北朝鮮戦でエースたるゆえんを証明した岩渕。韓国戦でも前線で攻撃の起点となった。(C) Getty Images

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 インドネシアのパレンバンで開催中のアジア大会・女子サッカー競技。8月28日の準決勝で韓国を2対1と振り切った日本は、中国との決勝戦に臨むことになった。
 
 この試合が行なわれる前の時点で、通算成績では日本側から見て12勝3敗7分けと優勢。だが、その数字以上に、韓国戦では痛い思いをずいぶんしている。
 
 2013年の東アジアカップ最終戦では、チ・ソヨン(チェルシー)の2ゴールで1-2と敗戦を喫し、大会3連覇が霧散した。また、2016年のリオ五輪アジア予選では終了直前に同点弾を浴び、アジア予選敗退に至る流れが出来上がってしまった。最終的には優勝した今春のアジアカップでも、韓国とはスコアレスドロー。一時、グループリーグ敗退寸前の状況に追い込まれている。
 
 今回は、その時よりも条件が悪かった。チェルシーのチ・ソヨン、INAC神戸レオネッサのイ・ミナなど、海外組も招集した韓国に対して、日本はチームキャプテンの熊谷紗希(リヨン)などを欠く純国内組での構成。スケジュールも、香港を5-0で完封して中3日の韓国に対して、北朝鮮との死闘後、中2日の日本。不利は歴然だった。
 
 春の対戦時から先発メンバーの半数が変わっている日本は、試合開始直後からイニシアティブを掴んだ。菅澤優衣香(浦和レッズレディース)が韓国最終ラインの裏を狙う動きを見せ、ボランチ起用の有吉佐織(日テレ・ベレーザ)からのパスを先制点に結びつける。その後もボール保持率を高めながら、なかなか主導権を譲らない。
 
 後半はコンディション面で上回る韓国の逆襲に晒され、なでしこリーグでプレーするイ・ミナに同点ゴールを奪われた。試合開始直前にスコールが襲ったピッチは湿度も高く、ぬかるんだ足下から選手のエネルギーを奪っていく。それでも日本の選手は雑なクリアを極力控えて、ボールをつなぎながら、相手のペースダウンを待った。
 
 そして、韓国の選手がピッチのそこここで足をつるようになると、日本はパススピードを緩から急に上げてペースチェンジ。最後は、清水梨紗(日テレ・ベレーザ)のクロスに菅澤が頭で合わせて、勝ち越しゴールを演出(最終的には韓国DFのオウンゴール)。終了間際に訪れた韓国の連続セットプレーも、集中して凌ぎ切った。
 
 海外組では熊谷だけでなく、川澄奈穂美、宇津木瑠美(シアトル)、猶本光(フライブルク)、国内組でも阪口夢穂(日テレ・ベレーザ)、横山久美(AC長野パルセイロレディース)など、これまで中核を担ってきた選手を欠きながら、ここまで4連勝。「誰かがいないだけで勝てないチームにはしたくない」と口にする高倉麻子監督のチームコンセプトそのままに、優勝まであと一歩と迫っている。
 
 来年のフランス女子ワールドカップ、そして東京オリンピックへ向けて、ラージグループ内の競争は激化の一途を辿る。来夏のフランス女子ワールドカップは23名しか参加できない。2020年の東京オリンピックではさらにその枠が狭まる。今、試合に出場している選手たちも、それが最後のチャンスでないという保証はない。
 
 これまで競い合ってきたライバル、さらに、フランスの地で世界の頂点に立ち、追撃してくる「ヤングなでしこ」まで……。うだるような暑さのなか、我慢比べに勝った選手の脳裏には、アジア大会のトロフィーの他にも、いろいろなものが浮かんでいるはずだ。そうした高い競争意識をポジティブな方向に働かせて、8月31日に行なわれる中国との決勝戦も、いいゲームにしてもらいたい。
 
取材・文●西森 彰(フリーライター)