万件余りの回答のうち1万9000件については具体的な事例の報告もあった。
たとえば、「『今日は予約が入っていない』旨を伝えると、受付2人に向かって『馬鹿面さげて何やってんだ』と暴言を吐かれた」、「『俺は○○(親会社)の社長と知り合いでおまえなんかすぐクビにできる』と言われた」といった、暴言や権威的(説教)態度による脅迫などがあったという。
法整備の必要性を強調
調査では「性的な内容の話を我慢して聞いていたらエスカレートして尻や胸などを触られたり抱きつかれたりした」などセクハラ行為も3000件以上報告されている。
こうしたセクハラ行為は医療・介護・福祉に多く、悪質クレーム(迷惑行為)を受けたことがある医療・介護・福祉従事者のうち、17.1%がセクハラ行為を受けたことがあると回答している。
また、威嚇・脅迫行為も、医療・介護・福祉従事者だけで4042件を占めるなど、ほかの業種に比べて多いことがわかった。
このような事態を受けゼンセンは、法整備も含め社会全体で対策を推進していく必要性を強調する。事業主には従業員を守る「安全配慮義務」があるものの、「アンケートを見ると、最前線の人間に全部押し付けられて、会社は現場に対応を任せきりにしているというケースもある。そこを何とかしていきたい」(ゼンセンの高松和夫副書記長)。
UAゼンセンの総合サービス部門で事務局長を務める古川大氏は、医療・介護・福祉では威嚇・脅迫やセクハラ行為が多かったと指摘する(記者撮影)
また、セクハラについて高松副書記長は「会社の内部でのハラスメントだけでなく、顧客や第三者のハラスメントに対応できるものを法制化できないか」と話す。
対策は法整備にとどまらない。ゼンセンは厚生労働省に対して悪質クレームの実態調査や、倫理的な消費行動の啓蒙や教育も求めている。8月10日には賛同する176万人余りの署名を集め、加藤勝信厚労相に提出した。
深刻な人手不足問題
実際、アンケート中の「迷惑行為が発生している原因をどう考えるか」という質問(複数回答可、以下同)に対し1万6333人が「顧客のモラル低下」と回答。「迷惑行為からあなたを守るためにどのような措置が必要か」との質問には1万0215人が「顧客への啓発活動」と答えている。
厚労省の統計によると、2018年7月時点で「サービスの職業」の有効求人倍率は3.45倍で、求職者1人に対して3〜4件の求人がある状況。中でも「接客・給仕の職業」は3.93倍、「介護サービスの職業」は4.03倍と、より深刻だ。悪質クレーム(迷惑行為)問題の解決は、人手不足の解消を考えるうえでも重要となる。
従業員の定着率が上がればスキルが蓄積し、生産性が向上して従業員の処遇改善にもつながる。サービス業の現場では外国人労働者の受け入れ拡大に向けた議論や、機械化・省人化の動きも進められているが、悪質クレーム対策を含む根本的な職場環境の改善も欠かすことはできない。