「グーグル、ついに中国で検閲に応じる? 「巨大市場」の魅力に抗えないテック企業」の写真・リンク付きの記事はこちら

グーグルは2006年に中国に進出して以来、共産党政府の命令で中国における検索結果を検閲してきた。しかし、中国の人権活動家のGmailアカウントにハッカーが侵入するフィッシング攻撃が発生したあと、同社は道徳的な計算をした。収益性の高い中国市場へのアクセスを代償にしても、検索結果の検閲を停止することを10年に決定したのだ。

それから10年近くが経ち、経済よりも社会的な利益に重きを置くというグーグルの決定は、ハイテク産業を世界の民主化勢力に位置づける分かりやすい逸話として、シリコンヴァレーの伝説のひとつになった。しかし、成長への飽くなき欲望をもつ企業にとっては、中国の魅力もまた同じく伝説的である。

中国には7億7,200万人という世界で最も多くのインターネットユーザーがいる。さらに何億もの人々が、いまだにインターネットにつながっていない。

フェイスブックのCEO(最高責任者)であるマーク・ザッカーバーグは、10億という中国の潜在的な新規ユーザーの存在に目がくらみ、2015年に自分の長女の名付け親になってほしいと習近平国家主席に申し出たとの報道もある(習はそれを辞退した)。より典型的な例は、LinkedInが現地の検閲ルールに従うというものだろう。

「検閲済み検索アプリ」を中国でローンチする計画

インターネットメディアの「The Intercept」が入手したグーグルの社内文書によると、グーグルが道徳的な立ち位置のバランスを再調整するのも時間の問題かもしれないそうだ。グーグルはAndroidの検索アプリを、人権や民主主義、言論の自由や宗教に関する共産党の厳しい検閲ポリシーを遵守するようにカスタマイズして、中国で提供開始する計画がかなり進んだ段階にあるのだという。

「これはとても残念な動きです」と、 電子フロンティア財団(EFF)のサイバーセキュリティ担当ディレクターであるエヴァ・ガルペリンは話す。グーグルが自身の検索結果の検閲に前向きになることで、中国政府の“仕事”を楽にすることになる。「彼らは本質的にグーグルをプロパガンダのツールとして使います。そして同社も、こうした使い方を容認しているのです」

グーグルの広報担当者は、『WIRED』US版に次のように語っている。「わたしたちはGoogle翻訳やFiles Goなど、中国で多くのモバイルアプリを提供しています。同時に中国の開発者を支援し、京東商城(JD.com)などの中国企業に多額の投資を行ってきました。しかし、将来の計画に関する憶測についてはコメントしません」

グーグルは検索サーヴィスがブロックされたあとも、中国から完全には撤退しなかった。同社は中国に事務所が3つあり、700人以上の社員がいる。グーグルは18年7月に、いわゆるミニゲームを中国で人気のチャットアプリ「WeChat」で提供開始している。

アップルやフェイスブックも中国政府に秋波

「The Intercept」の記事によると、「Dragonfly」というコードネームが命名された検索プロジェクトは、17年春に始まった。そして、中国の最高指導者とグーグルの最高経営責任者(CEO)であるサンダー・ピチャイが面会したあとの12月に本格化した。

同社はすでに、中国政府にアプリのデモを披露している。もしアプリが承認されることになれば、6〜9カ月内には提供開始される可能性がある。

社内文書によると、グーグルは中国のいわゆる「グレートファイアウォール(金盾)」にブロックされているウェブサイトを自動的にフィルタリングするという。禁止されたウェブサイトを検索結果の最初のページから削除し、「法的な要件のため、一部の結果は削除される場合があります」との免責を表示するのだ。

検閲対象となるサイトの例として、WikipediaやBBCが挙げられている。社内文書には、「センシティヴなクエリー(処理の要求)をブラックリスト化」して、グーグルの検索アプリが特定の単語やフレーズに対する検索結果を返さないようにするとも記載されている。この制限は、テキスト検索にとどまらない。画像検索や自動スペルチェック、検索候補などの各機能も、中国政府のブラックリストを遵守するのだ。

中国で存在感を強めている企業は、グーグルだけではない。

アップルは自社製品のほとんどを中国で生産している。大中華圏における17年9月期の年間売上げは、4,500億ドル(約50兆円)近くだったと発表している。同社は昨年8月、中国のApp StoreからVPNアプリを削除している。

『ニューヨーク・タイムズ』紙は、フェイスブックが検閲ツールを開発していると16年に報じた。このツールを使うと、中国で人気のあるストーリーやトピックを第三者が監視できるようなる。そして、投稿をユーザーに公開するかどうかを決められるのだ。

「フェイスブックは自身を恥じるべきです」と、ガルペリンは非難する。「中国政府による検閲を許容することだけではありません。問題から距離を置いて、『我慢しているんだから放っておいて』といった態度をとることもです」

自社の倫理ガイドラインにも違反?

カナダのトロント大学に拠点を置く「The Citizen Lab」が08年に行った調査によると、グーグル、マイクロソフト、米Yahoo!の検索エンジンは、すべて中国では特定のコンテンツを検閲している。中国政府から命令されていなくても「おそらく先回りしてブロックしている可能性がある」のだという。

グーグルの計画に関するニュースは、テック系の労働者たちが雇用主による事業決定の一部に反対して、組織的に動こうとするなかで表面化した。グーグルは、紛争地域におけるドローンの撮影映像に人工知能を適用する契約を米国防総省と締結したが、社内で抗議活動が起きている。

Google Research(現在はGoogle AIに改名)の創設者であり、ニューヨーク大学の倫理と人工知能を扱う研究所「AI Now」で共同ディレクターを務めるメレディス・ウィテカーも抗議活動に参加している。ウィテカーは18年8月1日のツイートで、グーグルの検閲が世界人権宣言の第19条と、CEOであるピチャイが発表したAI利用の倫理ガイドラインに違反している可能性があることを指摘している。

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