PIXTA=写真

写真拡大

関係先の人の訃報に接したら、どう対応すべきか。競合他社に遅れをとらない、葬儀参列の際に恥ずかしくない立ち居振る舞いとは──。

■ポストにかかわらず、各部門責任者に知らせる

不幸の知らせは突然届くもの。見よう見まねのマナーで通夜や葬儀・告別式に参列してきたけれど、本当はどうするのがしきたりにかなっているのか、不安な人も多いはずだ。特に得意先、仕入れ先、金融機関、関連会社など、仕事に関係する人の訃報に接したときは、ビジネスにも影響を与えかねず、なにかにつけ、今後マイナスになるかもしれない。

現代礼法研究所を主宰する岩下宣子さんは「相手の対応によっては、お祝いごとよりも悲しみごとのほうが怒りに変わりやすいものです。それだけに弔事では相手の立場に立ち、心を込めて見送る気持ちとマナーが求められます」と指摘する。さらに、「関係先の人の訃報に接したら、故人のポストにかかわらず、ただちに関連部門の各責任者に知らせることです。各責任者は会社の規定に照らして部門としての対応を考え、担当者に連絡します」とアドバイスをする。

訃報を確認したら、会社としてどう対応するかを決めなければならない。つまり、会社対会社、あるいは会社対個人としてなのか、その対応の仕方を、時を移さず決定する。

その際に、関係先とのつきあいの深さ、また故人の社会的な地位、業界での立場などを考慮して決定するのが一般的だ。ただ、“やらなすぎ”よりは“やりすぎ”のほうを選ぶのが原則だろう。ただし、「今は家族葬など葬儀を身近な人だけで行う場合も多く、もし、諸々ご辞退とかの申し入れがあれば、それに則るのがマナーでしょう。先方の事情に配慮することが大切です」と話すのはマナーコンサルタントの西出ひろ子さん。

「気持ちを、どうしても表したければ、後日、お花を会社や自宅宛てに文をしたためてお送りすれば、思いのこもったものになります」(西出さん)

▼取引先の訃報を知ったら間違いのない対応を
(1)取引先の不幸の知らせに接する
(2)関連部門の各責任者に知らせる(故人のポストにかかわらず)
(3)対応の仕方を検討(会社対会社 or 会社対個人)
【チェックポイント10】
・関係先とのつきあいの深さ
・故人の社会的な地位、業界での立場
・弔電は社長名で打つか
・通夜の弔問はどうするのか〈伺うとすれば誰が行くのか〉
・遠方のときはお悔やみ状にするのか、出向くのか
・香典の額はいくらにするのか
・生花・花輪の供花はどうするか
・通夜・葬儀に手伝いの社員を差し向けるかどうか
・葬儀・告別式への参列はどうするのか
・弔辞を頼まれたら文案は誰が起草するか

▼通夜と葬儀の服装

「かつては通夜に『喪服』で参列するのは、不幸を予測していたようで失礼とされ、地味な平服が推奨されていました。今でもその考えは残っていますが、最近の通夜は亡くなった当日に行われることが少なくなったため、喪服で参列する人がほとんどです。喪服とまではいかなくても、黒系統の服装で故人の死を悼みましょう」(西出さん)

喪服でなければ濃紺かダークグレーのスーツ。黒で統一したネクタイ、靴、靴下。ワイシャツはレギュラーカラーの白の無地。葬儀・告別式は喪服にする。ハンカチは白。カバンは黒で光沢のない素材がベスト。クロコダイルなど、は虫類系の革製品は避ける。

▼香典袋の書き方とポイント

香典を入れる「不祝儀袋」は、外袋(上包み)の上段に表書き、下段に名前、住所は内袋に書く。表書きの書き方は、宗教や宗派によって異なる。

「仏式では浄土真宗などが『往生即成仏』の考え方から『御霊前』を使いません。しかし、故人の宗旨を事前に知っている場合も少ないので、一般的に『御霊前』が広く使われていますが、仏式であれば『御香料』でもいいでしょう。キリスト教式では『御花料』、神式は『御玉串料』『御榊料』にするのが無難です」(岩下さん)

連名で渡す場合は、目上から順になるように書く。3人の場合、2番目の人を中心に書き、目上の人を右に、目下の人を左に書くとバランスがとれる。会社など団体の関係者としてお金を包むときは、団体名を名前の右肩に、少し小さく書き添えるといい。

書く文字は、「悲しみの涙で墨が薄くなったことを表すため、文字は薄墨で書くのがマナー」(西出さん)。中包みは、表側には何も書かない。「裏側には「金額」「住所と名前」、表書きを連名にしたときは代表者のものを書く。郵便番号も忘れないこと。この際も、薄墨で書く。

▼香典はいくら包むか

「香典の金額は先方からいただいた金額が一番の基準になりますが、取引先の場合で、個人として包むのであれば5000〜1万円。会社としての対応であれば相手のポスト、社会的地位などを考慮して上司と相談のうえ、会社の規定などをもとに決めるといいでしょう」(岩下さん)

香典は新札でなくても構わない。新札を使うとあらかじめ不幸を予測して用意していたようにも受け取られるからという理由だが、使い古したしわしわのお札は控えるべき。「使った痕跡がわかる程度のお札がいいでしょう。新札を入れる場合は、一折りしてから入れるのが品のいい方法です。入れ方は紙幣の顔が印刷されている側が下、さらに中包みの表側に裏が向くようにするとより気持ちが伝わります」(西出さん)。

【香典の額】(取材をもとに編集部で作成)
(1)取引先関係への香典(個人で)
5,000〜10,000円
(2)取引先関係への香典(会社として)
上司と相談〈取引先との関係によって金額は異なる〉
(3)友人・同僚・上司への香典
5,000〜10,000円
(4)友人・同僚・上司の家族への香典
3,000〜5,000円

▼香典の出し方

香典を持参する際は、紫か黒の袱紗に包んで奉呈するのが礼儀。「手渡しにならぬよう、たたんだ袱紗の上に載せ、受け取りやすいように、相手側に香典袋が少し出るようにして、渡します。ビニール袋に入れたままゴソゴソポケットから取り出すのは恥ずかしい振る舞いです」(岩下さん)。

▼代理人による参列

上司の代理人として通夜や葬式に出席する場合はどうしたらいいのか。

「受付で、誰の代理で来たかを告げます。上司から名刺を預かっていたら、上司の名刺の右上に『弔』と書き自分の名刺の右上には『代』と書きます。香典を渡して記帳するときは、出席できなかった上司の名前を大きく書くこと。あなたの名前は上司の左下、次の行に少し小さめに、『代 日之本太郎』といった具合に書きます」(西出さん)

預かってきた香典を受付に出したとき、「お香典の儀はご辞退させていただきます」ときっぱり断られたら無理強いはせず、素直に引っこめたほうが礼にかなっている。

----------

岩下宣子(いわした・のりこ)
マナーデザイナー
全日本作法会の内田宗輝氏、小笠原流の小笠原清信氏のもとでマナーを学ぶ。1985年、現代礼法研究所を設立。NPO法人「マナー教育サポート協会」理事長。著書に『美人のことば練習帖』などがある。
 

西出ひろ子(にしで・ひろこ)
ヒロコマナーグループ 創立者
国会議員の秘書などを経て、英国にて起業。日本初のマナーコンサルタントとして活躍中。企業収益を上げるビジネスマナー、印象アップ術などの実績多数。著書は国内外で80冊以上。
 

----------

(ジャーナリスト 吉田 茂人 写真=PIXTA)