横浜駅の改札口付近に掲示された「津波避難情報」の地図(筆者撮影)

西日本の洪水災害は、首都圏でもひとごとではない。倉敷市の河川氾濫は、行政により予測されハザードマップが作られていた。

首都圏に大地震が発生したとき、大津波襲来の危険が指摘されている。そしてこちらも、神奈川、東京、千葉の都県ではハザードマップが作られている。同じように災害が起きてもおかしくないのである。

JR横浜駅に「津波避難情報」の地図が掲示されているのをご存じだろうか。地図は横浜駅を中心に半径400〜600mほどの地域が津波襲来を示す水色に塗られている。すべての改札(4カ所)付近に貼られているが、意識しないと見落としてしまいがちなので、横浜駅を何度か利用した人でも、気づいていない方もいるかもしれない。

首都圏の海岸(神奈川県、東京都、千葉県)にも巨大地震の際、津波襲来が想定されている。「首都圏『大地震で大津波が来る駅』ランキング」記事で述べたように、江ノ電の長谷駅では最大で5〜8mの津波が想定されている。

そのとき、鉄道はどう対応し、われわれはどうすればいいのか。

横浜駅周辺は津波襲来エリア

首都圏の鉄道の中で、津波襲来エリアにあり、かつ利用者、電車の本数とも圧倒的に多いのが横浜駅周辺である。東京都内の鉄道駅では、ゆりかもめ日の出駅がいちばん浸水高があり0.5〜0.8m(地表部分)、JR浜松町駅が0〜0.15m(地表部分)だが、横浜駅へは、それよりずっと高い津波が想定されている。

津波は駅だけでなく駅間の線路にも当然やってくる。そこで今回は、横浜周辺(横浜市と川崎市)の鉄道路線に限定し、駅間における線路への津波襲来高ランキングを作成してみた。

作成にあたっては、神奈川県が発表した巨大地震における津波ハザードマップを基に線路(一部は線路付近)への津波の高さを集計し、独自に順位付けを行った。地下路線は駅付近の地表の津波浸水高とした。また横浜シーサイドラインは、高架鉄道なので今回は除外した。


このランキングを見るにあたり、心にとめてほしいことがある。これは前述の記事でも述べたことだが、重要なことなので再度確認しておきたい。


横浜駅周辺の津波浸水高さと駅の位置関係(神奈川県津波ハザードマップを筆者加工)

津波を伴う巨大地震は数百年または千年以上の周期で起きるとされる。各都県で作成した津波ハザードマップは、歴史的に確認されている巨大地震のタイプと同様のものが起きた場合を想定して浸水高を算出している。

大地震でも津波を伴うものとそうでないものとがある。1923(大正12)年の関東大震災では、横浜は広域大火災で甚大な被害を出したが、津波はやってこなかった。

ランキングの津波は発生確率は低いが、明日起きても不思議でないことは肝に銘じたい。また想定以上の高さや想定されていない場所へ津波が来る可能性もゼロではない。

1位には最大2m程度の津波高の区間がずらりと並ぶ形となった。大人の背丈以上の津波が想定されている区間が横浜付近の線路でこれだけある。


横浜駅は北西方向を除いて川に囲まれている(筆者撮影)

特にJR東海道本線と京浜東北線、それに京急が併走する鶴見―新子安―横浜間が断続的に被災想定区間となっているのが目立つ。湘南新宿ライン、上野東京ラインも含め頻繁に電車が走っている区間である。

同区間には周辺の道路より線路が高く線路まで津波が来ないと思われる区間もあるが、道路とほぼ同レベルの区間も長くある。そのためランキングに挙げた区間は、それぞれ約100〜400mほどが津波被災区間となっている。


横浜駅東口にある「海抜約2.0m」の標識(筆者撮影)

車窓から海は見えないが、JR新子安駅では150mほど南側が海(入江川の運河)である。横浜駅も東口のそごう、西口の高島屋、その北側のヨドバシカメラを挟む形で、北西方向以外ぐるりと川が囲んでいる。それらはいずれも満潮時には海水がさかのぼる汽水河川である。横浜駅東口の道路には「海抜2m」の標識が立っている。

JR鶴見線も鶴見駅付近を除けばほぼ全線津波想定区間になっている。海に面した海芝浦駅よりも浜川崎駅付近のほうが高い浸水となるのは、それぞれの海抜と地形による。また、JR根岸線横浜―桜木町―関内など線路が高架になっている区間(横浜駅付近を除く)では、高架下は浸水しても線路までは津波がやってこないことになる。

町中ならビルへ、電車内なら?

