モリタが開発した小型オフロード消防車「レッドレディバグ」(筆者撮影)

ラダーフレームと前後リジッド式サスペンションという初代以来の構造を、新型でも継承したスズキの4輪駆動車「ジムニー」。フレーム剛性が強化されたうえに、ブレーキ制御のトラクションコントロールが追加されたことで、市販車最強と言われるオフロード性能がさらに強化されたことが、報道向け試乗会で体感できた。


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一方、国内での市販こそされていないが、ナンバーを付けて公道を走れるクルマにまで枠を広げると、ジムニーとほぼ同じボディサイズで、それ以上の走破性を秘めていると言われる日本車があるのをご存じだろうか。

5月31日から6月3日にかけて東京ビッグサイトで開催された、東京国際消防防災展2018にモリタが展示した小型オフロード消防車「レッドレディバグ(Red Ladybug)」がそれだ。

開発の契機は2年前の熊本地震

モリタは100年以上にわたる消防車作りの歴史を持ち、現在はこの業界でトップシェアを誇る。消防車以外にも消火器、ごみ収集車、バキュームカー、リサイクル施設など、さまざまな分野に進出している企業でもある。

消防車は基本的に、既存のトラックに専用装備を架装する形で作られるが、モリタは専用シャシーを開発し、日本のみならず米国やドイツのデザイン賞受賞経験を持つなど、モノづくりの能力も高い。レッドレディバグはその能力が発揮された1台でもある。

開発の契機は2年前の熊本地震だったという。現地の消防に調査したところ、夜間の地震だったので道路の損傷の程度がわからず、現地への到着が遅れたという声が返ってきた。今年の西日本豪雨もそうだが、近年は自然災害が多くなっており、小型オフロード消防車が必要だという結論に達し、まずベース車の選定を始めた。

その結果選ばれたのが、川崎重工業が北米などの海外向けに生産している多用途4輪車「ミュール(MULE)」である。ミュールはMulti-Use Light Equipmentの略であり、その性能は作業からレジャーまでさまざまな用途で評価されている。ジムニーに近い立ち位置の車両と言える。

不整地走行性能もジムニーを上回る

モリタが候補に挙げた十数車種の中には、ジムニーも入っていた。しかし積載能力が小さいことがネックだったという。新型ジムニーは乗用車仕様のみで積載重量に限りがあるのに対し、ミュールは450kgまで積むことが可能だった。さらに不整地走行性能もジムニーを上回るという判断だった。

海外メーカーの製品も考えたが、信頼性の面で日本企業を重視し、川崎重工のミュールを選んだ。ミュールには20以上のバリエーションがあるが、モリタが選んだのはPRO-FX(EPS)という仕様だった。EPSは電動パワーステアリング付きであることを示す。

ラダーフレームを持つことはジムニーと同じだが、サスペンションはリジッドのジムニーとは対照的に、前後ともダブルウィッシュボーンの独立懸架になる。最低地上高は260mmで、ジムニーの200mmを大きく凌ぐ。

エンジンは水冷直列3気筒800cc自然吸気で、CVTを組み合わせる。最高出力は35kW/5500rpm、最大トルクは65Nm/3500rpmだ。駆動方式は2WD/4WD切り替えで、リアデフにロック機構も備わる。ミュールはこのエンジン/トランスミッションを後輪直前に搭載している。つまりミッドシップだ。よってノーズが短く積載空間の広いパッケージングが実現できた。


レッドレディバグの後ろ姿(筆者撮影)


後部ユニット内装備は簡単に引き出し可能(筆者撮影)

ボディは全長約3450mm、全幅約1760mmで、幅は3ナンバーサイズになるが長さはジムニーに近い。このサイズに収めるべく、レッドレディバグは独創的な設計を取り入れている。活動現場の状況に合わせて、後部ユニットを選んで搭載できることだ。アルミ製ユニットの重量は110kgで、スライドレールを内蔵しているので専用台車を用意すれば大人1人で交換できる。

