東京近隣では最も有名なものの1つ、「隅田川花火大会」(genki / PIXTA)

かつて「玉屋(たまや)」と「鍵屋(かぎや)」が腕を競い合った東京隅田川の花火大会。玉屋と鍵屋はいずれも花火師の屋号で、花火を見て「た〜まや〜」と叫ぶのは、これが発祥だ。

日本へは16世紀に火縄銃とともに火薬が伝わり、江戸時代に入ってから観賞用として花火が楽しまれるようになったとされる。二重丸、三重丸と複数の丸が重なった大きな丸い打ち上げ花火は、日本が得意とする割物(わりもの)と呼ばれるもの。

日本の花火は職人技を追求し、1つひとつの玉の芸術性を高める傾向にあり、特に尺玉と呼ばれる10号玉(直径約28.5センチメートル)以上の大きな玉に関しては、その完成度と美しさは「日本の独壇場」(日本煙火協会の河野晴行専務理事)。華やかな花火にあこがれて業界への就職を希望する若者も少なくないという。

今年は7月28日に予定されていた隅田川花火大会は、台風の影響で29日に順延。実施はまだ天候次第という状況だ。そんな中で、身近でありながらあまり知らない花火業界について探った。

縮小に歯止めがかからぬ、おもちゃ花火

花火業界はおおまかに、大会などでの打ち上げのみを手掛ける企業と、製造も手掛けている企業の2つに分かれる。業界団体である日本煙火協会への加盟社数は、約35年前は415社(うち製造業者234、打ち上げ企業181)、今年6月末時点では324社(各151、173)と、製造業者が大きく減った。

大きな理由は、公園などで遊ぶおもちゃ花火の製造者数が50社ほど減少したことだ。少子化と花火ができる場所の減少で、おもちゃ花火の製造業者は非常に苦しい状況にある。


こうした手持ちの花火は遊べる場所が減っている(撮影:梅谷秀司)

「町のおもちゃ屋がなくなったことも影響している。昔は『この花火はこんな遊び方ができるよ』という話を聞きながら買い物ができた。今はスーパーやコンビニでしか買えず、花火の特徴もわからなくなった」(ある花火問屋)という声もある。

国内のおもちゃ花火生産額は2005年の20億円から、2016年には9.8億円まで落ち込んでいる。輸入額も同じく19億円から9.4億円に減った。

一方、打ち上げ花火製造に関しては、20社ほど減少したが、現在も125社と数多くの業者が存在する。こうした業者の多くは製造だけでなく、自治体や企業から受注した花火大会を催行するのも仕事だ。

花火大会を開くには行政の許可が必要となる。1つの目安である煙火消費許可件数は、ここ20年ほど年間5900〜6800件で推移している。「大きい大会は自治体の予算削減などで減っている印象があるが、一方で規模の小さい大会は増えているから、結構忙しい」と、花火の打ち上げや卸を手掛ける若松屋(愛知県西尾市)の池田勇雄常務は話す。

打ち上げ花火の製造は手作業が主流で、家内工業のようなところがほとんど。従業員は多くても15〜20人程度。「花火製造工場と呼ばれるけれども、実際は“工房”といったほうが正しいくらいの規模」(ある製造業者)。天候不順による大会中止リスクなどはあるものの、「危険物を扱うこともあり、新規参入は少ない。利益もある程度出る」(同)という。

花火の美しさと観客の歓声に魅せられて、職人として働くことを希望する人もいるかもしれない。「業界の将来を担えるような人たちに門戸を開き、どう育成するかは、きちんと取り組んでいかないといけない」(花火ショーの企画・演出を行う丸玉屋<東京・日本橋>の小勝敏克社長)。

現状は「火薬を持ち出されるなどしないよう、変な人に来てほしくないということもあり、新しく雇うのは現従業員の親戚などが多い」(花火業界に詳しい冴木一馬カメラマン)。特に製造現場に関しては、経験も縁もまったくない人が入るのはまだ難しい世界のようだ。

加えて工場を拡張しづらいという事情もある。花火工場は火薬を扱うため、万が一爆発事故が起こったときに備え、一定の広さの土地を確保しなければならない。宅地化の進展で移転せざるをえなくなるなど、土地確保の問題は打ち上げ花火製造業者が少しずつ減っている理由の1つとされている。

生産量ナンバーワンは中国

夏の風物詩の花火も、安価であることや国内での製造が追いつかないことなどから「日本で打ち上がる花火も半数ほどは中国製ではないか」(日本煙火協会)。

金額で見ると、国内の打ち上げ花火生産額は2016年に49億円(経済産業省)、輸入額は同年に16億円(財務省貿易統計)だった。日本の職人技が光る大玉に比べ、4号(直径約11.5センチメートル)以下の小さい玉は中国製でも美しさに遜色がないことから、中国からの輸入は4号以下の小さい玉が多い。このため、「数でいったら圧倒的に中国製が多いと思う」(池田専務)。

