8月15日は終戦記念日。日本人が忘れてはならない大切な記念日である。

この時期になると、戦前から戦後にかけて庶民の暮らしを描いた映画が注目されるが、原作が自伝小説や文学作品などその描き方は実にさまざま。

激動の時代だったあの頃、日本人は何を考え、どんな生活をしていたのだろう。

そこで今回は、庶民の生活を通して終戦前後の日本の様子が語られている映画10本をご紹介しよう。

瀬戸内少年野球団』(1984)

みんなで力を合せて

終戦後の淡路島を舞台に、野球を通して民主主義を教えようとする女教師と、それをきっかけにスポーツに目覚めていく子供たちとの絆を描く。

原作は、作詞家・阿久悠の自伝的小説。知る人ぞ知る個性派俳優・山内圭哉のデビュー、そして夭折した女優・夏目雅子の遺作である。ちなみに郷ひろみもいい役で出演。冒頭いきなり玉音放送から始まり、それにかぶさるようにしてジャズが流れ、戦後の日本を記録したドキュメンタリー映像が映し出されていく。いよいよ新しい時代の到来!

野球中心のストーリーかと思いきや、島民たちの四季折々の暮らしぶりが大半を占める。教科書を墨で塗った数ヵ月後には、もう英語の授業だ。環境の変化にとまどいながらも、子供たちは今まで全く知らなかった野球に夢中。愛に悩める夏目雅子の姿が清楚で美しい。

『ニセ札』(2009)

一発逆転を夢見て

戦後まもない頃、山梨県で実際に起きたニセ札偽造事件を基に、小学校の教師がニセ札作りに加担していく姿を描く。

人気お笑い芸人である木村祐一の監督作品。和紙産業が盛んな小さな山村でなぜニセ札作りが行われたのか。しかもそれは、教師も名士も加担した村ぐるみの計画だった。映画ではそれに至るまでの事情と思惑が描かれ、やるせないような可笑しいような。

犯罪がらみの話ではあるが、サスペンス的なハラハラドキドキよりも何だかいい話じゃないかという思いが強く残る。新千円札が登場する機会をねらってのニセ札とは、なるほどなあ。戦後のどさくさに紛れての一発逆転。でもそれは私利私欲のため? 倍賞美津子が揺れ動く教頭役を好演。

『この世界の片隅に』(2016)

それでも日常は続く

広島で生きるヒロインが、厳しい戦時中でも日々の暮らしに楽しみや工夫を見つけながら生きる姿を描く。

こうの史代の漫画を映画化。脅威のロングランヒットを記録した映画史に残る名作である。食糧難で空襲に怯える暗い世相だったからといって、人々から笑顔が消えていたわけではなかった。ささやかなオシャレをして、恋もする。彼女たちは少しでも暮らしを豊かにしようと、精一杯生きていたのである。

玉音放送をみんながぼんやり聴いているシーンにはリアリティがあり、それまで当時の日本人をこんな風に描いた作品はなかったと思う。どこかファンタジー性がありつつも、彼女が直面する現実はあまりにも残酷で、のほほんとしているだけじゃないところが突き刺さる。

『この国の空』(2015)

母は何でもお見通し

戦争末期の東京を舞台に、若い娘と隣に住む妻子ある男との関係を描く。

1945年3月から8月14日までの物語。次第に戦局が悪化し、空襲がひどくなって緊張感が高まっていくなか、彼女は命を燃やすような恋に飛び込んでいく。映画は終戦前日で終わる。しかし、彼女の本当の戦いはそこから始まるのだ。

自分がどんな死に方をするのかと怯える男と、生きている喜びを謳歌したい女。この2人の関係をじっと見つめる母親の未亡人ならではの思惑や、空襲で焼き出された妹に対する容赦のない態度にはちょっと驚いた。当時の現実はそれだけ厳しかったのだろう。工藤夕貴がその母親を好演し、彼女の存在があるお陰で、男女の恋愛だけでない面白い映画になっている。

『母べえ』(2007)

耐えて守る

1940年世界情勢が戦争勃発の緊張を帯びてきた頃、反戦を唱えて逮捕された夫を信じて待ち続けた妻と子と、その親子を支えた人々の姿を描く。 

原作は、黒澤明映画の撮影記録係だった野上照代のエッセイ。ファシズムの影が忍び寄り、保身のため権力に従う者とそうでない者がくっきりと浮かび上がった時代。その動乱期に信念を貫いた父の晩年を通して、平和や家族の絆の大切さを訴えた作品だ。

閉塞感が充満して息が詰まりそう。そんなときに登場するのが笑福亭鶴瓶である。奈良から来たおじさんという設定だが、どう見ても大阪のオッチャンで、金のために生きているような男。「ぜいたくは敵だ」キャンペーンに本音で反論して非国民コールを受け、警察に怒られても権力に媚びたりはしない。この笑福亭鶴瓶の存在がドラマに風穴を開け、観る者をホッとさせる。

『瀬戸内ムーンライト・セレナーデ』(1997)

