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就職、異動、出向、転職……。さまざまな理由で「新しい職場」に移ってきたとき、あなたはどう振る舞うべきか。職場の作法や不文律で損をしない方法を4人のエキスパートに聞いた。前編は「異動・転勤」について――。(前編、全2回)

■着任の挨拶は、必要最低限に

会社にはそれぞれ“社風”というものがある。転職によって、ある会社から別の会社に移った場合、この社風の違いを如実に感じられるから、意識的にそのカルチャーに擦りよせやすいかもしれない。

ところが、同じ社風の下にあるはずの社内、あるいは関連会社においても、さまざまなカルチャーやスタイルがある。異動・転勤に際しては、ここに注意が必要だ。

「部門ごとに“暗黙の了解”としてルールが根付いている」と言うのは、組織・人事コンサルティングが主業務のセレブレイン社長の高城幸司氏だ。

「1つの部門という塊は、江戸時代なら『藩』、米国なら『州』のようなもの。仙台藩と薩摩藩では、しきたりも違えば、言葉だって違います。たとえば9時開始の会議に、5分前に集まるのか、9時ピッタリに集まるのか。夜の飲みでは先輩が全部支払うのか、7割出すのか、割り勘か。いずれにせよ、たとえ社内での異動であっても、『異国へ来た』と認識することが第一歩です」(高城氏)

人事部は、当人と異動先の人との相性などいちいち考えてはくれない、と高城氏は笑う。

「相性の悪さや過去に揉めたりしたことを、仮に知っていても動かします。ですから、その“国”ならではのルールを理解し、それに適応していくのが新参者として欠かせないマナーといえます」(同)

新しい職場では「心機一転」とばかりについ張り切ってしまう。しかし、その振る舞いには気を配る必要がありそうだ。

「特に、初日はおとなしくしておいたほうがいいでしょうね。着任の挨拶を求められても、あまり余計なことまでペラペラしゃべらずに、必要最低限にとどめておくことです。聞かれたら答えるというスタンスがいいでしょう」

そう語るのは、職場の人間関係などに詳しいオフィス・フォー・ユー社長の横山信治氏だ。

「興味があることは、みんなが聞いてきますから。また眉間にしわを寄せたような気難しい雰囲気を醸すのはNG。明るい表情を心がけたほうが好感度は上がります。ただ、社内での転勤や異動の場合、社内での評価はある程度は定まっているはずです。つまり、さほど神経を使う必要はなく自然体でいいということ。印象を悪くしなければOKです」(横山氏)

新たな職場でどう振る舞うかは年代、そして立場によっても違ってくる。若い順に見てみよう。

入社3年目前後、20代の頃は、少しずつ仕事にも自信を持ち始める頃だ。一方、組織の中では依然、“若手”として扱われる。

「それまで積み重ねてきた経験は、仕事人としての重要な土台となるかもしれませんが、『自分の力で職場を大きく変える』というレベルには至っていないわけです。となると、『新しい職場で自分にできることは着実にやっていこう』といった具合に、『多少でも貢献できることは楽しみ』という意識を持つことが大切です」(高城氏)

■「女性ボス」には、どんどん質問せよ

絶対に言ってはいけない“禁句”と、積極的に使いたい“常套句”もあるようだ。

「たとえば先輩社員などから仕事を頼まれたときに、『できません』『わかりません』と言う人間は、どんどん評価を落とします。これに対し、『はい、わかりました』『やったことがないので、教えてください』と答える人間は、好感度が上がり、可愛がってもらえます」(横山氏)

挨拶の仕方も名刺交換のマナーも知らないというのでは話にならないが、若手なのだからできないことがあるのは当たり前。まずは、相手の指示を肯定的に受け止めるのがポイントというわけだ。

「20代なら、教えを請うことも含め、できることを精一杯やるという愚直さがすごく大事。中には、『おまえ、かわいそうな部署に移ったよね』『主力部署に移ったってことは、出世コースまっしぐらだな』などと、異動=評価と思い込み、お先真っ暗と落ち込んだり、ムダにはしゃいだりする人もいます。しかし、20代の異動で配属される部署が終の棲み家となる可能性はそんなに高くない」(高城氏)

後から振り返れば“経験の1つ”にすぎない、と高城氏は言う。

「そう考えれば、たとえ嫌な上司がいても、職場の雰囲気が悪くても乗り切れるでしょう。あなた自身は、その経験をいかに楽しむか、そんな職場でも“目の前の仕事”に対し、いかに貢献するかに徹すればいいのです」(同)

30代ともなると、新しい職場にできるだけ早くなじむには、その職場の“キー”になる人物、肩書による上下関係だけではわからない“陰の実力者”を見極め、押さえておく必要がある。

「その職場において一番経験が長く、その職場のことを理解している人に教えを請う形が早道」(高城氏)であり、「とくに、地域採用や事務職採用などにより転勤や異動がほとんどない“女性ボス”に気に入られないとダメ」(横山氏)なのだ。

