派手なメッキグリルやエアロパーツを装着したミニバンや軽自動車が人気だ(写真:トヨタグローバルニュースルーム、Honda Media Website、日産自動車ニュースルーム、ダイハツメディアサイト)

最近のミニバンや背の高い軽自動車では、派手なメッキグリルとエアロパーツを装着したグレードが人気を集めている。ミニバンならトヨタ自動車のヴェルファイア「Z」、アルファード「S」、ヴォクシー「ZS」、日産自動車のセレナやエルグランドの「ハイウェイスター」、ホンダのステップワゴン「スパーダ」などが挙げられる。軽自動車では、ホンダのN-BOX 「カスタム」、ダイハツ工業の「タントカスタム」などが売れ筋だ。

派手なメッキグリルとエアロ仕様が増えた

これらのエアロ仕様は、上級グレードだから価格も高い。国内販売のナンバーワンとなるN-BOXのカスタムは、軽自動車なのに170万〜200万円で、N-BOXに占める販売比率は50%以上だ。車種によってはエアロ仕様が70〜80%になる。ホンダステップワゴンは、ハイブリッドをエアロ仕様の「スパーダ」のみに設定して、標準ボディでは選べない。


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過去を振り返ると、市販車に装着される純正エアロパーツは、1980年代にアルミホイールと併せて普及を開始した。日産3代目パルサーのようなコンパクトカー、ダイハツ2代目ミラなどの軽自動車にもエアロ仕様が用意された(ミラ「TR-XX」は人気車となった)。当時は若年層がクルマに高い関心を寄せ、外観をドレスアップできるエアロパーツが流行したから、商品化も急速に進んだ。

ただしこの時代には、ミニバンはほとんど登場していない。多人数乗車が可能な乗用車は、大半がトヨタ「ハイエースワゴン」、日産「バネットコーチ」など、商用車をベースにした3列シートのワンボックスワゴンだった。

それが1990年代にトヨタ「エスティマ」、1991年に日産「バネットセレナ」が発売され、1993年には日産「バネットラルゴ」がセレナをベースにした3ナンバーミニバンの「ラルゴ」にフルモデルチェンジされた。

そして1995年、日産の特装車を手掛けるオーテックジャパンが、特別仕様車としてエアロ仕様のラルゴ「ハイウェイスター」を追加すると、一躍人気車になった。1996年にはグレード化している。

一方、軽自動車では、1998年に初代スズキのワゴンRが、フルモデルチェンジ直前にエアロパーツを装着する特別仕様車の「RR」を発売した。ワゴンR自体が人気車だから、これも好調に売れた。

以上のような成功から「ミニバンや背の高い軽自動車は儲かる」という認識がメーカーに広がり、エアロ仕様が増えていった。

派手なメッキグリルが人気を高めた理由は、大きく分けて2つある。まずはミニバンや背の高い軽自動車のフロントマスクには、上下方向の厚みがあり、メッキグリルの装着で存在感が大幅に増幅されることだ。

2つ目の理由は、ボディ全体の造形バランスにある。エアロパーツを装着するとボディ全体の見栄えが繁雑になるから、グリルを目立たせないとフロントマスクが落ち込んで見えてしまう。そこで派手な化粧に合わせるべく、金歯をムキ出したようなグリルでバランスを取った。

こうなると標準ボディに比べて変化度が大きい。スポーツカーにエアロパーツを付けても外観の印象はあまり変わらないが、フロントマスクが大きく、ボディ側面の広いミニバンにメッキグリルとエアロパーツを装着すると、外観が豹変する。見栄えの違いも人気の要因となった。

ミニバンや軽自動車が売れ筋のカテゴリーだからこそ、際限のない競争に陥っている面もある。ライバル車に比べて目立ち度が劣ると、販売競争でも負けてしまう。各車種ともフルモデルチェンジの度に、派手さと目立ち度をエスカレートさせた。

