セルフのガソリンスタンドでは、給油ノズルを手にする前に「静電気除去シートに触れてください」と案内されます。しかし有人のスタンドなどでは店員がシートに触れないばかりか、シートそのものがない場合もあるのはなぜでしょうか。

触れれば、電気を大地に逃がす

 セルフスタンドでは多くの場合、ガソリン計量器に「静電気除去シート」として、カスタネットのような形の丸く黒いオブジェクトが据え付けられています。「静電気除去シートに触れてください」などと、給油ノズルを手にする前に音声で案内されることもあります。


ガソリン計量器に設けられた静電気除去シートのイメージ(画像:写真AC)。

 計量器メーカーのタツノ(東京都港区)は、静電気除去シートに触れないと「人体に蓄積された静電気が着火源となって、思わぬ火災事故を引き起こすおそれがあります」と話します。静電気除去シートの仕組みを同社に聞きました。

――静電気除去シートはどのような仕組みなのでしょうか?

 当社のものであれば、消防法と当社の規定を満たした導電性の素材を使用しており、これに触れることで人体に蓄積された電気を接地し放電します(電気を大地に逃がす)。なお、シートの性能を確保するため、3年での交換を推奨しています。

――給油ノズルを持つ手全体で触れるべきなのでしょうか? それとも指先だけでよいのでしょうか?

 全体でも指先のみでも問題ありません。ただし、必ず素手で触れてください。手袋を着用したまま触れるのは厳禁です。また、給油作業は全ての操作をひとりで行ってください。

店員はなぜ触れない? 静電気除去シートが設けられた背景

 一方、静電気除去シートがあるのはセルフスタンドばかりで、フルサービスのスタンドなどでは、店員がいちいちこのようなシートに触れる姿を見かけません。これについてタツノは次のように話します。

「(ガソリンスタンドの店員は)帯電防止に優れた衣服や靴を着用しています。また業務中においても、水をまいたり、金属製品に触れるなど日常の動作で静電気の発生を防止しています」(タツノ)

 ガソリンスタンドなど危険物を取り扱う事業所で着用される静電気帯電防止作業服の仕様は、帯電を防止する生地であること、裏毛生地(ボア)を使用しないことなどがJIS規格で定められているものです。

 総務省消防庁の資料によると、ドライバー自らが給油作業をするセルフスタンドが解禁されたのは1998(平成10)年のこと。その際、従業員と異なり帯電防止対策を顧客に求めるかどうかが議論されたそうです。給油する人が車両ドアの金属部や、給油キャップを覆う金属製のふた、そして給油ノズルに触れることでも静電気除去はできるものの、これらに触れずに給油キャップを開け、放電により給油口から吹き出すガソリンベーパー(可燃性蒸気)に引火する事故もあったそうです。このため、2001(平成13)年に消防庁が各都道府県へ静電気対策について通達を出し、静電気除去シートの設置が進んだといいます。

 ちなみに、タツノによると、ガソリンスタンドはたとえばビル内であったとしても、必ず地上階に設けられるといいます。「消防法の規定により、地下に給油取扱所を設置することはできません。給油時に発生するガソリンベーパーの滞留により発火の危険性があるため、開放された空間であることや地表面の構造、勾配などが消防法で細かく定められています」とのことです。

【写真】「静電気除去シートに触れずに引火」の瞬間


静電気除去シートに触れず、給油ノズル操作を中断して従業員を探し歩いたことで、衣類の摩擦により帯電が増加、スパークしてガソリンベーパーに引火し出火したケース(画像:総務省消防庁)。