拡幅工事中の大和トンネル(2017年筆者撮影)

間もなく楽しい夏休み。レジャーと帰省の利用者が重なる8月の上中旬は、高速道路にとっては1年で最も混雑が集中する期間で、私たち利用者はどうやって渋滞を避けるかスケジューリングに頭を悩ませる時期でもある。あらためて高速道路の渋滞事情について考えてみたい。

トンネル、“サグ”、合流…渋滞の原因はさまざま

一般の道路であれば、渋滞の原因はわかりやすい。事故や道路工事による車線の減少・交互通行などを除けば、交差点や信号が渋滞の先頭になることが多いからだ。そこを通り過ぎるときに、「あー、この交差点がネックだったんだ」と得心することがよくある。高速道路でも、かつては料金所がネックで渋滞となることが多かったが、ETC(自動料金収受システム)の普及で料金所の通過時間が劇的に短縮されたため、料金所渋滞は滅多に聞かなくなった。


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しかし、これだけ全国の高速道路のネットワークが整備されても、渋滞は一向になくならない。国土交通省のデータによれば、昨年(2017年)のお盆期間(8月5〜16日)に10km以上の渋滞が発生した回数は前年より37回多い532回、最長は8月11日の東名高速道路の下り都夫良野トンネルで記録した65.8kmと、絶望的な長さであった。

もちろん、その根本原因は特定の区間に車が集中することにある。全国の高速道路で最も通行量が多いのは、東名横浜町田IC〜海老名JCT(ジャンクション)だが、この区間には渋滞情報の常連である「大和トンネル」「綾瀬バスストップ」「海老名サービスエリア」が連続するとともに、渋滞を増幅する原因も集中する。


(出所)国土交通省「神奈川県東名軸渋滞ボトルネック検討WG」第1回資料

まず、「合流」。高速道路には交差点や信号はないが、インターチェンジやジャンクションでは車が合流するために、交通量が多いときには合流点で渋滞が起こる。東名の上り線では、厚木ICで小田原厚木道路が合流し、その直後の海老名JCTで圏央道が合流する。さらに、日本で最も利用者が多い海老名SAからの合流が続く。

「トンネル」で渋滞が起きてしまう原因

次に「トンネル」も古典的な渋滞の原因ポイントであることはよく知られている。


2017年夏に最長渋滞区間となった東名都夫良野トンネル(2016年筆者撮影)

トンネルに入ると周囲が暗くなるためスピードを落とそうとする意識が働きやすいこと、さらにトンネル内では車はランプをつける(あるいは自動的に点灯する)が、後続車はブレーキランプが踏まれたと勘違いし、自分もつられてついアクセスを弱めてしまいスピードが落ちることで渋滞が発生する。

かつての渋滞の常連区間は、「日本坂トンネル(東名)」「天王山トンネル(名神)」(いずれも並行するトンネルを掘って車線を拡幅し、現在ではほぼ解消)などトンネル区間が多かったし、現在でも中央道の「小仏トンネル」や上信越道の「八風山トンネル」などが渋滞の発生区間としてよく知られる。

しかし、東名下りの大和トンネルにおける渋滞は、別の理由からだ。トンネル自体はわずか300mにも満たないほどで、しかも山間部ではなく米軍基地の滑走路の下をアンダーパスする構造で、照明をつけなくても通り抜けられるほどの短いトンネルだ。

しかし、東京方面から西下すると、このトンネルまでゆるやかな下り坂になっており、トンネルの直前で勾配が元に戻る。この勾配の変化で通行する車のスピードが自然に落ち、渋滞の原因になっていると言われている。こうした下り勾配から平坦になったり登り坂に変わる地点を「サグ(sag)」と呼び、意識しづらいだけに対策も難しい渋滞の元凶となっている。ちなみに、sagは、聞きなれない言葉だが、「たわむ」「たるむ」「垂れ下がる」といった意味を持つ英語である。

サグや上り勾配で自然に速度が低下する区間の渋滞解消のため、現在さまざまな試行が続けられている。

高速道路の路側に、車の速度よりも少し速い光を連続して発光させる仕組みを設けることで、運転者に速度を落とさないように誘導する「速度感覚コントロールシステム」、あるいは「速度回復誘導灯」と呼ばれる設備により渋滞の発生を防ぐ取り組みが各地の高速道路や首都高速などでも行われており、一定の効果があるとされている。


2016年8月12日午前6時 すでに激しい渋滞の東名下り(筆者撮影)

合流部やトンネルの前後での車線の拡幅も進められており、物理的な制約で難しかった東名・大和トンネルでも東京オリンピックまでの完成を目指してトンネルの前後4〜5kmの上下線で、1車線当たりの幅を少し縮めてもう一車線を捻出する工事が続けられている。

とはいえ、新東名の御殿場から海老名までの未開通区間が全通する数年後にはさらにこの付近の混雑が予想されるため、抜本的には、横浜町田〜厚木間の完全な片側4車線化が望まれるだろう。

一方、混雑の緩和を通行料金の変更でコントロールする方法もある。今年のお盆期間は、8月の11日(土曜日で祝日)、12日(日)が都会からの下り線の混雑のピークとなることが予想されている。仮に10日に休みが取れても、長距離区間を利用する場合は、通行料金が3割引となる休日割引の効果が大きいので、11日に高速に乗ろうという気持ちが働く。通行料が1万円であれば7000円となる。3000円の差は大きい。

集中を避けるために

この集中を避けるため、高速道路各社は今年、試験的に11日と12日の休日割引を9日(木)と10日(金)に振り替えると、7月4日に発表した。11・12日よりも9・10日のほうが安くなるため、9〜12日の4日間で通行量が平準化されることを狙った対策であり、一定の効果が見込まれている。

私も東京の自宅と愛知県の実家をお盆の期間に往復することが多いので、出発時間を朝ではなく夕方にしてみたり、1日余分に休暇をもらって渋滞のピークの翌日に実家からの出発を振り替えたりとこれまでいろいろトライしてきた。

また、事故による思わぬ渋滞にはまり、このまま高速道路に乗り続けるか一般道路に降りて渋滞区間を迂回するか悩み抜き、一般道に降りたもののこちらも大渋滞で、結果としては乗り続けたほうが早かったであろう失敗を幾度となく繰り返してきた。今年も、高速道路各社が発表する渋滞予想と上述の新たな試みも含めたさまざまな情報を分析して、快適な移動の方策を探り始めたところである。