例外はステップワゴンだろう。2005年に発売された3代目では、床を低く抑えて全高を1800mm以下に抑えた。それでも室内高は十分にあり、低重心になって走行安定性も大幅に向上したが、外観の存在感が乏しく売れ行きは低迷した。

この反省で4代目は背を高くしたが、フロントマスクがエアロ仕様のスパーダでも地味で売れず、マイナーチェンジで派手に改めた。5代目も前期型は大人しく、後期型で派手に改めている。地味と派手を繰り返す理由を開発者に尋ねると「最初はほかの車種とは違う個性を表現するが、売れ行きが低調で結局はメッキグリルに頼ってしまう」という。

ステップワゴンの開発者は悩んでいたが、見方を変えれば商品開発は簡単になる。「フロントマスクを派手にして、エアロパーツを付ける」という派手路線を突き進めれば良いからだ。

ミニバンはとてもオイシイ商品

たとえばヴェルファイア&アルファードは、現行型でプラットフォームを刷新した。ステップワゴンのように床を低く抑え、十分な室内高を確保しながら、天井の低い低重心ミニバンにすることも可能だった。それなのに旧態依然のボディスタイルを踏襲している。開発者は「お客様が背の高いボディと、周囲を見晴らせる運転感覚を好むから、(わざわざ)床と天井を高くした」という。

そしてこの姉妹車の売れ行きを比べると、以前はヴェルファイアが好調だった。ヴェルファイアを売るネッツトヨタ店は全国に1600店舗、アルファードを扱うトヨペット店は1000店舗で、販売規模にも差があるからだ。

しかし今はアルファードが上回る。アルファードのフロントマスクを騎士の仮面を思わせる迫力満点の形状に変更したからだ。つまりステップワゴンのような流行に逆らうことはせず、売れ筋路線を踏襲してフロントマスクを上手にデザインすれば、安泰な販売を維持できる。

しかもミニバンは全般的に価格が高く、エアロ仕様となれば、ヴォクシーが280万〜330万円、ヴェルファイア&アルファードは370万〜500万円だ。小さなクルマに代替えするユーザーが増えて、軽自動車の販売比率が40%近い昨今、ミニバンはとてもオイシイ商品だから開発と販売に力が入る。

ちなみにクラウンがフルモデルチェンジして走りのバランスを向上させたが、メルセデスベンツEクラスなどの欧州車に近づいた。良いクルマになったが「日本のクラウンらしさ」は薄れてしまった。

その点でヴェルファイア&アルファードは、まさに日本車そのものだ。「クラウンよりEクラス」と考えるユーザーは多くても、「アルファードではなくメルセデスベンツVクラス」という選び方は少ないだろう。日本車と輸入車(特にドイツ車)を比べて、日本車が圧勝できるのは、セダンやSUVではなくミニバンと軽自動車だ。

したがって消去法的にミニバンや軽自動車のエアロ仕様を選ぶユーザーも多い。セダンは欧州車に負けていて、上級車種をねらえば価格は1000万円を軽く超える。それがミニバンであれば、Eクラスの中級グレードと同等の約700万円で、ヴェルファイア&アルファードの最上級モデルを買える。外観から内装まで豪華絢爛で、どう見てもEクラスの中級より買い得だ。

軽自動車では?

軽自動車もエアロパーツやメッキグリルを備えたグレードは200万円近いが、同じ価格帯の小型車よりも車内は広く、内外装の質感も軽自動車が高い(今のダイハツは軽自動車を手本にコンパクトカーを開発する)。見栄えと実用性の両面で、ほかのカテゴリーの魅力が下がったから、ミニバンと軽自動車のエアロ仕様を選んでいる現実がある。

販売戦略の影響も大きい。最近は各社とも在庫車をあまり持たないが、大量に売る必要のある軽自動車やミニバンは、ある程度の在庫を用意する。この在庫車を見ると、エアロ仕様が圧倒的に多い。

