<トイレ中に飛散する細菌を吸い込んで吹き付ける......「衛生的」なイメージとは程遠い実態が明らかに>

手に付いた細菌をばらまかないために、トイレの後は手を洗おう――。そんな「常識」が実は逆効果かもしれない。

最新の研究によれば、オフィスビルなどのトイレに設置されたハンドドライヤーで乾かすと、せっかく洗った手に菌が付着し、ビル全体にばらまかれる恐れがあるという。

4月に米科学誌「応用・環境微生物学」(オンライン版)に発表された研究では、米コネティカット大学の研究者チームが大学内にある36カ所のトイレのさまざまな位置に培養皿を置いて細菌の数を調べた。その結果、ハンドドライヤーから吹き出される温風には、トイレ内の空気中よりもはるかに多くの細菌が含まれていることが分かったという。

「特にふたのないトイレの場合、水を流す際に、排便に含まれる細菌がいくらか空気中に飛散する」と、論文の著者であるコネティカット大学のピーター・セトロー教授(分子生物学・生物物理学)は本誌に語った。トイレには大勢の人間が出入りすることも事態を悪化させるという。ハンドドライヤーはトイレの空気を取り込み、高速で吹き出すからだ。

今回の研究では、本来は研究室にしか存在しないはずのPS533(遺伝子操作によって無害化した枯草菌)がどのトイレでも見つかった。恐らく研究室から研究棟全体に菌の胞子が飛散したのだろうと、セトローは言う。研究チームによれば「大きな建物の中で、病原菌の胞子が部屋から部屋へ飛散する可能性がある」。ハンドドライヤーもその飛散原因の一部になりかねないという。

理屈の上では、ドライヤーにHEPA(高効率微粒子除去)フィルターを取り付ければ、洗ったばかりの手に細菌が吹き付けられるのを防げるはずだ。しかし今回の研究では、HEPAフィルターを取り付けたハンドドライヤーでも、菌の付着を防げたのは約75%。かなり高い割合だが100%ではない。

「フィルターが正常に機能していなかったか、ハンドドライヤーの周囲のろ過されていない空気中から菌が入り込んだのかもしれない」と、セトローは言う。例えばハンドドライヤーの周囲に対流が生じ、トイレ内のろ過されていない空気をドライヤーの風が巻き込んだ可能性もある。

今回の研究以外にも、ハンドドライヤーが細菌(無害なものも有害なものも含めて)の飛散にひと役買っている可能性を示す証拠が増えている。そのため、セトロー自身は使い捨てペーパータオルを愛用。今回の調査対象となった大学内の36カ所のトイレにも置かれるようになったという。

[2018.8.28号掲載]

キャサリン・ハイネット