子どもたちは、なぜ「自分の裸の写真」を送ってしまうのでしょうか(写真:Graphs /PIXTA)

「ライブに行くおカネがほしい」

ある日、ツイッターで何の気なしにそんな投稿をした中学生女子のAさん。すると、見知らぬアカウントから「裸の写真を送ってくれたら、おカネをあげる」とメッセージが送られてきた。おカネがもらえるならと思った彼女は、自分の写真を送信。

ところが、送信後、相手は自分と付き合うよう要求し、断れば「写真をばらまく」と脅してきた。Aさんが拒否すると、相手は写真をネット上にアップロードして、それが拡散。いまも写真がネット上に残っているという。

こうした子どもの「自画撮り被害」が増えている。自画撮り被害とは、未成年がだまされたり、脅されたりして、自分の裸の写真をメールやSNSで送らされる被害のことだ。

警察庁が発表した「平成29年におけるSNS等に起因する被害児童の現状と対策について」(2018年4月)によると、SNSが原因となる犯罪の被害児童数は過去最多。児童ポルノ及び児童買春事犯が増加傾向にあるという。また、同庁の「平成29年上半期における子供の性被害の状況」によると、児童ポルノのうち「自画撮り」被害が4割強と最多。被害者の内訳は中学生が5割、高校生が4割と中高生が大半を占めるが、小学生以下も1割弱いる。

2018年5月には、ツイッターで知り合った17歳少女に自分のわいせつな写真を送るよう要求した33歳男が、東京都の青少年健全育成条例違反容疑で書類送検されており、自画撮りの要求行為で摘発された全国初の事例となった。ほかにも同5月、ツイッターで知り合った男子中学生に自画撮り写真を送らせた26歳の男が、児童ポルノ禁止法違反の疑いで逮捕された。

子どもたちが「裸の写真」を送る事情

なぜ子どもたちは見知らぬ男たちに裸の写真を送ってしまうのか。その背景には、スマートフォンが広く普及し、子どもたちの間で「自撮り」や、撮った写真を送り合うことが一般的になっていることがある。

同時に、SNSの利用が浸透していることも大きく影響している。子どもたちはスマホネイティブ、SNSネイティブ世代であり、人間関係に「オンラインとオフラインの区別」をつけない。それゆえ、SNSで交友関係を広げ、信用した人間には個人情報も教えてしまうのだ。

冒頭で紹介したような事例はほかにもある。

同じバンドが好きな同級生の女の子とツイッターで親しくなった高校生女子のBさん。悩みなども打ち明け合う仲になったが、あるとき、自身の体型の話に。先に裸の写真を送ってきたのは相手のほうだった。

Bさんが「太ってないよ」と送ると、「私が(写真を)送ったのにBは送ってくれないの?」と返ってきた。嫌われるのを恐れた彼女は、しぶしぶ自分の裸の写真を送った。

だが、その直後、女の子だと思っていたアカウントの主は「実は男」と告白したうえで、「この写真をばらまかれたくなかったら言うことを聞け」と脅してきた。その男の脅しに従ったBさんは、最終的には性被害にあってしまった。

「あまりにしつこく請われて送ってしまった」例もある。子どもたちはネットで知り合った相手を信じ、嫌われることを恐れる傾向にある。送ってしまったらどうなるかというリスクを考えられず、目先の嫌われる恐怖感から軽率な行動に出てしまう。

中学生女子のCさんは、自分の裸の写真がネット上に広まり、消せないままでいた。そのために、みんなが自分の陰口を叩いているのではないかという疑念が解消できず、引きこもりになってしまった。

自画撮り写真のいちばんの問題はリベンジポルノ問題と同様に、一度、広まった写真は消すのが難しい点だ。インターネット上に写真が掲載されたり、拡散されたりすることで、多くの人の目に触れて、将来にわたり精神的な苦痛を受け続ける可能性がある。

自画撮り被害が増えたのに伴い、各自治体も動いている。2018年2月、「東京都青少年の健全な育成に関する条例」の一部が改正された。これにより、18歳未満の未成年に自画撮り画像を送るよう不当に求める行為自体が罰則に問えるようになった。この結果、前述の摘発にもつながった。

東京以外の自治体も続いている。兵庫県でも、2018年4月より兵庫県青少年愛護条例の規定が改定されて、未成年に不当に自画撮り写真を要求する行為に罰則を規定。福島県でも、同様に青少年健全育成条例を改正し、要求行為に罰則を設ける予定だ。

既存の「児童ポルノ禁止法」では、18歳未満の未成年の裸の写真の単純所持は禁止しているが、要求行為だけでは取り締まることができない。そんな事情から、このように自治体が独自の規定を設け始めている。

ネットを利用する上で、子どもに教えたいこと

きちんと対策さえ打てば、自画撮り被害は防げる。子どもたちがSNSを通じて交友関係を広げることを止めるのは難しいが、「裸の写真を撮らない」「残さない」「他人に送らない」ことを徹底させることはできる。たとえ信頼する友人や交際相手に頼まれても裸の写真は絶対に送らないことを、子どもにはしっかりと伝えたい。

また、インターネットでは「正体を偽れる」ことも教えるべきだろう。加害者は性別・年齢・職業など、プロフィールを偽っている可能性が高い。同年代の同性と思っていてもなりすましの可能性があることを知り、万一に備えて必要以上の個人情報は渡さない、会いに行かないなどリスクに備えるべきだろう。

最近では、警察本部や最寄りの警察署、インターネット・ホットラインセンターなどに相談すると、児童ポルノ写真は削除するよう動いてもらえる。実際、依頼件数のかなりの数を削除した実績もある。


(写真:警視庁のサイトより)

東京都が運営する「こたエール」などの相談機関も相談に乗ってくれるので、いざというときのために子どもと共に知っておくと安心だ。