ADHDの当事者である勝間和代さんと借金玉さん。お二人の視点が参考になります(撮影:尾形文繁)

言わずと知れたベストセラー著者であり、ライフハック界のカリスマ・勝間和代さんと、著書『発達障害の僕が「食える人」に変わったすごい仕事術』の中で、さまざまな失敗を告白している借金玉さん。一見真逆の人生を歩んできたように見える2人ですが、「ADHD(注意欠陥・多動症)の診断を受けている」という共通点があります。
「普通の人ができることができない」ADHDのネガティブな側面とどのように向き合い、どのように克服してきたのかを語ってもらいました。

iPadは6台、持ち物はなくすので最小限

借金玉:昨年、勝間さんが精神科医の岩波明先生と対談されていて、「軽度のADHD」と診断されたことを知りました。勝間さんのブログを読んでいると、かなり困っている症状を、なんとか工夫して「力でねじふせている」印象を受けます。iPadを何台か持っていらっしゃるのも、何か理由がありそうですね。

勝間和代(以下、勝間):はい、iPad Pro2台、iPad 2台、iPad mini2台の合計6台を持っています。それぞれダイニングテーブルの上のパソコンのそば、台所の洗濯機の上のパソコンのそば、台所の調理台の上、仕事部屋のパソコンのそば、寝室の枕元、車のダッシュボードに置いてあります。

6台ある理由は簡単で、すぐなくすからです。複数のデバイスをクラウドでひも付けられるiPadは、1、2台なくしても壊れても大した影響がないんですよね。昔は携帯電話も2つ持っていて、人に番号を教えているほうの電話は家に置いて転送していたほどです。だいたいゴルフ場で落とすので。

借金玉:それこそまさにライフハックですね。なくさないように努力するのではなく、なくしてもいい工夫をする。僕は、大事なもののアイテム置き場を「神棚」と呼んで、財布もスマホもそこに置く習慣を身に付けたんです。帰宅して、貴重品を神棚へ戻さないと妻に罰金を払うルールを作ったら、なんとかできるようになりました。

勝間:私は外出するときは、持ち物があればあるほどなくすので、最低限のものしか持ち歩かないようにしていますね。

借金玉:僕は逆に不安なので予備を持つようにしていて、名刺入れも3つ持っています。忘れ物をしても、あまり気にならないほうですか?

勝間:私は小学生の頃から忘れ物ばかりしていたので、その頃からすでに達観していました。教科書を持って帰ると忘れるので、全部学校に置いていましたし。リコーダーとか体操服も、必要なときにはだいたいないんですけど、忘れたら隣のクラスの友達に借りればいいと思っていましたから。

借金玉:まったく同じです。僕は自宅用と学校用に2セット買ったこともありました。でもそういうことをすると、先生から怒られなかったですか?

勝間:もちろん怒られていましたよ。テストでも解答用紙に名前を書き忘れて、何回も先生から呼び出されていましたからね。宿題も忘れるからしょっちゅう廊下に立たされたりしていましたけど、「スルー」してました。立たされることがあまりにも多すぎて慣れてしまっていたので。

「あきらめよう」VS「変わらなきゃ」の子ども時代

借金玉:勝間さんはできないことがあっても、先生に怒られても、自分を責めていないのがすごいです。そういう発想になったきっかけは何かあるんですか?


勝間和代さん(撮影:尾形文繁)

勝間:4人きょうだいの末っ子だったせいもあると思います。「できないときは誰かが助けてくれる」と、生まれたときからインプットされて育ちましたので。夏休みの宿題も8月31日までまったく手をつけず、提出日の前日に私が泣き出すと、兄とか姉が総出で手伝ってくれて。絵日記も、絵を描く係、日記を書く係と分担してやっていました。

借金玉:共感しかないです。僕は、宿題を出さなくても最終的には相手があきらめるというライフハックを習得しちゃったので、あまりよろしくなかったんですけど。どうしてもやらなきゃいけないことを誰かに頼って分担する方法は、僕も小学校の頃に覚えました。

ただ、親から「人に迷惑をかけるな」と言われて育ったので、そういうことに対する罪悪感は強くありましたね。

勝間:家族の影響は大きいですよね。私は4人目だったので、「子どもは自分の思いどおりには育たない」と親も学んで達観していたんだと思います。

借金玉:僕の父は、世間一般から見ると優秀な、お堅い職業のまじめな人で。発達障害ではない父から見ると、「普通」じゃない人間は理解不能だったんでしょう。だから僕のことを、理解不能な宇宙人から、なんとか「普通の地球人」に戻そうと努力していたところがありました。かなり厳しくしつけられたんです。

その影響で、僕自身も幼い頃から「普通じゃないこと」に強いコンプレックスがあって、「自分が変わらなきゃ」と思っていたんです。それで学生時代は座禅を組んだり、滝に打たれたり、哲学書を読んだり、怪しい漢方薬を飲んでみたり……。ありとあらゆる自己変革を試みては失敗して、ますます落ち込んで……ということの繰り返しでした。

