厚生年金を必死に払ってきたのに、自分が死亡した後は遺族厚生年金に1円も反映されない…そんな事態が起こり得ることをご存知でしょうか。今回の無料メルマガ『年金アドバイザーが教える!楽しく学ぶ公的年金講座』では著者のhirokiさんが、そんな驚くべき事例を紹介しつつ、「遺族厚生年金」というものについて詳しく解説しています。

こんなに厚生年金支払ってきたのに遺族厚生年金に1円も反映されない事態!

一家の大黒柱というか、年金に加入してる人が死亡すると遺族年金の話になってはくるのですが、請求すれば必ずもらえるわけではありません。年金は保険だからちゃんと支給条件はあります。

今の年金制度は20歳になると一部を除き、必ず国民年金に加入し、また、どんな職業の人であっても国民年金に加入してる状態です。サラリーマンや公務員のような厚生年金被保険者であろうと20歳から60歳の前月までの480ヶ月は必ず国民年金に加入している状態。国民年金の上に、厚生年金が乗っかって、その厚生年金の上に各自の企業年金が乗っかってる。もう何度も言ってきた事ではありますが(笑)。

だから、たとえずーっとサラリーマンであっても65歳になれば国民年金から老齢基礎年金が支給されるし、また今回の遺族年金貰う時や障害年金を貰う時も基礎年金と厚生年金合わせて支給というパターンになったりする。まあ、今日は遺族年金ですが、ちょっと今回みたいなことも知っておくといいかなと思います。

1.昭和48年8月3日生まれの男性(今は45歳)

● 何年生まれ→何歳かを瞬時に判断する方法!(参考記事)

20歳になる平成5年8月から平成8年3月までの32ヶ月は夜間の大学だった。この期間は未納にした。余談ですが、今の学生に適用される学生納付特例免除は夜間、定時制、通信の学生は平成14年4月から適用となった。

平成8年4月から平成28年3月までの240ヶ月は厚生年金に加入。なお、平成8年4月から平成15年3月までの84ヶ月の平均給与(平均標準報酬月額)は38万円とします。平成15年4月から平成28年3月までの156ヶ月の給与と賞与の合計額の平均額(平均標準報酬額)は45万円とします。

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※ 参考

なんで平成15年度で分けてるかというと、平成15年4月からは賞与からも厚生年金保険料を徴収するようになり、年金額にも反映するようになったから。

一応平成7年4月から賞与から1%の特別保険料というのを徴収していたが、年金額には反映していなかった(年金財源に使うのみだった)。

平成15年度から賞与にも厚生年金保険料を徴収する事により、給与は低くして厚生年金保険料の負担を軽くして、その分賞与を高く支給して厚生年金保険料の負担から逃げるという手段を回避する事ができるようになった。

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で、平成28年4月から平成30年10月までの31ヶ月間はフリーターとして国民年金加入だった。

平成30年10月31日に心筋梗塞により死亡(国民年金の資格は死亡日の翌日である11月1日に喪失するから前月の10月分まで含む)。また、この男性には死亡当時生計維持してる42歳の妻(死亡者とは同居で、妻の前年収入は850万円未満)と、15歳の子と12歳の子が居た。

さて、ここで遺族年金の請求をするわけですが、死亡したこの男性には国民年金と厚生年金期間がありますよね。という事は遺族厚生年金が貰えるのかと思いきや…貰えないという結果になった。ただし、国民年金からの遺族基礎年金は貰えますよと言われた。

なんでだ! なんで遺族厚生年金は貰えないのか! 240ヶ月も厚生年金に加入してるのに。

まず結論としては、死亡した時に加入してた年金制度が国民年金のみの加入中だからです。だから、遺族厚生年金は貰えない。

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ちょっと遺族厚生年金の支給条件を確認してみましょう。

1.厚生年金加入中の死亡。

2.厚生年金被保険者ではなくなったが、厚生年金加入中の傷病の初診日から5年を経過する日前のその初診日に関係する傷病が原因による死亡。

3.障害厚生年金1級または2級の受給者の死亡。

4.老齢厚生年金の受給資格期間を満たした者、または老齢厚生年金の受給者の死亡。

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あのー、平成29年8月に老齢厚生年金の受給資格期間を満たす場合は25年以上ではなく10年に短縮されましたよね。ただ、遺族厚生年金の場合は原則25年以上を満たさないとダメなんですね。

