一つでも歯車が狂うと「平穏な老後」は霧散する。なまじ元気なのも悪く働き……

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「高齢者による自動車暴走事故が多発」「多重課題を抱える介護の現場」「歯止めのかからない高齢者医療費負担」

 ニュースの小見出しをチラチラ眺めてみると、どうも心身が弱っていたり、身体の自由が衰えてしまった高齢者のみを「高齢者」と扱い報じるものが目立つ。

 もちろんそのような側面も実際に大きいのだろうし、それ自体を否定するつもりは毛頭ない。

 ただ、この不動産執行の現場に携わっていると、高齢者に抱くイメージは多少異なる。

 誰かの助けを必要としている高齢者、誰かの負担となっている高齢者ではなく、今なお一家の大黒柱として現役生活を続ける、あるいは強いられている元気な高齢者たちの姿を多々目にするためだ。

 では何故、そんな元気な高齢者たちが不動産の差し押さえという状況に追い込まれて行くのかという点に触れてみたい。

 この日の不動産執行当該物件はターミナル駅にもほど近い沿線の駅より徒歩5分という好立地。敷地面積も広いのだが、土地は定期借地権。

 そして定期借地権の物件にありがちな、敷地内の未登記建物や未登記増築が多々あり間取りの確認作業に難航した。

 ちなみに定期借地権の上モノに未登記増築などが多発するのは、貸主に許可取りをするのが手間だからだ。

 債務者は後期高齢者。わずか数年前までは年齢別の全国スポーツ大会で夫婦揃ったペア優勝を収めるほどの健康体でバリバリ働いていたのだが、突然この家庭を不運が立て続けに襲うことに。

 発端は奥さんの突然死。一緒に暮らしていた二人の息子のうち、次男が母の死と会社でのストレスがタイミング悪く重なり自室から動けない状況に。続いて長男も酷い鬱を発症し介護が必要な状況となってしまった。

 債務者によると二人分の医療費やヘルパー派遣会社に支払う金額だけで月に40万円が消えていったという。

 この状況でも債務者は働き詰めで家計をやりくりしていたのだが、自転車当て逃げ事故に遭い膝と腰を痛めてしまった。

◆中年の息子、娘の世話を強いられ共倒れ

 それでもなんとかやりくりしようと、方々から金を借りては少しずつ返すという自転車操業を続けていたのだが、次男が自殺。債務者も返済に対する意欲を徐々に失い我々がやってくるに至った。

 室内は整頓されており、様々なスポーツ大会で得られた賞状やトロフィーが誇らしげに並ぶ。

「まさか自分がこんなことになるなんて考えてもみなかったよ」

 破産や不健康とは無縁にあるはずだった生活のほころびという嘆きは、誰にぶつけるでもなく誇らしげな品々に染み込んでいった。

 増築部分の確認に入ろうとDIYで取り付けられた扉に手をかけると、「そこは覗かないで欲しい」と債務者からの申し出が。

 聞けば中には40代後半を迎える長男が鬱状態のまま動けなくなっているため、見せたくないのだという。

 この事案に代表されるような30代後半から50代前半となる息子や娘の、“子育て”を今も強いられている高齢者がバタバタと倒れている。

 倒れていることが確認できる案件だけでも一定数が定期的に発生することを考えると、予備軍と呼べる家庭が相当数あることも想像に難くない。

 氷河期世代を中心とした「ミッシングワーカー」という言葉が注目されつつあるが、心身の健康不健康を問わず、就職どころか職探し自体から遠く離れた状況にある中高年を救う手立てはない。

 もちろん重くなった身体でもたれかかる彼らの支えから逃れられない高齢父母たちを救う手立てもない。

 圧倒的な高齢者の数と彼らに対する負担への不安が「社会問題」と一方的に捉えられがちだが、社会の少し下の方に目を向けてみると、実はまだ現役で働き続ける高齢者のおかげで社会はなんとかバランスを保っていることが見えてくる。

 すべての高齢者へ闇雲なバッシングの刃を向ける前に、彼ら一人ひとりが置かれている状況に目や耳を傾け、現状の労働体制や消費形態を少しでも長く維持できるよう配慮していくことが、“転ばぬ先の杖”となるのではないだろうか。

【ニポポ(from トンガリキッズ)】
ライターの傍ら、債務者の不動産を競売にかける『不動産執行』のサポートも行う。2005年トンガリキッズのメンバーとしてスーパーマリオブラザーズ楽曲をフィーチャーした「B-dash!」のスマッシュヒットで40万枚以上のセールスとプラチナディスクを受賞。また、北朝鮮やカルト教団施設などの潜入ルポ、昭和グッズ、珍品コレクションを披露するイベント、週刊誌やWeb媒体での執筆活動、動画配信でも精力的に活動中。
Twitter:@tongarikids
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