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人生で働いた期間は新卒後の3カ月のみ。以後、裕福な親に経済的にも精神的にも支えられてきたが、父は他界し母は有料老人ホームへ。弟は音信不通の状態だ。ひとりぼっちとなった57歳女性だが老後は安泰だ。「私の人生に何の意味があったのか。これからは人に迷惑をかけず、静かに暮らしたい」と話す。そんな孤独の境地とは――。

■お一人様57歳女性「孤独だけど老後は安泰」なワケ

「私が生きてきたことに、何か意味があったのでしょうか」

関東地方に住む57歳の女性が、吐き出すように言いました。

大学を卒業したのち、衣料品会社の正社員として3カ月ほど働きました。アルバイトの経験はなく、初めての仕事でした。若い時から、何をやるにもスローペース。要領がよくないことも重なり、上司から仕事のやり方でたびたび叱責を受けました。

3カ月が経過したころ、そんな職場環境に耐えられなくなり、無断欠勤をするように。会社からの電話にも出ず、テレビを見ながらボーッと過ごすだけの日々。見かねた母親(当時48歳、現在83歳)が退職を申し出て、そのまま退職しました。

退職後は家事手伝いをしながら、親が経営する食品会社で週に1回くらいアルバイトをしました。

週1回程度のアルバイトでしたが、親の会社が儲かっていたこともあり、月に25万円ほどの役員報酬を受け取っていました。生活費はすべて親もち。しかも役員報酬とは別に、おこづかいまでもらっていたという、なんとも優雅な生活を送ってきたそうです。

役員報酬の多くを貯蓄に回してきたこともあり、本人名義の貯蓄は現在も3200万円ほどになっています。

▼父親の他界で「役員報酬」がなくなる

そんな優雅な暮らしも、18年前に父親が他界したことで一変。病気発覚から、父親が亡くなるまでが急だったため、事業継承がうまくいかず、廃業することになったからです。

父親の財産の相続については、何も相談されないまま、母親が多くを相続した様子。長いあいだ、音信不通になっている弟が、財産を相続したかはわかりません。母はときどき連絡を取っていたようですが、自分は連絡先を知らず、この先、連絡を取る方法も思いつかないそうです。

父親が亡くなった後、二人暮らしには広いからと、一戸建てから新築のマンションに住み替えました。多少狭くなったとはいえ、父亡き後は母と二人で、それなりに安定した生活を送ってきました。

■要介護認定2の母親が有料老人ホームへ行ってしまった

そんな暮らしが15年くらい続きましたが、数年前、母親に介護が必要になりました。要支援のときには、本人が面倒をみてきましたが、要介護2の認定を受けた頃から、母親の介護をするのが嫌になりました。

「ずっと守ってきてくれた母親だから、自分が介護すべきなのに」とは思うものの、母親が弱っていく姿を受け入れられなかったと本人は話します。

そこで、同じ市内に介護付き有料老人ホームを探し、母親は転居することになりました。入居一時金は2500万円、ホームへの支払いは月々25万円ほどです。施設を2つ見学して、すぐに選んだので、いい施設なのか、問題のある施設なのか、今でもよくわからないそうです。

母親には、遺族年金月17万円のほかに、終身で受け取れる年金がひと月約10万円あります。ホームへの支払いは母親の年金内に収まっていますが、困ったのは自分自身の生活費でした。

【家計と家族の状況】
貯蓄:3200万円
収入(障害年金):月6万5000円
支出:判明せず
親族:介護付き有料老人ホームに入所している80代の母親と、20年くらい音信不通の弟がいる(父は他界)

うつ病を患い、障害年金(2級)を受給していますので、ひと月6万5000円程度の収入はあるものの、今まで電気代やガス代の金額を気にする機会のないまま、生活のすべてを親に任せてきてしまいました。自分ひとりの生活にどのくらいのお金がかかるのか、見当もつかなかい状況だと言います。

■「1回の食材の買い物は3000円以内に収めてください」

「ひと月の食費はどのくらいかかっていますか?」と尋ねてみると、「たぶん6万円から7万円くらいだと思います」との返事。「光熱水道代はわかりますか?」とたずねると、「母親の口座から落ちているはずですが、よくわかりません」との答えでした。

「私はこれからどのようにやりくりしていけば、生きていけるのでしょうか?」との問いかけに対し、手を付けやすい食費のやりくりから話し合いをしてみました。その結果、食費を1週間単位でやりくりするプランを提案。1回の買い物予算は3000円、週に2回までに買い物回数を抑えるようにアドバイスしたのです。

1回の買い物が3000円以内に収まれば、1週間6000円×5週=3万円になります。女性のひとり暮らしですから、この予算でもなんとか収まるのではないかと考えました。

