長野(左)と抱き合い、勝利を喜ぶ宮川。今大会は大きな重圧を感じながら戦っていたという。(C) Getty Images

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 フランス時間23時50分。
 
「すみませーん、お待たせしましたー」
 U-20女子ワールドカップで初優勝を収めた、U-20日本女子代表の青いチームバスは、すでにスタジアムを出てホテルに向かったが、日付が変わる10分前に、ようやくDF宮川麻都(日テレ・ベレーザ)がミックスゾーン(取材エリア)にやってきた。
 
 アンチドーピング・コントロール対象者に選ばれたため、宮川は試合後もスタジアムに留まり、チームスタッフとホテルに戻る直前、記者の前で優勝の喜びを噛み締めようとした。しかし、いったんチームメイトと離れて冷静なはずの宮川は、まだ優勝の実感が湧かないと言う。
 
「時間が経った今でもちょっと信じられないくらいですが、メダルを見ると優勝したんだなぁと思い、すごい嬉しいです。前回一緒に戦った先輩や、ベレーザの選手にも、この喜びを伝えたい」
 
 これまでU-20日本女子代表は、U-20女子ワールドカップの2012年大会と16年大会で準決勝に進んだが、いずれも敗退し、準決勝は大きな壁となっていた。
 
 直近は2年前。日本は現・なでしこジャパン監督の高倉麻子監督に率いられ、パプアニューギニアで開催されたU-20女子ワールドカップを戦ったが、3位となり優勝には届かなかった。宮川が「前回一緒に戦った先輩」と言ったのは、この時のチームメイトを指す。宮川はそこに飛び級で参加し、U-20女子ワールドカップは今年で2回目の挑戦。再び、準決勝の壁を破るチャンスが訪れた。
 
 そして、準決勝・U-20イングランド女子代表戦の前夜、キャプテンのDF南萌華(浦和レッズレディース)はまず、MF林穂之香(セレッソ大阪堺レディース)と宮川に声をかけ、その後、選手全員でミーティングをする場を作った。南が選手全員のミーティングの前に、林と宮川に声をかけた理由をこう明かす。
「前回大会を戦ったふたりに、まずは準決勝がどれだけ厳しい戦いだったのかを話してもらいたかった。ミーティングしたのは初めてじゃないし、チームがバラバラってわけじゃないけど、ふたりに話してもらうことで、準決勝前に気持ちを引き締めて、みんなのために戦う再確認ができたのがすごくよかった」
 
 ミーティングで宮川が強調したのは、準決勝が醸し出す独特の雰囲気だ。
「前回大会の準決勝の雰囲気が忘れられない。ナイターで満員に近い会場。初の決勝を懸けたプレッシャーもあった。だから、より一層チーム全員で戦う必要がある。もうあんな悔しい思いはしたくない」
 
 ミーティング中に、涙する選手もいたという。
 
 その翌日、日本はイングランドを下して初の決勝進出を決め、歴史を塗り替えた。右サイドバックで先発出場した宮川は、試合終了間際に途中交代。しかし、ベンチで過ごす残り2分のアディショナルタイムは、ピッチを見ていられなかった。試合終了の笛の前に涙が溢れてきた。
「準決勝の壁がすごく高かった。前回も超えられなかった準決勝の壁。超えないといけない壁。今回もやっぱりプレッシャーがあったから」
 
 試合後にチーム全員でスタジアムを一周する時も、一向に宮川の涙は止まらない。代わる代わる、チームメイトに声を掛けられるたびに、また涙が溢れ出た。
 
 それから4日後、宮川はまた泣いた。今度は世界一にたどり着いた喜びの涙。今度はピッチ上で試合終了の笛を聞いた。
「試合を重ねるごとにできることも増えて、いいチームになっていった。決勝の最高の舞台で日本らしいベストパフォーマンスもできた」
 
 日本が歴史を塗り替えた、記念すべき2018年8月24日から日付が変わろうとする頃、23時50分には、さすがに涙は乾いていた。ミックスゾーンは宮川がやってくる前から、いわゆる『バラシ』の作業が進み、この大会のために作られたミックスゾーンは、翌日にはなくなっているだろう。それはU-20女子ワールドカップの閉幕を意味する。
 
「今大会で、自分はまだまだだと感じた。そこを埋めていかないと、なでしこジャパンには入っていけないと思うので、これからなでしこジャパンも多い日テレに戻って、いろんなものを吸収していきたい。特に基本の技術はまだまだ。フィジカル面でもコンタクトで負けてしまう」
 
 優勝は確かに輝かしい結果だが、この決勝で宮川は相手選手のマークを外し、後半に得点を献上した。育成年代の代表である以上、細部から目を背けるべきではない。
 
「次の目標は女子ワールドカップ。ここにいる選手はまたライバルになる」
 
 来年6月にフランスで開催される女子ワールドカップまで、もう1年もない。優勝の余韻に浸りすぎず、気持ちの『バラシ』を早く済ませられるかが重要だ。さっきまでのチームメイトを、最後にライバルと言い換えたところに、宮川の本気度を見た気がする。
 
取材・文●馬見新拓郎(フリーライター)