大塚久美子社長は再建の道筋を描けるのか(撮影:今井 康一)

父と娘の激しい対立から3年――。大塚家具がピンチに陥っています。業績の大幅な悪化を受けて財務基盤強化は必須で、身売り説が複数のメディアから報じられています。

大塚家具の業績の低迷は、お家騒動によって企業イメージが棄損したこと、購買力のある中間層が縮小したことなど、いくつかの理由が指摘されていますが、筆者は、社会保険労務士として大塚家具の従業員の人心が離れてしまっているのではないかと気になっています。問題は大きく3つに整理できます。

従業員を犠牲にしてまで株主還元が必要だったのか

まず、株主の利益を重視しすぎて従業員を犠牲にしてしまったことが、人材流出につながったのではないかという問題です。

直近3カ年の有価証券報告書を見ると、2015年12月期に484万6000円だった従業員の平均年収は、2017年12月期には428万8000円まで下がりました。わずか3年で55万8000円。1割超のダウンです。


1株純利益が僅少または赤字にもかかわらず配当を続けていたこと自体も問題ですが、この配当の支払いが従業員を苦しめた可能性は否定できません。

確かに、会社の業績が悪化した場合に、従業員の給与や賞与がカットされるのは一般的なことですし、大塚家具も上場企業である以上、株価対策として継続的な配当を行う必要性はあります。

しかしながら、教科書的な考え方としても、赤字の会社は配当を出す必要はありません。ましてや、従業員の支払う給与や賞与を削ってまで株主還元が必要だったのかということです。

そもそも、大塚家具の従業員の給与は2015年12月期時点でも決して高い水準にはありません。東京商工リサーチによれば、2017年決算における上場2681社の平均年収は、599万1000円(中央値586万3000円)です。

平均年収が1000万円を超えているような会社ならばともかく、500万円弱の年収から60万円近くもダウンしたことは従業員の生活に大きな影響が生じます。

大塚家具の従業員数は2015年12月期の1744人から2017年12月期には1489人と、255人も減っています。店舗閉鎖など事業規模の縮小もあったとは思いますが、収入の減少に苦しんで不本意ながら退職を選んだことによる従業員の流出も少なからずありそうです。

間接部門のスリム化が遅れている

2つ目の問題点は、経営効率の改善や人員配置がうまくいっていないのではないかということです。

大塚家具の2015年12月期は売上高580億円に対して、2017年12月期は410億円まで下がりました。これに伴って従業員数が減っているのは自然な流れです。ただ、問題は従業員1人当たりの売上高が3325万円(2015年12月期)→2753万円(2017年12月期)と減少傾向にあることです。


あくまでも数字を読み取っての推測になりますが、売り上げを上げられる経験やスキルのある人材が流出している可能性もありそうです。大塚家具がさらなる縮小均衡を避けるためには、これ以上の人材流出を防ぎ、1人当たりの売上高を向上させる施策を打つことが人事戦略としては必要になってくるでしょう。

これに関連してもう1つ気になることは、本社部門が肥大をしている可能性があるということです。本社所属の従業員数は2015年12月期に254人でしたが、2017年12月期は265人に増えています。

売り上げが低迷している場合は間接部門のスリム化を図ることが経営の定石ですが、大塚家具の場合、会社全体の要員数が減少しているのに、逆に本社所属の従業員数は増加傾向にあることが筆者は気になりました。

さらに言えば、有価証券報告書で本社所属に分類されている従業員数が増えているだけではありません。2015年の有価証券報告書ではコントラクト(法人営業部門)が本社所属に含まれていたのですが、2016年以降は、コントラクトは本社所属に含まれていないので、数字上の見た目以上に間接部門の従業員数が増えているように見受けられます。

会社の機能として間接部門はもちろん必要ですが、利益を生み出す役割ではないので、間接部門のスリム化が遅れていることも経営効率の悪化の一因になっているのではないでしょうか。

ただし、本社部門の人員増加の前向きな理由として1点考えられることに、大塚家具がインターネットを通じて家具を販売するEC事業を開始したことが挙げられます。おそらく、本社所属の従業員の内数にはEC事業担当者も含まれていると考えられます。

2017年のEC事業部門の売上は2.34億円であり、同社事業計画によると、2018年は5億円と、2倍以上の伸びを見込んでいるということです。

本社所属の従業員のうち、何名がEC事業に携わっているかの詳細はわかりませんが、EC事業は実店舗より少ないコストで売り上げを立てることができるはずですので、今後EC事業が大塚家具の業績にどのような影響を与えるのかを見守りたいところです。

従業員持株会の急激な縮小

最後の問題点は従業員持株会の急激な縮小です。

従業員持株会は2013年12月期に52万2000株を保有していましたが、2017年12月期には同28万6000株と半分近く減っています。


従業員の退職が主な理由だと推測されますが、従業員数の減少割合よりも持株会の縮小割合がはるかに大きいことが気がかりです。社歴の長い従業員が退職していることや、それに加え、退職はせずとも会社の先行きに不安を感じ持株会を脱退している従業員が増えている可能性がありそうです。

持株会を含む長期スパンでの株式投資は、株価の低迷期に我慢したり追加投資を行ったりすることで次の業績回復時に大きなリターンを得られるというのが醍醐味ですが、株価の低迷期に損失覚悟で従業員が自社株を現金化したほうが良いと考えているのかもしれません。

逆に、今後従業員持株会の持株数や持株比率が反転上昇することがあれば、会社と従業員の信頼関係が回復したと推察することができますので、持株会の動向は見守っていくべき指標の1つと言えるでしょう。

大塚家具にとっては資金面をはじめとする支援先を見つけるのはもちろん大事ですが、同時に、従業員の心をつかむための手を打つことも、再浮上のきっかけをつかむためには欠かせないことでしょう。