多くの装備を1台に詰め込めれば理想だが、それでは車体が大きくなってしまうし、現場では小ささが求められていた。そこでモリタはユニット方式という逆転の発想を取り入れたという。また車体が短いことから、全長12m以下であればトレーラーを牽引することで装備を追加することもできる。

最大の問題は、このミュールが日本の公道を走れないことである。しかしモリタではナンバー取得を目指し、まずカテゴリーを検討した。一般的な消防自動車は8ナンバーの特種用途自動車となっているが、今回は大型特殊自動車のダンパというカテゴリーで登録することにした。

そのままでは保安基準を通らないので、ブレーキ、ウインドーガラス、排出ガス、電装など、さまざまな部分を作り直しており、ナンバーを取るまで半年かかったという。それでも登録が実現したのは、社会貢献という理由が国土交通省から認められたことが大きく、レジャー用では難しいのではないかと語っていた。

小さいながらも頼り甲斐のあるデザイン

このレッドレディバグを取材すべく、筆者は工場のある兵庫県三田市を訪れた。


小柄だが独自の存在感を放つスタイリング(筆者撮影)

全長10m以上の長大なはしご車の脇に置かれていたこともあって、ボディは小さい。でも存在感では負けていない。ミュールのフロントマスクを生かし、その造形に合ったドアやリアボックスを融合させており、小さいながらも頼り甲斐のあるデザインに仕上がっていた。


メーター下にサイレン制御ボックスを追加(筆者撮影)

ドアは大きく開き、フロアは低く平らなので乗り降りは楽だ。インパネはミュールと基本的に共通で、サイレン制御ボックス、ウインカーインジケーター、ダンパ登録で必要となる車輪ロックレバーなどを追加している。センターにあるメーターはコンパクトな液晶パネルだ。2WD/4WD切り替えはスイッチ方式になっており、新型でレバー方式に戻したジムニーとの思想の違いを感じる。


シートは3人掛けベンチタイプ(筆者撮影)

3人掛けのベンチシートは固定されており、ステアリングの調節機構もない。エアコンはなくウインドスクリーン上方のダクトやスライド式サイドウインドーで走行風を取り入れることになる。短距離移動を念頭に置いているようだ。

装備を含めた車両総重量は1485kgに達するが、セレクターレバーをDレンジに入れ走り出すと、モーターサイクルを思わせる活発なサウンドを響かせながら元気に加速していく。ギア比は低めだが60km/hぐらいまでは一気に伸びる。Lレンジに切り替えると減速比が大きくなり、低速での不整地走行に向いていることが伝わってきた。4WDに切り替えると4輪で確実に前進していくことが伝わってきた。

ジムニーと最も異なるのは足回りだ。ジムニーは悪路での衝撃を受け止め、車体の損傷を防ぐべく、サスペンションは固めにしている。しかしレッドレディバグは正反対で、ひとことで言えばフワフワ。このうえなく快適だ。乗り心地が良いので患者搬送にも向くのではないかと思った。

そのため舗装路でステアリングを切ると大きくロールするが、わが国で運転するのは消防署員に限られるので問題ないだろう。最小回転半径は約4.8mと軽自動車のジムニーと同じ数字であり、小回り性能は申し分なかった。さらに後輪独立ロック機構により、その場で回転することも可能だ。


インパネ左端にダンパ登録のレバーを装備(筆者撮影)

悪路では床下をぶつけてしまうのではないかと危惧したが、工場敷地内の段差を乗り越えると、フワッという感触の中にしっかりしたダンピングが感じられた。しかも床下はエンジンまわりを含め入念な補強が施してあり、岩場などでガンガン当てながら進んでも問題ない作りだという。

早ければ来年にも現場に配備

レッドレディバグは早ければ来年にも現場に配備されると言われる。私たちが個人で向かうフィールドならもちろんジムニーで十分であるが、消防の分野では自然条件や社会情勢の変化もあり、既存のカテゴリーでは対応しきれない現場が出てきていることも事実である。

そんな中で海外向けの多用途4輪車に目をつけ、小型オフロード消防車に仕立てたモリタの着眼力と実行力は、日本のモビリティにかかわる事業者にとって参考になる事例ではないだろうか。