「新しい職場でのしきたりをいち早く知り、日々の事務的な職務をスムーズに遂行するには、女性ボスに頼るのが一番です。“知ったかぶり”するのは嫌われます。一発でアウト」(同)

聞かれてもいないことをペラペラしゃべるのも、墓穴を掘る。

「自分がしゃべるのではなく、相手にしゃべってもらうようにすると、うまくコミュニケーションがとれます。そのためには、『○○社に営業に行こうと思うのですが、気をつけたほうがいいことはありませんか?』というふうに、どんどん質問すること。質問された女性ボスは、あなたに信頼されていると感じます。つまり、あなたに敵意がないことが明白になるわけです」(同)

異動前に、次の職場の情報を“予習”しておくのも1つの方法だ。

「内示が出てから実際に異動するまで、1週間程度はあるはずです。その“猶予期間”に、現在の上司や人事部などを通じて、次の職場にはどんな人がいるかを教えてもらえばいいのです。誰がその職場で一番長く勤めているのかもすぐにわかるでしょう。『新しい職場に早くなじむためにも、経験の長い人に仕事を教えてもらいたい』と言えば、何らかの情報が得られるはずです」(高城氏)

■「妥協するヤツは、絶対に許さない」

40代、50代は、会社のさまざまな事業を牽引する課長・部長クラス。新しい職場での人心掌握に努めながらも、自分自身の考え方や運営方針を伝えて浸透させなければならない。

「マナーの1つとして心がけたほうがいいのは、『武勇伝を語らない』ことです。武勇伝が30個もあれば楽しんで聞いてもらえるかもしれませんが、2つくらいしかない武勇伝を交互に、何度も何度も聞かされるのは苦痛です。だったら孫の話や、趣味の話でもしてくれたほうが、まだ相槌も打ちやすいというのが部下の本音でしょう」(横山氏)

業績改善を期待されての異動では、新しい職場で厳しさも見せなければならない。ただし、その入り方には配慮が必要だ。

「開口一番、『この職場は元気がないよね。僕はそういうのが大嫌いなんだ』『俺は仕事で妥協するヤツは絶対に許さないタイプだから、そのつもりでよろしく』などと本音を出しすぎると、部下たちの拒絶反応が一気に高まります。修復は容易ではない」(高城氏)

とりわけ嫌われるのが、前にいた職場との比較だ。

「『前の職場ではこうやっていた』などと言う人が意外に多い。『前の支店ではこうしていたから、おまえらもこうしろ』『なぜやらないの?』と押し付けると、特に古参の社員に嫌われます」(横山氏)

まずは新しい職場のメンバーの話を聞く姿勢を見せるのが得策だ。

「なにも人生相談をせよというわけではありません。これまでどんな仕事をしてきたのかを聞いたり、売り上げデータなどを一緒に見ながら『どこが弱いんだろう?』『この時期に毎年売り上げが落ちているけど、これを補うにはどうすればいいのかな?』などと一緒に考えるふうを装って、部下の考え方を引き出します」(高城氏)

「聞き役」に徹することで組織の状況を短時間で把握し、そこから自分のカラーを出していくのだ。

「事前に話し合いをしていれば、一緒に現状認識したうえで、皆で協力して業績を上げていこうという意図が伝わりやすくなります。なにより、『まずは話を聞いてくれる上司なんだな』と信じてもらえることは、味方を増やすうえで大きな効果を生みます」(同)

これが50代後半、60代で“終の棲み家”となりそうな部門にたどりついた者なら、なおさら言動には気を使わねばなるまい。年下ばかりの職場で、ついぞんざいな口をきいてしまうのは、勤め人の悲しい性である。

年上とはいえ新参者。肩書をタテに上からものを言うのは下の下だ。まずは部下と同じ「水平な目線」でアプローチすべきだろう。

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▼プロからの助言
(1)異動・転勤先は「異国」だと思え
(2)人事は人の相性など考えていない
(3)20代:「できない」「わからない」は禁句
(4)30代:まず、“陰の実力者”を見極めよ
(5)異動先の情報は事前に“予習”しておく
(6)40代:新しい部下の聞き役に徹すべし
(7)50代:禁句は「前の職場じゃこうだった」
(8)数少ない武勇伝を繰り返し語るな
(9)60代:年下に“水平目線”で接せよ

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高城幸司
セレブレイン社長
1964年生まれ。同志社大学卒業。リクルートを経て2005年セレブレインに経営参加し現職。人事・組織戦略関連のコンサルティングを行う。著書に『社内政治の教科書』ほか多数。
 

横山信治
オフィス・フォー・ユー社長
落語家。信販会社、SBIグループ会社社長などを経て2014年に独立し現職。著書に『職場の理不尽に怒らず おだやかに働く技術』ほか。
 

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(小澤 啓司 撮影=石橋素幸、小原孝博、加々美義人 写真=iStock.com)