ウォルマートが傘下の西友を売却する方針を決めて買い手を探していると報じられて以降、さまざまに論じられているが、日本経済新聞が「西友漂流」と題して上下2回にまとめた記事は事情を適確に捉えていた。その指摘は外資に限らずチェーンストアに普遍的な課題を含んでいるのではないか。

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ウォルマート流改革が挫折した5つの要因

 ウォルマートは2002年に西友と資本提携し08年にはTOBで完全子会社化してウォルマート流を徹底しようとしたが、16年間に計2500億円を投資しても収益化できず、ウォルマート・ジャパン・ホールディングス(西友の業績を反映する)の17年12月期の最終損益はゼロ円に留まる。私流にまとめれば、ウォルマート流改革の挫折要因を日経は以下のように指摘していた。

1)エブリデー・ロー・プライス[以下EDLP]戦略のすれ違いと不徹底

2)メーカー直取引の挫折と問屋活用の不徹底

3)中央集権志向(CMI)が地域対応の品揃えを損なった

4)コスト削減の効率化が品揃えの魅力を削ぎ、店舗をスラム化させた

5)殿上のトップ人事が迷走し現場の意欲とスキルが崩れた

占拠率の低い西友にEDLPは無理だった

 EDLP戦略とH&L(ハイ&ロー/特売)戦略は意見の分かれるところだが、近年の行動経済学(消費心理学という一面もある)の研究成果はH&L戦略に軍配を上げており、EDLPはどこの特売より確実に安くない限り成立しないと見るのが今日の見識だ。

 米国での圧倒的寡占状態が可能にしたEDLPも進出した海外では占拠率が下位に留まって成立せず、06年にはドイツと韓国から撤退、今年4月には1999年に買収した英スーパーマーケット3位のアスダ・グループを同2位のセインズベリーに売却することで合意している。ましてや年商7000億円程度に落ち込んでドンキホーテホールディングスやイズミにも抜かれ、6位に転落した西友にEDLPを実現するバイイングパワーなど期待すべくもなかった。占拠率の低い西友は、むしろゲリラ的特売に徹するべきだったのではないか。

問屋活用の西友版カテゴリーキャプテン制が見えず

 カテゴリーキャプテン制VMIによるメーカー直取引も西友の事業規模では高望みに過ぎて実現せず、そうかといって問屋活用による機動的品揃えと個店対応も戦略として追求せず、何の強みもない量販店に転落していった。

 ウォルマートは米国ではVMIとブローカーサービス(地域に対応して棚割りと数入れを代行する在庫を抱えない問屋)を活用してメーカー直取引と機動的個店対応を両立しているのに、西友に乗り込んだ経営陣はその仕組みを全く理解していなかった。在庫を抱え物流まで引き受けて米国のブローカーサービスより遥かに機動的にサプライしてくれる日本の問屋の有り難み(在庫を抱え物流まで引き受ける米国のDistributorより手数料は格段に安い)を理解していたら、メーカー直取引などに固執せず、問屋を積極活用して西友版カテゴリーキャプテン制を確立していたに違いない。ならば結果は全く違っていたのではないか。

 中央集権のCMI志向もカテゴリーキャプテン制の本質とは相反する方向で、地域対応も個店対応も損なって販売力を劣化させた。米国ウォルマートのカテゴリーキャプテン制はキャプテンメーカーが各地域のブローカーに棚割りと数入れを委嘱し、それをまた各店舗のカテゴリー担当店員が日々、棚を実見して修正する仕組みで、VMIなサプライチェーン・マネジメントと個店対応を両立させる優れ物だが、西友に送り込まれた経営陣はそれも理解していなかったとしか思えない。問屋と売場担当者の創意努力を引き出して個店対応していれば、結果は全く違っていたはずだ。

現場と顧客から乖離したMBA経営?