勝間:できないことが増えれば増えるほど、自己肯定感が下がりますからね。滝に打たれても痛いだけで(笑)、何も変わらないですよ、残念ながら。私も、普通の人から見たらできないことや困ったことは数え切れないほどありましたけど、その都度、困ったなりに対応してきたので気にならなかったんでしょうね。性格も明るいので。

借金玉:今振り返ると僕も、発達障害の人が自分を変えようとするのは本当に無駄な努力だと思います。むしろ、やればやるほど病んでいきます。僕もADHDだと診断されて初めて、「なんだ、変えられないのか」とあきらめがつきました。

もし子どもの頃に勝間さんのような割り切りができていたら、2次障害のうつは発症しないで済んだかもしれない。そこはすごく後悔しています。

金融機関と会計事務所を選んで大失敗

借金玉:間違いを犯しても後悔したり反省するのではなく、起きた事態を受け入れて解決法を考える。それが重要だと思うのですが、僕の場合、そうと気づいたのは30歳近くなってからでした。

僕の場合、最初に金融機関で働いたことも大きな間違いでした。今考えれば、就職活動がうまくいったことに浮かれて、世間で「いい就職先」とされている価値観に流されて就職してしまったんですよね。

勝間:ADHDだったら、金融機関は絶対にやめたほうがいいですよ! 私も大学卒業後、会計事務所に入りましたけど、半年で辞めましたから。

お客様関連の非常に重要な書類をなくしてしまったんです。「これはダメだ。すぐ辞めたほうがいいと」思いました。公認会計士の2次試験には19歳で合格したので、当時の最年少記録だったのですが、未練はありませんでした。

借金玉:それは大変でしたね……。でも僕も、大事な書類が入ったバッグを飲み屋に丸ごと忘れたり、似たようなことはやらかしましたね。

発達障害の人は、コツコツやる仕事のほうが無難だと思って、公務員などを目指す人も多いんですが、場合によっては逆効果ですよね。

・「業務マニュアル」が複雑で完成度が高い
・「非言語的ルール」の強い人間関係
・求められる「マナー」のレベルが高い
・「個人の裁量」が小さい

というような性質の仕事は、いくら世間での評価が高く「ホワイト企業」といわれていたとしても、僕らには向かないことが多いと思います。周りに迷惑もかけますしね。

勝間:会計事務所とは反対に、私にとってマッキンゼーはとても働きやすい職場だったんですよ。

会計士は「収束系」、つまり「数字が正しいか、間違いがないか」を確認する仕事。何かをミスするたびに、減点されてしまいます。

一方のマッキンゼーは「発散系」で、アイデアビルディングをする仕事です。「こういうことやりたいんです」「こういうアイデアどう思いますか?」とどんどん提案する人が「価値を生む」として評価される。私たちは、後者が得意なんです。

さらにこれからの時代は、AIがどんどん「収束系」の仕事をやってくれるようになるので、「発散系」の仕事が得意な人は有利になっていきますよ。副業も解禁されましたし、より自由度は高くなっていくでしょうね。発達障害の人たちにとっては、働きやすい環境になっていく気がしています。

借金玉:僕も今やっている不動産営業マンの仕事は「過程は問わない。とにかく契約を取ってこい」という裁量の大きさが、自分にすごく向いているなと思います。残念ながら事務作業のミスはいまだによく引き起こすんですが、それは仕事の成果とは別物と考えられているので、大きな問題にはなりません。

起業して経営者をしていたときは、書類関係とか自分ができないことも人に頼めたのもありがたかったです。ただ、決算するのを忘れたことはありますが……。

勝間:それなら私、確定申告で一部の収入を申告するのを忘れて税務署とケンカしたことありますよ。

借金玉:あります、あります(笑)。僕は税務署に発達障害の診断書を持っていって、法律上、申告遅れが許される「やむをえない事由」だと言って闘ってみたことがあります。

環境を選ぶことがいちばん重要

勝間:やっぱり私たちは、できないことは何をやってもできないので、自分に合った働きやすい職場、環境を選ぶことがいちばん重要ですね。


私はよく「バリキャリ」「努力すればできる」系の人だと勘違いされているのですが、実際は真逆です。できないことをいかに自分でやらずに割り切って、人に任せたり、いろんな便利なツールに頼ったりするかを考えることが好きなんです。

仕事だけじゃなく、料理も家事も自動調理鍋の「ホットクック」や、お掃除ロボットの「ルンバ」を使っているのは同様の理由です。

借金玉:勝間さんと話していると、本当に心強いです。「やらないこと」で自分を責めず、自己肯定感を持たれているところは、特に学ぶべきところですね。ADHDの方はもちろん、仕事で行き詰まっている人ほどそういうタイプの人はすごく少ないので。

勝間さんの著書にも書いてあるように、「自分を変えるのではなく仕組みを変える」という考え方を知ると、もっと多くの人が楽になれると思います。

(構成:樺山美夏)