中国は世界最大の花火生産国。全世界の消費量の7〜8割は中国で造られているのでは、と話す人もいる。「中国でも手作業がメインなのは一緒だが、1つの企業に500人も1000人も従業員がいて、工場の周りを回ると車で15分くらいかかったりする。おもちゃ花火の場合は、個数ベースだと90%以上は中国からの輸入ではないか」と冴木氏は言う。

技術も進んでいるといい、「たとえば中国は打ち上げにガスを使い、花火を同じ高さでそろえることができる」(冴木氏)。「中国に行くと、文字型の花火があったり、打ち上げ方でも角度など『おっ』と思う目新しいものを結構目にする」(池田専務)。

ただ、最近は中国でも人手不足などで人件費が上がり、花火の価格も高くなってきている。また、「事故のリスクなどを重視し、中国政府の方針で工場が減ってきている。4〜5年前は5000〜6000社あったが、今は2600社ほどになった。生産量が減ってきて、玉が入ってこないという状況も実際に発生している」と花火卸企業、鈴木花火(愛知県岡崎市)の鈴木章義常務は話す。


大曲の花火大会では日本でも有数の大会(秋田県大仙市提供)

そのため、この小さい玉を国内製造しようという動きも出てきた。秋田県大仙市では地元企業などの出資で「花火創造企業」という製造会社が設立され、2017年から本格稼働を始めた。

もともとこの地区は100年以上の歴史がある大会「大曲の花火」が開催され、打ち上げ花火の製造業者も5社あったことから、花火を観光資源として積極的に活用している。

2014年には「大仙市花火産業構想」という5年間の計画が策定され、観光客の増加や雇用の創出(花火創造企業では7月現在18人を雇用)を打ち出した。大仙市では毎月花火大開が開催されるなどし、観光客年間計277万人(2014年度から2018年度にかけて26万人増)という目標はすでに達成のメドがついたという。

大仙市に限らず、花火の集客効果には注目が集まっており、有料席の導入も少しずつ拡大している。そのため昨今の花火大会では、音楽なども含めた”演出”が重要視されてきていて、この演出の拡大が花火市場を牽引していると指摘する声もある。

前出の丸玉屋は1990年設立で、0.03秒単位で花火を打ち上げ音楽と完全にシンクロさせるシステムを導入し、テーマパークの花火なども手掛ける大手演出企業の1つだ。

「35年前に日本にも大きなテーマパークができて、それまで夏にしか上がらなかった花火が年間を通して上がるようになった。これは画期的なことだった。また、花火というのは圧倒的な集客効果を持っていることもわかってきた。協賛金で開催してお客さんは無料で見ることができた花火大会を、観覧収入を得てやろうということも探るようになった」(小勝社長)

丸玉屋は各地の花火大会の打ち上げでのほか、企業イベントやアイドルコンサート、スポーツ大会などでの打ち上げを手掛けている。

最新の花火は、ダンスあり、ベッドでの観覧

東京・お台場では、花火を使った最先端のショーも行われた。エイベックスが昨年からお台場で手掛けているSTAR ISLAND(スターアイランド)は国産の花火と音楽に、火や水を使ったパフォーマンスや、光の演出も加わった近未来型のショーだ。


背景に東京タワーやレインボーブリッジが見えるなど、フォトジェニックであること(写真うつりがよいこと)にもこだわったという

チケットの値段はグループ席も含めて8000〜5万円で、席が大きなクッションやベッドになっているもの、ディナー付きのものなどがある。今年5月の開催時はに1万5000人分のチケットが完売した。

また、7月にはこのショーの映像をプラネタリウムで上映もした。「海外でやらないかというオファーも多数受けている」とエイベックス・エンタテインメントの坂本茂義イベント制作グループゼネラルマネージャーは話す。

「日本の花火は確実に世界から評価されている。危険物であるがゆえに輸送費用が膨大になるため輸出拡大は難しいが、輸出にこだわらなくても、外国人観光客に見に来てもらえるようにしたい」(日本煙火協会)。

2020年の東京オリンピック・パラリンピックの開閉会式で、最新の演出技術を使い日本の伝統花火を打ち上げようと、小勝社長らが中心になった業界団体も新たに発足した。

海外では何かのイベントの演出として花火を使うのが主流で、花火自体をメインに据える催しは日本にしかないという。花火1つひとつを楽しむ日本独自の感覚と、高度な職人技、最先端の演出技術――日本の打ち上げ花火はさらに進化していくに違いない。