 コスト削減の品揃え効率化は西友に限らず多くのチェーンストアが陥った罠で、結果でしかないPOSデータを過信して売れ筋に絞り込み品揃えを細らせて顧客を失望させ、縮小均衡のスパイラルに陥ったと推察される。イトーヨーカ堂の衣料部門など、その最たる悪例だ。

 昨日の売れ筋は明日の売れ筋とは限らないし、昨日の死に筋が明日は売れ筋に化けるかも知れない。顧客の反応を見ながら品揃えや棚割りはもちろん、企業によっては売価まで運用している現場なら、その予兆をつかんで仕掛けることもできるが、POSデータしか見ていない本部は後ピンの虚像しか見えず、CMIを強めるほど機動的な個店対応を損ねて売上げは低下していく。自主運用という武器を取り上げられた現場は意欲を失い、フェイシング管理やクレンリネスも崩れていく。ウォルマート傘下の西友は、そうしてスラム化していったに違いない。

 現場の運用スキルを理解しないMBA的プロ経営者たちが頭で考えた手を打って現場との溝を深め、成果が出ないことに焦った米国本社が短期で経営陣をすげ替る。それを繰り返すほど現場との乖離も顧客との乖離も広がり、傷口が広がって止血も敵わず、とうとう放り出す結果に至ったと推察される。

小売業はローカルなもの

 以前に外資アパレルチェーンの苦戦と撤退続出を取り上げて『外資チェーンは総崩れ やっぱりアパレルはローカルなものだった!』(7月13日掲載)と指摘したが、アパレルより食品の方が格段にローカル性が強い。

 日本市場には世界の3大スーパーが進出したが、00年に進出したカルフールは05年に撤退、03年に進出したテスコは11年に撤退、ウォルマートが西友を手放せば3社とも撤退することになる。生き残ったのは99年に進出した会員制ホールセールクラブ(自営業者が主たる顧客)のコストコぐらいなもので、順調に店舗を増やして26店舗に達している。

 

 外資小売業が撤退するとき異口同音に挙げるのが「日本市場の特殊性」だが、特殊なのは米国や欧州とて同様で、それぞれにローカルなだけだ。どこの国に進出してもホームとは違うアウェイの難しさが付きまとう。ウォルマートは西友売却の理由に日本市場の衰退を挙げているが、急成長が続く中国市場でもテスコは14年、マークス&スペンサーは18年、Eマートは17年に撤退し、ロッテマートも17年に撤退を表明しているから、アウェイに適応して競争を勝ち抜く力量が問われているに過ぎない。

 食品のローカル性は国内の各地域でも強烈で、グロサリーのNBはともかく(それもご当地版が好まれるが)日配や生鮮は地産地消に徹したローカルチェーンの方が格段に優位だ。ナショナルチェーンが本部集中仕入れにこだわれば地方の顧客が離反して業績が苦しくなり、下位店舗から切り捨てざるを得なくなる。ウォルマート西友もその轍を踏んだようだが、『食品もアパレルも小売りはローカルなもの』という根本的な認識が欠けていたのではないか。

 CMIでもVMIやSMI(※)を組み合わせて地域や個店に対応するのはチェーンストアの定石だ。“標準化”はプラットフォームや業務手順、売場編成までで、品揃えの細部まで縛るメリットはない。小売業が頭で考える効率化に走って柔軟性を失えば顧客が離反するだけで何も得るものはない。

(※)CMI、VMI、SMIについては『SPAと問屋無用論の功罪』(18年2月24日配信)を参照されたい。

西友はどうなるのか

 16年間に2500億円を注ぎ込んでも60億円近い累積赤字が残り(08年12月期の純損失は258億円だったから実態はもっと厳しいかも)、店舗の大半は立地も劣化し改装投資も途絶えてスラム化し、売上減少が止まらない西友の企業価値はウォルマートが望む3000億〜5000億円には遠く及ばない。営業を継続するには耐震構造への建て替えや既存遡求をクリアする大規模改装投資が必要な店舗も少なくないはずで、リストラへの労働債務まで計算すれば、過半が自社所有店舗といわれる不動産価値も大きく目減りしてしまう。

 EC主導の流通に転じた今や立地の悪化した旧式店舗を抱え込むメリットなど見出せず、SMIな個店対応とサブリースなど再生マジックを駆使するドンキホーテホールディングスを除けば、手を出せる小売企業があるとは思えない。個別に物件を精査すれば商業施設に再生できる店舗もあるだろうし、ホテルやオフィス、それらを複合したコンプレックスに建て替えるメリットを見出せる物件も少なくないから、投資ファンドや不動産業者が分割購入する可能性は高いが、小売企業として一括売却するのは極めて難しい。

 旧西友出身者には忸怩たるものがあると慮れるが、アーバン立地の多層型量販店⇒コミュニティ立地の低層箱型量販店⇒リージョナル立地のモール型SC⇒EC軸C&Cプラットフォームと三世代も前の化石と化した西友の事業価値は評価に値せず、不動産価値−リストラ費用でしかないのだろう。