「もしかしたら?」の未来を考える:東京大学制作展Extra2018レポート

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東京大学本郷キャンパスにて「東京大学制作展Extra2018 Dest-logy」が行われた。
毎年夏に行われている、東京大学大学院 情報学環・学際情報学府によるテクノロジー× アートの展覧会で、一般の人にも広く公開されている。

今年は、Dest-logy(当たり前を壊す)をテーマに学生たちが制作した作品が並んだ。
VR、画像認識、など比較的新しい技術を使ったものから、演奏体験を新しく提案するもの、社会の課題、政治的なテーマを取り上げたもの、などさまざまだ。


◎ロボットとあなた 生命の誕生と繋がりを体験する
卓上サイズのコミュニケーションロボットやロボット型スマートフォン、お掃除ロボット、スマートスピーカーなど、「ロボット」は以前よりは身近な存在になってきている。
とはいえ、世の中の多くの人にとって、まだまだロボットは自分たちとは異なる存在だ。


Robot Love
[藤井綺香:東京大学大学院、木村正子:東京工業大学 環境・社会理工学院、秋山秀郎:武蔵野美術大学、近藤恭平:東京工業大学、psy39、安西渉:東京工業大学、吉岡大輔:慶應義塾大学大学院、山上紘世:豊橋技術科学大学]

しかし、それは本当にそうなのか? と思わせるのが「Robot Love」。
VRデバイスを付けて体験できる作品で、ロボットと結ばれ、ロボットの子どもを作るというストーリーを体験する。

体験者は精子の1つとなり、卵子への受精を目指し進んでいく。
先には、卵子の形を模した大きなバルーンに入ったロボット(HRP-4)が待っていて、卵子に飛び込んだ精子(体験者)はロボットにくるまれることになる。

この物語はそこでおしまいではない。
振り返ると、ロボットと結ばれた体験者の子どもだというロボットが現れる。
彼女は
「こんにちは、お父さん/お母さん」
と手を差し出す。
引き続き、体験者は子どもと名乗るロボットと手をつなぎ、あたりを散策する。


少女型ロボットとつながる

手繋ぎロボットにはTUTものづくりサークル MaSiRo プロジェクトによる「ましろ」を起用している(顔は慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科キグルミ部による)。

写真で見るとおり、「ましろ」は木やスチールなどを使って手作りしたボディにメイド服、顔はいわゆるアニメ顔(目が2Dのペイント)なのだが、微妙に無機質ではない感じを受けてしまうのは、その手を取り、握るとわずがな反応を示すインタラクションだ。

ストーリー仕立てにすることで、少し先の未来の世界を(「想像の」ではあるが)体験できる、イメージできる作品だ。


◎あの「物語」の分岐を変えることかできたら?
夏目漱石の「こころ」をベースにした物語が用意され、「もし人の感情を操作できるとしたら何が起こるのか」を体験できる作品。

体験者は模型の脳に刺された4つのピンのうち1つを抜く。
ピンはそれぞれ執着心や競争心などの感情に紐づけられている。
抜くこと=その感情を捨て去る、ことになる。
その結果で、話の筋が変わってしまう。

たとえば、執着心を捨てたことで、主人公を取り巻く三角関係は回避される。
つまり、主人公の感情から「何か」を捨てることで、物語の結末が変わってしまうのだ。


「こころ(edited)」
[大杉慎平,宮下珠実,沼田俊之,山田渉,秦圭矢乃,関あゆみ,三澤加奈: 東京大学大学院]

おもしろいのは、目の前で感情を捨てる儀式を行い、それによりストーリーが変わったという結果を見せるところまで、ひとつづきに見せていることだ。

感情というのは形になっていなくて、なかなか制御できない。
たいていの場合、そう考えるが、
将来の技術で感情が操作できるようになったら? 
感情を操作できるとはどういうことなのかを考えさせられる。

今回の作品はすでに用意された4つのバージョンを呼び出し、スクリーンに書き出すという仕組みだが、これを体験者が自らのストーリーを入力し、目の前で感情の”アヤ”をほぐすことで心理療法的な効果が期待できるかもしれない(悪用という恐れももちろんあるが)。

これ以外にも、
・ピアノを弾く体験がもっと楽しくなる作品(「VR Piano Visualizer」)
・個人認証を使って発砲を制限するシステムを搭載した銃(「アンチ・バイアス・ガン」)
など、興味深い作品があった。

技術を見せるだけではないし、アートの1つの方法として技術を用いるわけでもない。
それぞれ、何か従来の視点を壊すものであったり、隠れた課題を露わにしたりする作品になっている。

7月に行われたこの制作展を経て、11月には「第20回東京大学制作展」が開催される予定とのこと。
今回展示されていた作品もブラッシュアップされて登場するのではないだろうか。
大内孝子