▼テレビを見ながらお菓子を食べるのが習慣化

「3カ月に1度くらい、友人と食事に出かけます。その費用も食費の中に入れなければなりませんか?」との質問に対しては、交際費として、「別の予算にして構いません」と答えました。

本人は自宅でテレビを見て過ごす時間が長いため、テレビを見ながらお菓子を食べるのが習慣化しているとのこと。身体を動かす機会が少ないため、若い時に比べて20キロ以上太ったと言います。食事作りも長年母親任せだったために、ご飯作りが面倒で、お腹がすくとインスタント食品などで済ませてしまう機会も少なくないそうです。

そこで、「まずは3食をきちんと食べましょう。朝や昼を抜いたりすると、余計にお菓子が食べたくなるでしょうから、3食の食事作りを自分のこれからの仕事と考えてはいかがでしょうか」と伝えてみました。お菓子やインスタント食品で食事を済ますのは健康的にもよくありません。しかも、ひと月の支出がつかめないまま、ただ時間だけが過ぎると、貯蓄はどんどん減ってしまいます。

すでに心の病気によって障害年金を受給しているため、多くの課題を出すことで、心の状態が悪化する可能性もあります。そのため、食費のやりくりができるようになったら、光熱水道代や日用品など、家計費のやりくり法を少しずつ検討していくことにしました。

■シニアマンションへの住み替えで老後はセーフ

食費の節約にチャレンジしてもらいつつ、同時に「もう少し年を取ったら、住み替えを考えてみませんか?」と提案してみました。

「えっ? 住み替えですか? 母がいるような介護施設しか、思い浮かばないんですが」と、かなり意外そうな反応を見せました。

住み替え先の候補は、次の2つ。

ひとつ目は、60歳以上の方が共同暮らしをするケアハウス。本人(相談者)の所得状況であれば、ひと月7万円前後(食費含む)で暮らせるケアハウスを探せます。食事は3食提供されますので、苦手な食事作りから解放されます。

また、介護型ケアハウス(特定施設入居者生活介護の認定を受けているケアハウス)が併設されているケアハウスを見つけられれば、要介護度5になっても、継続して住み続けられる点も安心です。

ケアハウスには、要介護認定を受けてからでは原則として入居できないことや、お子さんがいないことを考えますと、60代半ばくらいで住み替えを提案してみました。

▼自宅で暮らし続けるよりも年間の赤字額が少なくなる

ふたつ目は、所有権タイプのシニアマンションを購入する方法。中銀ライフケアのようなシニアマンションを運営している会社の物件から、特に1000万円以下の負担で手に入れられる物件を購入する方法です。

実際中銀ライフケアには、1000万円以下で購入できる物件(シニアマンション)がいくつもあり、月々のランニングコストも12万〜14万円くらいですみます。ケアハウスに比べると、負担は増えますが、居室の広さや共用スペースの充実度は格段にアップします。食事は3食提供されるうえ、外出も自由にできますし、サークル活動などが活発に行われている物件もたくさんあります。

1000万円以下で所有権の物件を手に入れられれば、貯蓄での購入が可能。住み替え後には現在住んでいるマンションを売却し、手元の貯蓄を増やすこともできます。65歳くらいで住み替えを実施したと仮定して試算してみたところ、100歳くらいまでは貯蓄が残る計算になりました。

自宅でずっと暮らし続けるよりも年間の赤字額が少なくなるため、貯蓄が底を突く心配が低くなったわけです。

■誰の役にも立たなかった人生「ただ静かに暮らしたい」

2つのプランのうち、ご相談者はシニアマンションへの住み替えを選択したいとのこと。60代半ばではなく、もっと若い年齢での住み替えが望ましいともいわれました。ひとり暮らしに不安に感じているからだそうです。

本来、ケアハウスやシニアマンションへの60代半ばの住み替えは、年齢的に早いと思います。入居者の平均年齢より10歳以上も若いからです。とはいえ、「ひとりで暮らしていくことが怖い」とすら感じているご相談者にとって、困った時には相談できるフロント機能があるマンションの中で暮らしていくのも悪くないかもしれないと感じました。

実際、いくつかのシニアマンションを見学したうえで、少しずつ、住み替えの準備を進めていく予定にしています。

ところで、冒頭の言葉は、次のような思いから発したものだったようです。

「私は先生(畠中)よりも年上なのに、手続きひとつできないまま、年だけ重ねてきてしまいました。障害年金を受給していますから、この先も働くことはできないと思います。誰の役にも立てず、自分で家族をつくることもできなかった人生ですが、これからは人に迷惑をかけないように、静かに暮らしていきたいと思っています」

(ファイナンシャルプランナー 畠中 雅子 写真=iStock.com)