前節の浦和レッズ戦で1-4と完敗したサンフレッチェ広島。続く第19節の横浜F・マリノス戦も、序盤は相手にボールを支配されて苦しい戦いを強いられた。それでも、前半終了間際にFWパトリックがPKを決めて先制すると、後半の立ち上がりに続けざまにゴールを奪って4-1と快勝。連敗を免れて、首位の座を堅持した。

 試合終了間際に1失点したものの、体を張って球際で厳しくいくなど、基本に忠実な守備に徹してDFラインをコントロールしていたのが、DF水本裕貴だ。

「レッズ戦の悔しい負けを取り返せた。勝ち点3をしっかり取れたので、ホッとしました」

 広島が首位を走る要因のひとつは、堅守だ。それだけに、前節の浦和戦で4失点を喫したことは、水本ら守備陣にとっては屈辱的であり、危機感を覚えるものだった。横浜FM戦ではその点をしっかり修正して結果を出せたことで、水本の表情からは安堵の色がうかがえた。


日本代表の新たな指揮官となった森保一監督

 先月、その水本にうれしい報せが届いた。日本代表の新たな指揮官に、かつて広島を率いていた森保一監督(五輪代表兼任)が就任した。そのことに話題を移すと、水本はうれしそうに語った。

「本当に素晴らしいこと。ポイチさん(森保監督)と一緒に5年半プレーしてきた選手として、すごく誇らしいことです」

 水本は、2011年に京都サンガから広島に移籍し、森保監督がチームを率いた2012年から2017年7月までのおよそ5年半、ともに戦った。

 森保監督は、前任のペトロヴィッチ監督のやり方を引き継いで、”勝てるチーム”へとモデルチェンジしていった。水本はそのプロセスのなかで、中心選手のひとりとして重要な役割を担ってきた。

 水本によれば、森保監督は指揮官に就任したときから広島を去るまで、選手たちに一貫して要求することがあったという。

「ポイチさんが広島の監督時代によく言っていたのは、『最後まであきらめないこと』。どんなにうまい選手でも、最後までアグレッシブに戦うこと。何点取られてもあきらめないこと。技術的なこと以上に、まずは戦う姿勢を強く求められた。たぶん代表でも、ポイチさんはそれを要求していくと思います」

 水本にはもうひとつ、森保監督によく言われたことで印象に残っていることがあるという。

「お見合いは絶対にするな」

 森保監督は水本に限らず、そのことについては選手たちに口酸っぱく言っていたそうだ。

「浮いたボールで、味方同士がお互いに見合って、落ちたボールを相手にかっさわれることがよくあるじゃないですか。そんなことになるなら、『(味方の)ふたりがそのボールに対応しようとしてぶつかって、それで(相手にボールを)持っていかれたほうがいい』って、よく言われました。これも”戦う”という部分のひとつだと思うんですが、そのことは印象に残っていますね」

 実際にお見合いしたら、はたしてどうなるのか。プレー中に、森保監督から怒鳴られたりするのだろうか。森保監督は、あまり感情を露(あら)わにしないタイプに見えるのだが。

「怒るというよりも、厳しく言う感じですね。たとえばミスした場合でも、そのミスの質によります。積極的にトライしてのミスについては何も言われませんが、ビビッていたり、消極的だったりしたプレーでのミスは厳しく注意されます。

 基本的に(森保監督から)すごく怒られるようなことはないです。ハーフタイムに思い切り”喝”を入れられたのは、5年半で2回ぐらいです」

 森保監督が広島を率いて初めて、ハーフタイムに烈火のごとく怒りを見せたのは、2012年のアウェーのセレッソ大阪戦だったという。MF高萩洋次郎(現FC東京)のゴールで先制するも、その後はセレッソの猛攻に抗(あらが)う姿勢を見せず、同点に追いつかれて前半を終えた。そのとき、「戦っているのか!」と森保監督の雷が落ちた。そして、結果的に試合は4-1で勝利した。

「2回目は、2015年のアウェーのレッズ戦です。ゲームをレッズにコントロールされて、先制を許して0-1で前半を終えたんです。そうしたら、ハーフタイムに『おまえら、戦う気があるのか!』って(森保監督から)めちゃめちゃ怒鳴られました。

 やるべきことができていないうえ、戦えてもいなかったので、喝を入れられた。それで後半は、アオちゃん(青山敏弘)とタクマ(浅野拓磨/現シュツットガルト)のゴールで逆転勝ちしました」

 森保監督は一見、おとなしそうな風貌で、普段は滅多に怒ることがないだけに、ひとたび激昂したときは、その思いが選手たちの心に強く刺さるのだろう。喝を入れられた2試合は、ともに後半から選手たちのプレーが大きく変わって、いずれも勝利を得ている。

「ポイチさんは、見た目は温厚に見えますけど、中身はめちゃめちゃアツい人ですから。しかも、選手に対して親身な対応をしてくれる。いいプレーをしたときは、ちゃんと褒めてくれるし、悪いプレーをしたときは『どうした? 大丈夫か?』と声をかけてくれる。(選手の)ケアをすごくしてくれるんです。それも全選手、誰に対しても隔たりなくしてくれる。

 そういうのもあって、みんな『ポイチさんのために』って戦えた。『この人を男にしたい』と思える監督でした。代表でも、きっとそうなるんじゃないかなと思います」

 森保監督は広島を率いた5年半で、3度のリーグ優勝をチームにもたらしている。代表監督就任にはその結果も評価されてのことだが、水本は森保監督のどういったところにすごさを感じていたのだろうか。

「絶対にブレないところです。2012年に広島の監督に就任して、当初は勝ったり、負けたりしたんですけど、決してブレなかった。(森保監督は)『今、これを続けていけば、必ずよくなる』と言い続けて、実際にそうなった。

 そのシーズンに優勝して、トータル3回優勝できたのは、ポイチさんがブレずに自分のサッカーを貫いたから。代表でも変わらず、自分のやり方を貫くでしょうし、ブレずに戦っていくと思います。それが、ポイチさんのスタイルなんで」

「ポイチさんのために」――選手たちがそう思って戦った広島は強かった。森保監督は日本代表でもそういうチームを築いていけるだろうか。森保監督にとって、大きな挑戦がいよいよ始まる。

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