中国人と日本人の若者同士の結婚観の変化を考察します(写真:Pangaea / PIXTA)

日本人男性と中国人女性の結婚について、「年上の日本人男性と、10歳、20歳も歳が離れている年下の中国人女性」というイメージを持つ人も多いだろう。

確かに数十年前は日中の経済格差が激しく、日本人と結婚し、日本で暮らし、中国の実家に仕送りをする中国人女性もいた。

現在、30代以下の中国人の若者は、「新在日中国人」として注目されている。それ以前の世代と違う価値観、行動様式を持つため、新たな動向もうかがえそうだ。

今回は、若い世代である新在日中国人と日本人の国際結婚事情と、その背景をみてみたい。

「好きな人は、たまたま日本人だった」

若者同士で日本人と結婚した何人かの在日中国人にインタビューしたが、いちばん印象深いのは「好きな人は、たまたま日本人だった」という共通の言葉だった。若い中国人が若い日本人と結婚するケースでの注目すべきポイントだ。

結婚まで至る経緯は、学生時代に出会ったり、アルバイト先で一緒にシフトに入ったり、入社後になって同僚や友達の紹介で知り合ったりする。これは日本人同士の結婚でも同じだろう。

まだステレオタイプの中国人像に「洗脳」されていないうちに、お互い自然に接することができ、関係を深めていった。では、冒頭の楽にもみえる「年の差婚」より、若者同士で結ばれることがなぜ増えているのかというと、大きく3つの理由がある。

1.日中の経済格差の縮小

今から30年ほど前、1980年代後半ごろの日本と中国はあまりにも別世界だった。コメや小麦粉、砂糖まで配給制だった中国、個人の海外旅行はもちろんなく、海外出張といえば、一家の誇りだった。

海外に行くために専用のチケット(服を作る許可証)をもらえ、それがあれば専用のスーツ(中山装、日本では人民服と呼ばれる)を作ってくれる。テレビがある家族は大金持ちだとみられ、「冷蔵庫、テレビ、洗濯機」は結婚までに準備する「三種の神器」だったのだ。

一方で、当時の日本はバブル経済の最盛期だった。食べ物は何でも買い放題で、スーパーマーケットは日常にあって当たり前。砂糖制限どころか、中国でほとんど見られない生クリームで作ったケーキもあふれている。

黒やグレーの服、すっぴんの女性がまだまだ多い中国に対し、なんとカラフルで多様でおしゃれな日本人ガール! マイカーを持ったり、新幹線での移動、一家に1台のエアコンは普通であり、街も整備され、中国よりも断然生活が豊かだった。

当時来日した中国人が、どれだけ刺激を受けたかも想像に難くない。来日した人の口コミや、そして日中友好の時期でもあってか、中国人は、なんとなく日本に対してある「あこがれ」を抱いていた。

もちろん、結婚して日本で暮らすことは、「自慢」できることだった。年上の日本人と結婚して毎年帰省する親戚のおばさんがくれた見たこともないかわいい文房具、ハンカチ、お菓子は毎年旧正月明けにいちばんクラスで自慢できるものだったこと。

娘が日本人と結婚したので、両親は当時配給制だった電気製品や外国人しか買えない商品も買えるようになり、周りからちやほやされる話はドラマでも現実でもよく聞く話だった。

しかし、30年経った今はどうか。

品物の豊富さ、生活の便利さについて、中国国内でのレベルは飛躍的に高まった。スマホ決済や無人コンビニなどスマホを活用したサービスにおいては日本よりも先進的だ。海外の情報もリアルタイムにフォローしており、特に欧米の商品であれば、同時発売なども増えているため、中国の若者は感覚が世界とシンクロしてきた。

お金に余裕のある在日中国人の若者も多いのは事実

また、一人っ子政策の結果、今の若者は両親と祖父母たちのシックスポケットで支えられ、経済的に余裕がある中で育ってきた。大学、留学の学費や生活費を親からもらうことも当たり前。「子どもにできるだけの最高を提供」と思う親が多いので、大学でバイトしながら生活費を稼ぐ日本人若者より、中国人留学生のほうが持っているお金が多いこともあるだろう。

「BAPE」でも「Supreme」「COMME des GARÇONS」でも、有名ブランドを、日本人がユニクロを買うような感覚で買っている若い在日中国人も多い。

となれば、結婚も国籍にとらわれず、気持ち優先で選ぶようになった。

「日本人の彼氏が家族に『向こうの貧しい中国人の親戚が来たらどうする?』と猛反対されているみたい。彼のことが好きだから我慢しているが、どっちのほうが貧しいの?とこっちが聞きたいぐらいだわ」と中国南部にある大手民間企業経営者のお嬢様が思わず本音を明かしたこともあった。

2.共通話題で共感が増えた

現在30代の中国人は、中国における初めてのアニメ世代だ。「ドラえもん」「北斗の拳」「聖闘士星矢」「花の子ルンルン」「名探偵コナン「スラムダンク」「フルーツバスケット」「ワンピース」など、日本の文化が徐々に浸透してきて、知らないうちに両国の若者の間で共感ができることも多くなってきた。

あるアニメファンは、念願の初来日を果たしたとき、東京タワーで「ワンピース」の催事を見て、秋葉原でグッズを爆買い。そのあと「スラムダンク」の聖地である鎌倉高校前の踏切で写真を撮って、そのまま鳥取に行き、「名探偵コナン」の町を巡礼した。

