ドラッグストア コスモス東光寺店(福岡県福岡市/著者撮影)

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ドラッグストア業界で「顧客満足」が7年連続1位というチェーンがある。九州を拠点とするコスモス薬品は、食品の安さに定評があり、売り上げに占める食品の構成率は56%。地元では「医薬品も売っているスーパーマーケット」として満足度が高い。なぜそこまで安いのか。流通アナリストの渡辺広明氏は、「利益率の高い薬を販売した原資で、食品の薄利多売を実現している」と分析する。だが「快進撃が今後も続くとは言い切れない」ともいう。その理由とは――。

■「中食」に力を入れだしたドラッグストア

ドラッグストアが食品に力を入れている。経済産業省の「商業動態統計」(2017年)によれば、ドラッグストア業界の食品の年間販売額は前年比8.4%増となっている。この伸長の結果、業界全体の販売額は3年連続で増加し、5.4%増の6兆580億円となった。

店舗数は1万9534店(2017年、日本チェーンドラッグストア協会発表)となり、コンビニのような狭小商圏小売業のカテゴリーに入ってきた。有職女性や高齢者の日常購買場所として、位置付けられ始めている。その一環として、薬や化粧品、トイレタリーといった主力商品と比べて買い上げ頻度の高い「中食」(持ち帰りの弁当、惣菜など)に力を入れているのだ。

九州を拠点に「ディスカウントドラッグ コスモス」をチェーン展開する「コスモス薬品」では、売り上げに占める食品の構成率が56%と、すでに半分を超えている。

コスモス薬品は、地方拠点のチェーンでありながら、日本生産性本部サービス産業生産性協議会が毎年発表する「日本版顧客満足度指数」調査のドラッグストア部門で、7年連続「顧客満足」1位を獲得している。のみならず、2017年度調査では、「顧客期待」「知覚品質」「知覚価値」「推奨意向」「ロイヤルティ」という、その他すべての指標でもトップに輝いた。

■高い支持でも2018年5月期は減益予想

この人気の理由は、価格の安さにある。

コスモス浮羽店(福岡県うきは市)の7月3〜9日のチラシによれば、コカ・コーラ「アクエリアスゼロ2L」が108円、カルビー「ポテトチップスクリスプS」が78円とある。アクエリアスゼロ2Lのメーカー希望小売価格は340円、ポテトチップスクリスプSは実勢価格105円で、比べるとコスモスの安さがよくわかる。コスモスでは特売を廃止し、「エブリデイロープライス」(毎日いつでも安い)を徹底することで、安さを実現している。

だが、顧客から熱い支持を集めるコスモス薬品の2018年5月期連結業績は、減益予想となった。「医薬品も売っているスーパーマーケット」と化したコスモス薬品に対抗すべく、地場スーパーの生き残りをかけた食品安売りが加速し、競争が激化したことが大きな要因だろう。

ドラッグストアの安売りの仕組みは、利益率の高い薬を販売した原資を使って、その他の商品を薄利多売する構造になっている。一般医薬品の通常条件の利益率は、ナショナルブランド商品で35〜40%、プライベートブランド商品で50〜60%前後。薬の粗利で稼いだ原資で、飲料・加工食品を中心とした食品のみならず、化粧品・トイレタリー商品など通常利益率30%強の商品を値下げしているのだ。

そして、この利益の源となっている薬販売は、未来永劫ドラッグストアの専売特許であるとはいいきれない。薬販売の規制緩和の行方が、ドラッグストア業界の今後を左右する。

一般用医薬品の販売区分は、要指導医薬品から第1〜3類医薬品など5段階に分類されている。有資格者ごとに販売が規制されており、要指導医薬品と第1類医薬品は薬剤師のみが販売可能で、確認ツールおよび書面での説明が必要だ。ドラッグストア関係者によると、「調剤薬販売を別とすれば、薬の売り上げのうち、この分類が占める割合は5〜10%にしかならない」という。

残りの90%以上の一般用医薬品については、薬剤師または登録販売者がそれぞれの類に合わせ、指定第2類医薬品であれば積極的に、第3類医薬品に関しては必要に応じて情報提供などに努めるという規制となっている。

■コンビニの医薬品規制緩和が命運を握る

だが、ドラッグストア関係者たちは、「要指導医薬品と第1類医薬品以外の一般医薬品は、特に購入時にアドバイスを受けることなくトイレタリー製品や化粧品とまとめて購入していることがほとんど」という。先述の薬事法がきちんと運用されているケースはほぼないという見解が多い。

要指導医薬品を除く第1類、第2類、第3類のすべての一般用医薬品は、2014年から一定条件のもと、ネット販売が解禁されている。コンビニでは一足先に2004年から解禁されており、薬剤師がいる店舗なら第2類、第3類を買うことができる。これをさらに規制緩和し、ネット販売同様に薬剤師や登録販売者がいなくても販売できるように法整備される可能性が高くなってきている。食品などの薄利多売の優位性がなくなれば、ドラッグストアは業態としての利益体制の見直しが必須となるだろう。

日本は、世界でも類を見ない超高齢化社会に突入しており、薬のニーズは今後も強まっていくだろう。一般小売業が追随できない調剤薬局を併設するドラッグストアは、運営の工夫によっては“ついで買い”を狙うことはできる。利益率も高いため、調剤には可能性がある。ただし、2018年4月の薬事法改正で、特に影響が大きいと思われる調剤基本料、後発医薬品調剤体制加算、および基準調剤加算の廃止と地域支援体制加算が改定され、利益の見直しも始まり、医療費削減のメスが入ってきている。

当面の間、薬で利益を出しながら食料品を薄利多売する構造は変わらないだろう。むしろ加速する可能性すらある。業界1位を走るウエルシアホールディングスも、同じイオングループのオリジン弁当を併設した店舗を出店している。平日の夕方にウエルシア瀬谷三ツ境店を視察したところ、店舗面積が併設ドラッグストアの10分の1もないオリジン弁当のほうに客があふれている現象を目の当たりにした。やはり中食の展開は、ドラッグストアの生き残りには必須なのだろう。ウエルシアは、北海道のコンビニの雄「セイコーマート」が茨城県土浦市に置く食品工場からも弁当などを供給しており、さまざまな実験展開をして一歩抜けているようだ。

■自社開発力の弱さがネック

大手ドラッグストアの中食は、コンビニへの卸経験のある工場から仕入れしていることが多いが、まだバイヤーが商品開発に積極的に関わっている事例は少ない。メーカー側から提案を受けて展開しているだけの場合が多いため、自社で開発力を高めてきたコンビニと比較すると見劣りしてしまう。そんな背景もあり、食料品に頼った売り上げ増がいつまでも続く保証はない。薬販売の規制緩和はもとより、アマゾンのような大手ネット通販が生鮮食品に力を入れだしている動きもある。

現在のところポジティブな状況が続いているが、こうした変化する状況にどう対応していくのか。平成という時代に拡大してきたドラッグストアは、平成が終わったあとにどうなるのか。これからが勝負の時となる。

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渡辺広明(わたなべ・ひろあき)
流通アナリスト・コンビニ評論家
1967年、静岡県生まれ。東洋大学法学部卒業。ローソンに22年間勤務し、店長やバイヤーを経験。現在はTBCグループで商品営業開発に携わりながら、流通分野の専門家として活動している。『ホンマでっか!? TV』(フジテレビ)レギュラーほか、ニュース番組・ワイドショー・新聞・週刊誌などのコメント、コンサルティング・講演などで幅広く活動中。

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(流通アナリスト・コンビニ評論家 渡辺 広明)