森保一監督が、新たに日本代表の指揮を執ることが決まった。先ごろのワールドカップで日本がベルギーに敗れてから、わずかに1カ月足らずでの出来事である。


日本代表の新たな指揮官となった森保一監督(中央)

 4年前は1分け2敗のグループリーグ敗退という惨敗に終わったことで、メディアからも「新監督選びよりも、まずは4年間の検証を」という意見が数多く聞かれたが、グループリーグ突破を果たし、さらにはベルギーをあと一歩まで追い詰めた今回は、そうした声はあまり聞かれない。4年間の準備という点では、前回以上の失敗に終わっているにもかかわらず、だ。

 ワールドカップ本大会での戦いぶりだけに焦点を当てても、前回大会以上に「監督の手腕がものをいう」ことを思い知らされた大会だったはずだ。何より西野朗前監督自身、ベルギーに対して2-0とリードしながら逆転負けを喫した試合を振り返り、展開の速さに、自らの判断スピードが追いついていかなかったことを認めている。

 つまりは、今回のワールドカップでは、日本人の特長を生かした日本人らしいサッカーでも”ある程度戦える”ことが証明された一方で、最後にもうひとつ壁を乗り越えるためには、経験豊富な監督が必要であるという現実も突きつけられたともいえる。まして4年後にベスト8進出という目標を掲げるのなら、なおさらだ。

 だとすれば、前回大会以上に「やはりワールドカップ(あるいは、それに準ずる大きな国際大会)を経験している監督が必要だ」という声が聞かれても不思議はない。ところが、そうした意見はあまり聞かれず、「西野監督で成功したのだから、次も日本人監督を」とばかりに、ポジティブな側面だけが都合よくピックアップされ、現在に至ってしまったように感じる。

 さて、そこで森保新監督である。

 サンフレッチェ広島の監督をおよそ5年半務め、その間に3度のJ1優勝を成し遂げた実績は申し分ない。かつてネルシーニョ監督(当時柏レイソル)やオズワルド・オリヴェイラ監督(当時鹿島アントラーズ)などが、J1での優勝実績を理由に日本代表監督に推す声があったことを考えれば、候補に挙げられて当然だろう。

 しかも、3度目の優勝を果たした2015年の広島は、結果だけでなく、内容的に見てもかなり強いチームに仕上げられていた。

 相手の守備網を意図的に広げてから間を突くポゼッションに加え、中盤でのボール奪取からのショートカウンター、あるいは1本のパスでDFラインの裏を取るダイレクトプレーなど、攻撃は非常に多彩。そんななかでも、コンビネーションが確立された主力ばかりに頼るのではなく、意識的に若手を引き上げる起用も見られた。J1が18クラブになって以降、史上最多となる勝ち点74を積み上げたことは偶然ではないだろう。

 その一方で、やはり不安要素は経験不足。とりわけ国際経験の乏しさである。

 Jリーグでの実績は十分とはいえ、言い換えれば森保監督の監督実績はそれがほぼすべて。広島での5年半を除けば、現在指揮を任されているU-21日本代表があるだけだ。

 その間の世界レベルでの国際経験といえば、2度のクラブワールドカップがあっただけ。その他、2007年U-20ワールドカップに出場したU-20日本代表にコーチとして加わった経験はあるが、監督ではなかった。託すミッションのレベルに照らせば、とても経験豊富な監督とは言い難い。

 もちろん、最初から経験豊富な監督など存在しない。日本サッカー協会の田嶋幸三会長が言うように、「ワールドカップ経験者」を日本代表監督の条件にしてしまえば、少なくとも日本人監督のなかでは、いつまで経っても岡田武史元監督しか選択肢がなくなってしまう(西野前監督が新たに選択肢に加わったが)。

 ならば、J1での実績を評価して森保監督の手腕に託すという考え方もわからないではない。

 また、ひとりの監督が両代表を兼任するメリットも当然ある。

 2006年ドイツ大会で指揮を執ったジーコ監督のころから、A代表と五輪代表との間には志向するサッカーの違いがしばしば起こり、五輪代表からA代表への選手の引き上げがスムーズに行なわれなくなった。ひとりの監督のもと、同じコンセプト、同じ戦術でふたつの代表チームが活動するほうが効率的であり、理想的だ。

 だとしても、森保監督の経験値を鑑(かんが)みるに、A代表監督に加え、五輪代表監督も兼任とは、最初からあまりにすべてを背負わせすぎではないだろうか。

 まして東京五輪はこれまでの五輪とは違い、周囲の期待もプレッシャーも桁違いに大きい。そもそも五輪代表監督だけでも、相当な重責だったはずなのだ。

 森保監督にA代表と五輪代表の両方を託すと決まった以上、まずは成り行きを見守るしかない。

 だが、広島時代に見た、森保監督の確かなチーム作りの手腕を知るからこそ、はたしてこれが、彼の現時点での能力発揮するに最適な環境なのだろうかと、少なからず不安になる。

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