不妊治療にはお金が結構かかる。「あきらめきれない」のはわかるが、どうすればいいのだろうか(写真:kou/PIXTA)

今回、私たちファイナンシャルプランナーの事務所に「お金の相談」に来たのは、42歳で専業主婦のA子さんです。一般メーカーに勤務する50歳の夫との2人暮らしです。

疲れた様子で相談に訪れたA子の悩みはズバリ不妊治療の費用についてです。「不妊治療を始めて2年になりますが、貯蓄を半分も使ってしまい、さすがに不安になって……」と言うのです。実は最近、A子さんのように不妊治療に費用をかけすぎてしまい、家計が厳しい状態に陥ってしまう方からのご相談が増えています。早速、お話を聞いてみることにしました。

40歳から不妊治療スタート、2年間で500万円超に

A子さんは、39歳のときに友人の紹介で8歳年上のご主人と出会い、交際がスタート。交際半年にしてめでたくゴールイン。「晩婚さんカップル」ということもあり、A子さんが40歳の誕生日を迎えた日から不妊治療を始めました。

A子さんも最初は、軽い気持ちで不妊治療を始めたとのこと。確かに最近は40代でも出産している人も増えているし、「何回か病院に通えば、妊娠できるだろう」と、ご主人も思っていたそうです。ですから、最初は、基本検査やタイミング法などのいわゆる初期段階の治療を、仕事を続けながらマイペースで行っていたとのこと。

確かに、タイミング法などの検査は、1回2000円〜1万円程度で済み、健康保険も適用になります。この段階で妊娠できればよかったのですが、A子さんの場合、半年続けても妊娠に至らなかったので「人工授精」に移行することになりました。病院にもよりますが、こうなると1回1万円〜5万円程度必要で、全額自己負担になります。

6回程度、人工授精にチャレンジしたそうですが、それでも妊娠に至らず、ついに「体外授精」を行うことになりました。A子さんは、「高額だけど、妊娠する可能性が高い」と評判のクリニックに通院することにしました。この頃には、治療で使う薬の副作用が強かったり、なかなか妊娠しないことのへのあせりがあったりで、精神的にも不安定になり、結局、仕事を辞めることになったそうです。

体外授精の費用は、クリニックなど個々の医療施設にもよりますが、1回100万円程度というのが標準的な費用とされています。A子さんが仕事を辞めたうえに、1回100万円以上の費用がかかりますから、毎月の家計からのやりくりだけでは足りず、貯蓄を取り崩すことになってしまったのです。費用もかかるし、今回で辞めようと思いつつも、「次こそは授かるかも!」と、なかなか「ふん切り」をつけられずにいたそうです。

不妊治療に熱心になるあまり…、夫との仲が険悪に

まじめなA子さんのことです。不妊治療だけではなく、それと並行してスイミングスクールに通ったり、良質なサプリメントを飲んだり、無添加の食材にこだわったりと、日常生活でも健康になるように努めました。

また、週末は、ご主人と子どもが授かると評判の神社にお参りにいったり、妊娠しやすい温泉があると聞けば、旅行がてら温泉につかりにいったりと、不妊治療以外の費用もかさむようになってしまいました。

それでもなかなか妊娠しないので、A子さんは、占いを受けにいきました。そこまではよくわかるのですが、その占い師から、「妊娠しやすいつぼがある」と聞き、藁(わら)にもすがるつもりでそのつぼを購入したというのです。その金額はなんと、100万円でした。

この高価なつぼで「冷水を浴びると、妊娠する可能性が高い」と説明を受け、A子さんは毎日冷水を浴びたそうです。その姿を見ていたご主人は、「君がとても子どもが欲しそうだから僕もできる限り協力してきた。でも変な占いにまで走ったりするし、僕は精神的にも金銭的にも限界だ!」と、ついにキレてしまったそうです。

その日を境に夫婦関係もギクシャクしてしまったA子さんご夫婦。そこでA子さんは、いちばんの心配だったお金のやりくりや今後のマネープランについて、第3者の客観的な意見を聞こうと、相談にいらしたのでした。

ご相談にいらしたとき、A子さんはすでに専業主婦になっていたので、収入はご主人の給料のみです。手取り月収40万円のうち、不妊治療関連費用で毎月15万円以上の出費がかさんでいます。ほかに毎月15万円程度の住宅ローンの支払いもあります。残りの金額で光熱費、民間の保険料、通信費、その他雑費を支払うと、家計には余裕がありません。

このままでは仮にお子さんを授かったとしても、その後の長きにわたってかかる教育費のことを考えると、決して楽観できる状況ではありません。
 特に今回のように、妻が40代、夫が50代というケースでは、役職定年でお給料が下がったり、親の介護費用が必要になったりと想定外の費用がかかることも考えておく必要があります。

治療前から、あらかじめ「区切り」を考えておく

今後収入が低くなる可能性が高いうえに、教育費、住宅費、老後資金と人生の3大資金が人生の後半に重くのしかかってくるのですから、不妊治療についてもどこで区切りをつけるかを明確にすることが必要です。

A子さんは、東京都から不妊治療の助成を受けていますが、43歳を超えると、助成を受けられなくなります。相談に見えたときには43歳になるまであと3カ月でしたが、今回は相談を受けたことで家計の状況もあきらかになり、43歳で不妊治療に区切りをつけることになりました。結局、43歳まで不妊治療を続けたA子さんですが、治療期間中には残念なことに子どもは授かりませんでした。

ところが、信じられないような本当の話なのですが、治療を辞めて3カ月後に「妊娠しました!」とうれしいご報告をいただきました。

A子さんは、不妊治療期間中、ご主人と治療のことしか話してこなかったことに気がつき、不妊治療をやめてからは、ご主人と映画を観に行ったり、おしゃれなレストランで食事を楽しんだりと、リラックスした時間を過ごすようにしたそうです。それが良かったのかもしれません。

筆者の周りでも、不妊治療を辞めたとたんに子どもを授かるという人が少なくないのですが、もちろん、今までの治療の効果が出たのかもしれません。しかし、個人的には、やはり過度なプレッシャーから解放され、穏やかな時間を過ごすことができたことが妊娠につながったのではないかと思います。

不妊治療はとてもデリケートな問題なので、なかなか割り切れない部分も多いかと思います。しかし泥沼にはまってしまうと、家計だけでなく、夫婦関係の「ダブル破綻」にまで追い込まれてしまいます。

できれば、不妊治療に入る前の冷静な時期に「いつまで行うのか」「いくらまでなら予算をかけることができるのか」など、今後の人生のプランも含めてどこで「区切り」をつけるのかを考えておくことが大切といえます。