この男性の年金記録を見てみると、1〜3には該当せず、更に25年以上(300ヶ月以上)無いですよね。全体としては、303ヶ月ありますが学生時代に32ヶ月の未納があるから271ヶ月の期間が有効期間となる。だから、1〜4までの条件のどれも満たさないから遺族厚生年金は貰えない。ただし、国民年金からの遺族基礎年金は支給される。死亡した時が国民年金のみの加入中だから。

もちろん、国民年金加入中の死亡というだけで遺族基礎年金が支給されるわけではないですが、死亡した月の前々月までの年金保険料を納めなければならない期間(平成5年8月から平成30年8月までの301ヶ月)の間で未納は3分の1以下(33.33%以下)でないといけない。301ヶ月に対して32ヶ月間の未納だから、未納割合は10.63%しかないから大丈夫。まあ、死亡日の前々月までの直近1年間に未納が無ければそれでも構わない。というか、手っ取り早くこの直1年見ますけどね^^;

遺族の前年収入も夫死亡時点で850万円未満(一時的な所得などは除く)だから大丈夫。また、遺族基礎年金は貰える遺族は「18歳年度末未満の子のある配偶者」もしくは、「18歳年度末未満の子」に限られる。妻か子供どちらが、支給されるかというと今回の場合は妻。子のある配偶者が優先して支給される。配偶者に支給されてる間は、子に対する年金は停止している状態。

・妻に支給される遺族基礎年金→遺族基礎年金779,300円(定額)+子の加算金224,300円×2人=1,227,900円(月額102,325円)

となる。この年金は上の子が18歳年度末を迎えるとその翌月から、779,300円+224,300円=1,003,600円(月額83,633円)に減額し、下の子が18歳年度末を迎えると完全に0円となり年金は消滅する。なお、子が18歳年度末になる前に障害等級1、2級(障害手帳の等級ではないです)に該当するなら子が20歳になるまで遺族基礎年金が延長される場合もある。

よって、本来は基礎年金と厚生年金はセットで支給されるものなんですが、今回のように厚生年金期間がすごくあっても、国民年金からの支給のみという事になる。今回の事例のように、比較的若い人の死亡だと25年を満たせてない人が居るので、そういう事も起こりうるわけですね。

ちなみに、この男性が学生時代に32ヶ月間が未納じゃなく、せめて免除期間とかだったら有効な年金記録が300ヶ月以上なので遺族厚生年金もセットで支給されてた。その32ヶ月間を満たしてるとした場合の年金総額は以下のようになっていた。

・遺族厚生年金→(38万円÷1,000×7.125×82ヶ月+45万円÷1,000×5.481×156ヶ月)÷4×3=(227,430円+384,776円)÷4×3=459,147円

だから、下の子が18歳年度末になるまでは遺族基礎年金に遺族厚生年金459,147円も支給される。

ちなみに、下の子が18歳年度末を迎えると遺族基礎年金自体が丸々消滅しますが、下の子が18歳年度末の翌月からは遺族厚生年金に中高齢寡婦加算584,500円(定額)が加算される。なぜ中高齢寡婦加算が支給されるかというと、この死亡した男性には240ヶ月以上の厚生年金期間があるから(240ヶ月ジャストでしたね^^;)。

よって、18歳年度末未満の子が居なくなったら妻には遺族厚生年金459,147円+中高齢寡婦加算584,500円=1,043,647円(月額86,970円)が支給される。中高齢寡婦加算は妻が65歳になるまでの加算。

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遺族厚生年金は再婚とかしなければ基本的に終身支給(妻の65歳以降の老齢厚生年金額によっては支給されなかったり金額が減る事もありますがこの記事では割愛)。

というわけで、遺族の為にも25年以上の期間は満たすようにしておいたほうがいいかな〜といったところですね^^。

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