震災でよみがえる記憶

1995年阪神大震災のニュースを見ていた主人公は、被災地の光景からふと自分の少年時代を思い出し、戦後間もない当時の様子を回想する。 

1945年戦死した兄の遺骨を納めるため、彼は家族と一緒に神戸から別府まで船で、そこから汽車で宮崎へと移動する。その旅先で出会ったのは、時代に翻弄された戦争の被害者。戦争未亡人や孤児、復員兵などさまざまな事情を抱えた人たちだった。

彼らが船上の片隅に集まって一夜を共にするシーンは、まるで舞台劇のよう。思い出をたどっているせいか、雰囲気がちょっとノスタルジックという違和感はあるものの、懐かしい少年時代が戦後の混乱期なのだからしかたがない。懸命に生き抜こうとしていた彼らは、その後どうなったのか。しかし彼らのような人たちがいる限り、日本はきっと何度でも復興する。

『カンゾー先生』(1998)

カンゾー先生、走る

敗戦を間近に控えた1945年の岡山を舞台に、患者を「肝臓炎」としか診断しない「カンゾー先生」を取り巻く人々を描く。

今村昌平監督が30年間温めていた企画だという。当時流行していた内臓病を全て肝臓炎だと診断するかなりヘンな医者が主人公で、実は彼は独自に肝臓炎の研究をしているので、いつもそのことで頭がいっぱいなのだ。なぜそこまでして肝臓炎を? その痛ましい執念には何か深い理由がありそうだ。 

ある日、ひょんなことから脱走してきた捕虜を診療所にかくまってしまい、カンゾー先生は軍国主義の波にのみこまれてしまう。高圧的な暴力にひたすら耐えながら、それでも研究を続ける日々。広島の空に現れたキノコ雲まで肝臓に見える先生。不協和音が鳴り響くジャズ音楽に乗せ、喜劇の形式をとった反戦映画。観終わった後、しばらく心がザワザワする。

『戦争と一人の女』(2012)

タブーに挑戦

終戦前後の東京を舞台に、時代に絶望した作家と元娼婦との退廃的な同棲生活を描く。

原作は坂口安吾の人気小説。最近バイプレイヤーとして注目度アップの江口のりこが主演というレアな作品であり、しかも下半身ヌードも辞さない熱演ぶりにアッと驚く。何人の男と抱き合っても淡々としている不感症。戦争で何もかも燃えてなくなればいいと思っていて、官能とたくましさを感じさせる女だ。

玉音放送を聴いて「そんなはずはない!」と叫ぶ人もいれば、彼女のように時代の流れを冷めた目で傍観している人もいたのだろう。もう1人の主人公である帰還兵の連続強姦殺人が鬼畜レベルで、狂ってしまった彼が体現しているものは何か。反戦的メッセージがあることは確かで、心の闇を容赦なくえぐるような作品。

『海辺の生と死』(2017)

生と死のギリギリ

太平洋戦争末期の奄美群島・カゲロウ島に赴任してきた海軍中尉と、国民学校の代用教員との純粋な愛を描く。

実際にその島で出会った小説家・島尾ミホと島尾敏雄夫妻をモデルにしているという。戦後文学史に残る伝説的夫婦にふさわしく、それは一点の曇りもない一途な愛。「死」によって引き裂かれる運命だからこそ、光り輝く「生」である。満島ひかりが情熱を内に秘めた強い女性を演じ、何があっても愛を貫こうとする決死の覚悟がいじらしい。

1945年8月原爆投下後に特攻命令を受けた彼だったが、結局出陣しないまま玉音放送を聴いて終戦を知る。そのシーンが、最大のみどころだろう。玉砕する彼の後を追って死ぬ気でいた彼女は、安堵と喜びでいっぱいなわけだが、彼の複雑な心中やいかに。突然すぎて気持ちの切り替えをどうすればよいのか。波の音に心が静められる。

『少年H』(2012)

しのびよってくる

1939年から終戦後までの神戸を舞台に、洋服の仕立て屋を営む一家を通して、変わりゆく日本の姿を描く。

原作は、舞台美術家やエッセイストとして活躍した妹尾河童の自伝的小説。 父親の仕事が仕事だけに家庭料理も洋食だし、何だか上品でハイカラな家庭だなと思っていたら、戦争の足音が近づいてくるにつれて状況が厳しくなり、父親はスパイ容疑をかけられて拷問。時代の恐ろしい変化を目の当たりにさせられる。

この前まで海や山をかけまわったりレコードを聴いたりして、ごく平凡な暮らしをしていたのに。ああ、ファシズムはこんな風にしのびよってくるのかと、そのじわじわ感が丁寧に描かれている。玉音放送を聴いて泣きわめいていた大人が、敗戦後に民主主義という言葉をヘラヘラと口にするシーンもあり、実体験ならではの説得力のある作品。

いかがでしたか?

終戦を境に日本の価値観はひっくり返り、新しい時代が始まった。そして、過酷な時代に翻弄されながらも、懸命に生きようとした人たちがいた。

私たちの知らない、そして忘れてしまっている多くのことを、映画は教えてくれる。

戦争体験や戦時中の生活を描いた作品は、これからも作られ続けるだろう。戦争が遠い過去の出来事になっても、私たちがそのような映画を観て追体験することには、きっと大きな意味があるはずだ。

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