歩行者用の信号が全方向同時に青になる交差点がありますが、「斜め横断」が認められている箇所はごく一部です。有名な渋谷駅前交差点のようなスクランブル方式ではこれが可能ですが、ほかの方式とどう違うのでしょうか。

「スクランブル式」は歩車分離式信号のひとつ

 車両側が全方向赤で、歩行者側が全方向青になるなど、歩行者とクルマの青信号が分離された信号は「歩車分離式信号」と呼ばれ、そのように書かれた標示板などが設置されているケースもあります。


歩車分離式信号には、それを案内する標示板が設置されていることも(画像:写真AC)。

「歩車分離式信号」は厳密には、次の4方式に分類されます。

・スクランブル式:全方向の車両を同時に停止させるあいだに、全方向の歩行者を同時に横断させる方式で、斜め方向の横断を認めるもの
・歩行者専用現示式:全方向の車両を同時に停止させるあいだに、全方向の歩行者を同時に横断させる方式で、斜め方向の横断を認めないもの
・右左折車両分離式:歩行者を横断させるとき、同一方向に進行する車両を右左折させない方式
・右折車両分離式:歩行者横断させるとき、同一方向に進行する車両を右折させない方式

 このなかで「歩車分離式」という標示板は一般的に、歩行者専用現示式の信号に設置されているものです。スクランブル式もまた、「スクランブル式」と書かれた標示板が設置されることがあります。

 歩行者専用現示式でも歩行者が横断しているあいだは交差点内に車両が進入してきませんが、歩行者が交差点内を斜めに渡れるのはスクランブル式のみです。両者はどのような特徴や違いがあるのでしょうか。2016年度末時点で歩車分離式信号の整備率日本一という長野県警の交通規制課に聞きました。

――歩車分離式信号はどのような交差点に導入しているのでしょうか?

 過去にクルマと歩行者の事故が起こったところや、公共施設の周辺、通学路、また歩行者の通行が多く、導入によって交通状況の改善が期待される場所などに設置しています。歩行者とクルマが交錯しないので、巻き込み事故などの防止に効果があるほか、クルマも横断歩道の前で停まる必要がありませんので、通行の円滑化が図れるのです。

スクランブル式のメリット・デメリットとは?

――スクランブル式信号が導入された交差点は、どのような点が違うのでしょうか。

 特に歩行者が多い交差点で採用される傾向です。たとえば長野市内では長野駅前交差点や、そのすぐ西側の末広町交差点、(観光名所の)善光寺に近い大門交差点などがあります。ただ、スクランブル式の導入には斜めの横断歩道を施工したり、それが接続する歩道側のガードレールや縁石を撤去したりと整備が必要です。場所によっては導入が難しいこともあります。


スクランブル式交差点のイメージ(画像:写真AC)。

――歩車分離式、スクランブル式ともにデメリットはないのでしょうか?

 クルマ、歩行者ともに待ち時間が増加することです。渋滞するような場所では導入が難しいといえます。また、スクランブル式は大きな交差点ですと斜めに横断するのに歩く距離が増え、そのぶん青信号も長くするので、待ち時間もさらに長くなります。

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 警察としては、横断歩行者は「早く渡っていただきたい」(長野県警)といいますが、歩く距離が長くなるスクランブル式は、そのぶん歩行者が交差点内に滞留しやすくなることも。やや極端な例かもしれませんが、多いときには1回の青信号で3000人が渡るという東京・渋谷駅前のスクランブル交差点では、大晦日やサッカーの試合後といった人が集中する際、迂回路が案内されたうえで、斜め横断が禁止されることがあります。

 ちなみに、警察庁は歩車分離式信号について、安全面の効果があるとして、2002(平成14)年に全国の警察へ通達を発して整備を推進しています。全国における歩車分離式信号の整備数は2017年3月末現在で約8900基、全信号機約20万8100基のうちの約4.3%です。

 このなかで、長野県内における歩車分離式信号は424か所を数えます。うちスクランブル式信号は173か所ですが、たとえば東京都や千葉県では、スクランブル式信号はそれぞれ50か所程度となっています。

【図】「歩車分離式信号」種類ごとの通行パターン


歩行者の横断が可能な現示を色付きで示す。実線矢印は車両、破線矢印は歩行者。右左折車両分離式と右折車両分離式は全方向に横断歩道がある場合(警察庁の画像を加工)。