1位は4年連続でセブン&アイ

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流通業界で圧倒的な存在感を誇るセブン&アイHLD(記者撮影)

最近、企業が不祥事を起こした後によく聞くのが、「内部通報制度が機能していなかった」という言葉だ。内部通報が機能するために必要な点についてはさまざまな意見があるが、「通報しやすいオープンな社内環境を整備し、多くの声を集めること」は企業が重視すべきことの1つだろう。相談を含む多くの情報を集め、その中でわずかでも問題のある事例を個別に対応していけば、大きな不祥事まで至ることはないはずだ。

そのためにもまず通報件数を増やすことが第一歩となる。そこで、東洋経済ではCSR調査の中で聞いている「内部通報件数(相談等も含む)」を毎年ランキングとして発表。通報しやすいオープンな会社を知るためのひとつの見方を提供してきた。

今年もこのランキングを作成。対象は『CSR企業総覧(ESG編)』2018年版掲載1413社のうち内部通報の件数などを開示している538社だ。このうち2016年度の件数で上位100社をランキングした(『CSR企業白書』2018年版には200位まで掲載)。

内部通報窓口を各事業会社ごとに設置

ランキング1位は4年連続でセブン&アイ・ホールディングス。件数は845件で前年844件とほぼ同じだ。グループ全体の「セブン&アイグループ企業行動指針」では、「私的な利益を受けることの禁止」「違法な政治献金や国内外公務員などへの贈り物・接待・金銭的利益提供の禁止」等を定めている。


さらに各事業会社ごとに「行動指針のガイドライン」を制定。グループ横断の会議体「セブン&アイ企業行動部会」も置き、法令順守などの体制を強化している。

内部通報窓口は各事業会社ごとに設置。2009年9月から国内全事業会社の従業員が利用可能なグループ共通の社外窓口も置く。幅広い層の利用で多くの情報が集まり、問題の早期解決に役立てている。

実際の通報内容は職場環境・人間関係、パワーハラスメント等の相談が多く、ルール違反等は少数。ただし、このように発言しやすい環境であれば、大きな不正は事前に見つかる可能性が高そうだ。

2位は明治安田生命保険の665件。前年の584件から81件増加した。専任のコンプライアンス統括部を中心に法務部と連携を取り、法令順守に力を入れる。内部通報窓口は社内・社外ともに設置。権利保護規定も高いレベルで、風通しがよい職場作りを目指している。

3位はイオンで635件。内部通報窓口として、「イオン行動規範110番・海外ヘルプライン」を国内外グループ会社約52万人の全従業員を対象に設置。就業規則に公益通報者の保護を規定し、通報しやすい環境を作っている。さらに全従業員対象の行動規範研修を毎年実施、幹部社員向けのコンプライアンス勉強会といった教育面も充実している。

4位はファーストリテイリングの434件。窓口はイントラネット上に公開しているほか、従業員休憩室にポスターを掲出するなど、従業員が相談しやすい体制を整えている。

5位は「巨額の不正会計」で大きく揺れた東芝で399件。前年の208件から191件増加した。第三者委員会から「少ない」と指摘を受けた3年前(2013年度)の61件、2年前の88件から急増している。2015年10月には従来の内部通報制度に加え、社外取締役で構成される監査委員会に直接通報できる「監査委員会ホットライン」を新設。経営トップらの関与が疑われる事実に対しても通報可能な仕組みとなっている。

通報しやすい環境整備

6位は日本電信電話で365件。前年304件から大きく増えた。2002年11月策定の「NTTグループ企業倫理憲章」には、「不正・不祥事を通報した役員および社員は、申告したことによる不利益が生じないよう保護される」と明記。匿名通報や取引関係のある会社の勤務者からの通報も受け付けている。「公益通報者保護法ガイドライン」の改正に対応し、第三者評価を実施するなど、通報しやすい環境整備を進めている。

7位はカルソニックカンセイで312件。2016年度は日本および海外でサプライヤー向けに通報窓口を拡大。利用促進を図っている。

8位はSOMPOホールディングス290件。「コンプライアンス行動規範」で汚職・賄賂に関する方針を定め、海外子会社へも周知している。

以下、9位ニトリホールディングス272件、10位パナソニック256件と続く。

年間の件数が100件以上なのは、41位佐川急便まで。50件以上なのが88位NECネッツエスアイオリンパスの2社までとなっている。

権利保護に関する規定は今回ご紹介した全社(101社)が制定。窓口は社外で一括窓口としているIHI以外はすべて社内に設置。さらにほとんどが社外にも設置していた。

通報制度が機能している環境か

さて、この件数はどのくらいが適切なのか一般に使われている基準はない。ただ、2011年度からこのデータを集めてきた経験から、従業員数と対比するのが1つの見方であろうと予想している。

たとえば、東芝の2016年度の単独従業員数は3万2353人で件数399件で割ると81.1人。参考までに上位の製造業では7位のカルソニックカンセイ(312件)は単独従業員数3741人で1件当たりでは12.0人。ほかに10位パナソニックは224.5人、11位花王28.4人、12位新日鐵住金102.1人、14位IHI39.6人などだった。

ちなみに東芝は問題発生前の2013年度の589.2人(61件)から2014年度400.9人(88件)、2015年度176.0人(208件)と急激に向上している。

通報1件当たりの従業員数は100人未満が101社中58社、200人未満は同じく79社だった。過去も状況はほぼ同じで、われわれは「1年間で100人に1人が通報する」環境が通報制度が機能している目安のひとつとみている。

もっとも単独従業員数を基準にすることは課題も多い。通報可能な対象者はグループ会社を含む場合もあるし、正社員以外のパートやアルバイトが含まれる場合もある。通報可能な人数が明確でないため、単独の従業員数を使った数字はあくまで参考データであることには気をつけていただきたい。

さて、実際の内部通報では「一部の社員が通報とは関係ない不満等をぶちまけるケースも多い」という。社内の担当者の負担は非常に大きいようだ。しかし、それでも少しでも気になる点を自由に発言できる環境であれば、早めに問題点が浮かび上がってくる可能性は高くなる。

一方、多くの一般社員にとって総務部などの窓口ではなかなか連絡しにくいかもしれない。そのため、社外窓口で一本化するといったやり方もありそうだ。