横浜付近にいて大地震が起きたとき、どうすればいいか。町中にいたなら頑丈なビルの3階以上、または海抜5m以上の高台に避難する。JR鶴見線沿線以外は、こうしたビルは数多い。

では横浜付近で電車に乗車中、大地震が起きたらどうなるか。

大地震が発生すると、JR在来線は必要な区間の列車を緊急停止させる「在来線早期地震警報システム」が作動し、駅間、駅構内にかかわらず緊急停止する。

問題はその後である。先般の震度6弱を記録した大阪の地震では、電車が停止した後、乗客を線路に降ろしての誘導開始まで2時間近くかかった例もあった。津波避難の際は、そんな悠長なことはしていられない。大津波を伴う慶長型大地震の場合、横浜へ約1時間30分で最大の津波がやってくる予測であり、もっと早い可能性もある。

JR東日本横浜支社によれば、「津波注意区間に停車し、津波警報が発表されている場合は、直ちに避難を開始します。津波避難を実施するにあたり、社員一人ひとりが取るべき行動を定めた『津波避難行動心得』を制定しています」という(JRの津波注意区間とランキング表とは同一のものではない)。地域の避難場所などに乗務員らが誘導するわけである。


津波浸水想定区域である鶴見―新子安間を走る列車(京急花月園前駅付近)。15両編成の場合、ラッシュ時なら2000人を超える乗客の避難誘導が必要になる(筆者撮影)

湘南新宿ラインの場合、15両の長大編成でラッシュ時など乗客は2000人を超える。これをわずかな人数の乗務員で避難誘導できるのか。

「ほかの列車が動いていないなどの安全を確認した後、多くのお客様に速やかに降車いただくため、列車の片側ドアを全開扉し、ハシゴ等を使用せず、いったん車内の床面に腰かけてから降車していただく訓練を行っています」

各車両にハシゴを設置する時間を省き、飛び下りたときの衝撃を少なくするためにこうした対応が適しているわけだ。

また津波注意区間外に停止した場合は、「状況把握を行い、避難誘導するかを検討します。状況により車内にとどまる場合もあります」という。

避難場所はどうやって知る?

駅間に電車が停止した場合、近くの避難場所がどこかはどうやって知るのだろうか。

「全乗務員はタブレット端末を所持しており、土地に不慣れな場所でお客さまを避難誘導する際は、タブレットにインストールされた避難誘導を補助する『津波避難ナビシステム』を使用して、避難場所まで誘導します」

このシステム等を活用しながら、乗務員が避難場所まで誘導する訓練も行っているという。

今年4月19日にJR横須賀線横須賀駅構内(ホームなし)にて、4両編成を使用して約450人の社員を乗客に見立てて津波を想定した避難訓練を行っている。この時は、車両の片側ドアを全開扉してから全員が車両から降車するまでに要した時間は約6分だった。

昨年4月14日には鶴見線浅野―新芝浦間で3両編成約150人による訓練も行った。また過去には関係自治体と協力し、地元の中学生、高校生の参加のもとでの訓練を実施したこともあるという。また今年9月1日には、一般公募した1500人により、横須賀駅構内での降車、避難訓練を計画している。

駅での対応はどうなるか。横浜駅の場合、改札内外の人々へ海抜5m以上の高台(駅北方約700mの沢渡中央公園や三ツ沢公園)または鉄筋コンクリート造り等で地震の揺れによる被害のない高い建物に避難の案内を行うという。

2020年に開業予定の「(仮称)横浜駅西口開発ビル」では、大規模災害時に、来街者が滞留、避難できるスペースや、帰宅困難者のためのスペースが設けられることになっている。

大規模な訓練が必要だ

このように対策はなされているが、大震災では想定外のことが起きないとは限らない。


多数の線路が並ぶ生麦駅付近。多くの路線が並行する区間では、線路に降りた後の安全確認に時間がかかることも考えられる(筆者撮影)

鶴見―横浜間では、JR、京急合わせて8〜10本の線路が並んでいる。線路に降りても安全の確認にどのくらい時間がかかるのか。高齢者、妊婦、車いすの乗客のほか、ヒールの高い靴の女性など、降車に必要な時間、一部線路を歩いての避難の所要時間など、予想外のことが起きかねない事項は数多い。昼と夜との相異、外国人への案内などの問題もある。

鉄道会社だけの問題ではなく、国や自治体とも連携して、昼と夜、満員に近い乗客(訓練参加者)を乗せて大地震発生を想定した停止、降車、避難の訓練を行う必要があるのではないだろうか。半日間ほど横浜付近の鉄道を不通状態にしても、行う価値はあり、社会的コンセンサスも得られるのではないだろうか。

津波を伴う巨大地震ではなくとも、大地震は高い確率で起きる。そのとき、「津波注意報」「大津波警報」が出されることは多分に考えられる。車内や駅にいてそうした警報に接したとき、事前の知識があれば、精神的パニックとなるのを防ぐ一助になるはずだ。日頃から地震に関しては情報収集をしておきたい。

<ランキング表補足>
神奈川県では2012(平成24)年3月に「津波浸水予測図」を発表した。同県ではさらに2015(平成27)年2月に「津波浸水想定図」を公表している。これは発生頻度が2000〜3000年以上とされる相模トラフ沿い最大クラスの地震など最新の科学的知見を加味したもので、平成24年の予測図より多くの場所でやや高い津波を想定している。ただし一般に流布している津波ハザードマップは平成24年版が多いことなどにより、ランキング表は平成24年のものを基に作成した。