アニメに出た天丼やビールを楽しみ、独学した「ただいま」「いただきます」「すみません」などの日本語を話す。「少ししゃべれば日本の文化、アニメの世界とつながる気がする」と。こんなことがきっかけで日本に留学する中国人も少なくない。

日本人にとって中国人の若者は、日本人にとっては前世代に感じたセンスが悪く太ったうるさい中国人おばさん、中山装(人民服)のいちばん上のボタンまで締める厳しいおじさん、といった「別世界のような存在」ではなく、もっとフランクに話すことができ、「普通に」付き合える相手になったのではないか。

もちろん、年上の日本人と結婚する中国人もまだいるが、今は年齢や裕福さより、好きな人、話が合う人と付き合い、結婚することが好まれるように多くなってきたといえるだろう。

3.日本人の親―シルクロード世代の国際視野

もう1つの影響が、今の日本人若者の親世代だ。50代以上の日本人は、若い頃日本の経済成長に伴い、会社の国際展開にも関与するようになった。海外出張、海外駐在、あるいは日本本社の国際担当といった仕事で、外国人との接触が増えた。その人たちは、日本と違う文化を持つ国や人に対する寛容力が高くなり、子どもの教育もなんらかの形で「国際的」になる。

海外で教育を受けさせたり、英語を重視したりするのも当然だろう。何より、他国の人への抵抗感が比較的に少ないといえる。

自分の子どもが中国人と結婚したいと言い出したとしても、「外国人、ましてや中国人だからダメ」というハードルはないだろう。むしろ、テレビ番組(NHK特集の「シルクロード」など)の影響を受け、中国文化を尊重し、子どもの婚姻にも過剰な干渉しないようにしているようだ。

実際、日本では国際結婚のハードルがまだまだ高いが、スムーズに結婚しかつ円満な暮らしを送っている日中夫婦で、日本人配偶者のご両親が大学の先生、企業の国際部門責任者、海外赴任経験者であるケースを筆者はいくつも知っている。

「上海丈夫(家事をする男)最高!」

もう1つ興味深い動向は、これまでのパターンとは逆の「中国人夫と日本人妻」という夫婦の増加である。

「女性が外に嫁ぐ」が相変わらず主流だが、逆パターンも徐々に人気になっている傾向がある。理由の1つは、日本人女性の社会進出だろう。

今まで、女性は家庭、男性は仕事というのはデフォルトだったが、女性の社会進出の増加、自己実現意欲の向上により、家事と子育てに充てられる時間が減少している。一人で回らない場合、夫に手伝ってほしいものだが、中国では中華人民共和国建国以来、共働きがデフォルトなので、中国人男性のほうが家事、育児に抵抗感が低いようだ(上海の男性はその傾向があるともいわれる)。

中国人男性の多数は、プライベートを犠牲にしてまで仕事をすることはなく(日本企業では出世に響くといわれるが)、家庭を重視する。小さい頃から自分の父も普通に料理をし、学校の行事にも来ているので、男性だからしないという考えはない。日本人男性に比べ家事を分担してくれるので、バリバリ働きたい日本人女性にとって大きな助けになる。

日本人と違う魅力もあるそうだ。

実際、筆者がインタビューした日本人女性の話によれば、中国人男性は最初「怖そう」に見えるが、実際はとても優しい、という。「今までデートで、割り勘したことは一度もない。いつも当たり前のようにごちそうしてもらっている。ファミレスでもとてもうれしい」「バッグや荷物を全部持ってくれるの。買い物も付き合ってくれてうれしい」「親に会うときも、ちゃんと責任を持っていろいろ話してくれて安心」……。

「中国人彼氏に比べると、日本人男性は本当にケチ」とのコメントも飛び出した。日本は、女性の社会進出が進み、個人主義になってきたため、カップルでもある程度までしかお互いの面倒をみないし、各自が独立した生活を持つ。割り勘が文化になっている。

一方中国は、まだ家父長主義であり、自分の妻は自分の一部なので、高価なブランドを買うのも、一緒に買い物や旅行に行くのも、自然である。

つまり、中国人男性は、家事をして、家庭生活を重視する、いつも一緒に行動してくれてケチでもない。今までの日本人男性と違うところで自分のニーズを満たしてくれる。それもあるので、中国人男性が少しずつ人気になっているのであろう。

これからの日中ビジネスの懸け橋になるかも

今まで婚姻の話をしてきたが、実はこれから最も期待できるのは、今後の日中ビジネスである。日中夫婦は、生活を通して日本と中国の価値観、言葉の違いがわかるようになる。その効果により、日中ビジネスで新しい道を開く可能性がある。

何より、その子どもは両国のネーティブとして大きく期待できる。月木:日本語、火金:中国語、水土:英語、日:自由あるいは中国地方の方言、というようなスケジュールでハーフの子どもに言語教育をしている日中夫婦の家庭は少なくないようだ。

実際、今の20代、30代の日中ハーフはインバウンドや中国ビジネスでとても活躍している。言葉だけではなく、両国の感覚、事情を理解しているので、今までできなかった、埋められなかった「ギャップ」を埋めることも可能になるかもしれない。

日中の国際結婚ないし日本人の国際結婚は全体数に比べれば非常に少数派ではある。だが、内向きの日本社会で、異文化と相互理解を深める新鮮な切り口かもしれない。日本の国際化にもつながってくるのではないかと筆者は期待をしている。