販売会社は、在庫車を短期間で売却して新たな車両を仕入れたいから、新規でメーカーに注文する場合に比べて値引きなどの条件が良い。ディーラーオプションの無料装着などが、エアロ仕様の在庫車に限られる場合もある。

さらにセールスマンは、エアロ仕様であれば数年後に下取りさせるときの売却額が高まることもアピールするから、最初は顔立ちが穏やかな標準ボディに魅力を感じたユーザーも、最終的にはエアロ仕様を選んでしまう。このような経緯から、街中には派手なメッキグリルを装着したミニバンと軽自動車があふれている。

そしてクルマ好きの読者諸兄はミニバンや軽自動車のメッキグリルやエアロパーツに顔をしかめるかもしれないが、クルマに詳しくない人は「オシャレでカッコイイ」と受け取ることも多い。標準ボディでは、物足りない感じがするようだ。販売店の店内にミニバンのエアロ仕様を飾っておくと、売れ行きが伸びたりする。

その一方では、高めの着座位置による周囲を「見降ろす」感覚が、心理的には周囲の人やクルマを「見下す」感覚につながる場合がある。厚みのあるフロントマスクに貼り付けられたメッキグリルも、ドライバーの気分を無意識の内に尊大にすることがあるだろう。

クルマのデザインと安全の関係

以前、ヴェルファイアのCMで「偉い人間より、強い人間になりたい。その高級車は、強い。」というキャッチコピーがあった。これは「見下す尊大な気分」を肯定して助長するようなものだ。個人的には恐ろしいと思った。

クルマは単なる移動のツールにすぎないが、人間の使い方次第で、安全かつ快適な移動をもたらしたり、凶器にもなりえたりする。

そして、人が一体になれるツールでもある。たとえば裏道を走っているとき、前方に路上駐車の車両があったとする。ドライバーは直感的に「ドアミラーを格納すれば通り抜けられる」といった判断をする。このときには、ドライバーの肩幅が車両の全幅まで拡大されている。クルマの運転とは「体力が大幅に増強された自分の体を操ること」でもあるわけだ。

だとすればクルマの運転には、頭脳だけではなく感情が大きな影響を与える。「強い人間になりたい。その高級車は強い」のだとすれば、クルマの造り方次第で、強引な運転を招きかねない。

今の車両開発には、心理学も深くかかわるが、メーカーは大型のメッキグリルがドライバーの心理に与える影響などを研究していないのだろうか。クルマがドライバーの一体感を呼び覚ますツールである以上、「ナイフは使い方次第で凶器にもなります」といった、ユーザーにすべてを委ねる無責任は通用しないはずだ。クルマを本当に安全にしたいなら、ミニバンやSUVの見降ろし感覚まで含めて、車両のデザインを抜本的に見直すことを考えてもいいのではないかと思う。

ちなみに今の車両は全般的にサイドウインドーの下端が高く、後方に向けて持ち上げたボディ形状が多い。後端のピラー(天井を支える柱)も太く、側方と後方の視界が悪化している。

またミニバンやSUVのように視線の高いボディでは、遠方の見晴らしが利く半面、右ハンドル車では左側面の死角が大きい。背の低い障害物を見落としやすく、「高級車は強い」のだとすれば、弱い相手に対する手厚い配慮が求められる。

極論すれば、見下す視線や強く見せるメッキグリルは、メーカーが安全を本気で考えていない表れともいえるだろう。メルセデスベンツの過度に大きなエンブレム、アウディなどに見られる口を大きく開けて威嚇するようなグリルも同様だ。

メーカーの開発者からは「日本でも海外でも、フロントマスクを目立つ強いデザインにしないと販売面で不利になる」という話を聞くが、これは弱肉強食の発想で、安全に対する配慮が欠落している。「ほかのメーカーもやっているから」という付和雷同で、クルマは互いに相手を蹴散らし、その間を歩行者が往来する状態に陥っている。メッキグリルの流行は、心理的な考察を含めて、もっと幅広い見地から、クルマのデザインと安全の関係を考えたほうがいいことを示唆していないだろうか。