社員や内定者からの紹介で採用する「リファラル採用」や、採用者のほうが就活生に声をかける「逆求人採用」を活用する企業が増えている(写真:EKAKI / PIXTA)

企業の採用手法に変化が起きている。「ダイレクトソーシング」という言葉が採用関係者の間で浸透しているからだ。


自分の会社に合う人材を自ら探していく手法であり、サイトに登録している学生にメールで打診する「逆求人採用」や、社員など関係者のツテを頼って人材を探す「リファラル採用」がその代表例だ。中途採用で使われることが多いようだが、もちろん新卒採用でも有効である。

今回はHR総研が企業の採用担当者を対象に行った「新卒採用に関する調査」から、ダイレクトソーシングの利用の実態を見ていきたい。

ダイレクトソーシングの一例である、逆求人採用の台頭については、昨年12月7日配信の「もう大量一括の選抜は古い?就職ナビに異変」でも取り上げている。「OfferBox」「JOBRASS」など、逆求人サイトを利用する学生が顕著な伸びを示し、全体の2割程度が利用していた。

「ダイレクトソーシング」の言葉が浸透中

ただこれは2018年卒の学生データ。今年になって驚くべく数字になっている。OfferBoxの場合、7月現在で学生登録者が9.8万人に達している。昨年の登録が最終的に6.9万人だったので、何と4割以上の増加率だ。「JOBRASS」も堅調な数字になっていると思われる。

企業側が利用するケースも増えている。ダイレクトソーシングを実施している企業は全体で23%となっており、2018年卒採用の16%から7ポイント増えている。「301人〜1000人」の企業規模では、14%から25%と、10ポイント以上も多くなった。


採用活動のデータは企業規模によって数字が大きく変わることが多いが、ダイレクトソーシングについては、大手企業と中堅・中小企業でさほど変わらない。近年、なかなか思うように採用できない企業が増えているため、今主流の就職ナビ以外の採用手法にトライしている傾向だ。

効果のある採用手法はすぐに広まるため、数年もすればダイレクトソーシングを実施する企業は半数を超えるに違いない。

直接、人材に接触する手法がダイレクトソーシングだが、その方法もいくつかある。逆求人の場合は、「逆求人サイトの活用」と「逆求人セミナーの活用」に分けられ、リファラル採用も「社員からの紹介」「内定者からの紹介」「取引先等からの紹介」と、ルートによって分けられる。そのほかにも「SNSの活用」というのがある。

社員が紹介する「リファラル採用」が増えている

逆求人サイトや逆求人セミナーは採用支援サービスを行う企業が存在するが、社員紹介やSNSの活用などは人事部が主体になって推進していく必要がある。

なお、実際の実施内容を見ると、「逆求人サイトの活用」が最も多く、55%と半数を超える。続いて「社員からの紹介」が48%、「内定者からの紹介」が23%であり、「逆求人セミナーの活用」は16%とまだ少なく、「取引先等からの紹介」「SNSの活用」は10%にとどまっている。


逆求人など新しい採用チャネルについて、人事では戦略的にチャレンジしていることがわかる。

しかし、わからないこともある。ダイレクトソーシングの実施内容ではっきりしないのは、従来型の縁故採用との違いだ。新卒採用は就職ナビ一辺倒と批判されたものの、社員や取引先の紹介はいつの時代にもあった。紹介される学生は信用が担保できる人材だし、辞める確率も低いから、有利に処遇されてきた。

もしかすると、従来からやっていた「紹介」を、ダイレクトソーシングにカウントしている企業もあるかもしれない。

もちろん、もっと戦略的に「紹介」を利用する企業もあり、これはリファラル採用と呼ばれている。referralとは紹介・推薦という意味だ。外資系の中には、社内SNSに、社員が友人の情報をあげるシステムを構築している企業もある。IT系の場合、社員の友だちは同レベルのITスキルを持っていることが多いので、効果的な採用手法なのだ。

SNSを使う企業は戦略的にダイレクトソーシングに取り組んでいると評価できる。ただ新卒市場での利用はまだ少ない。転職市場では、「LinkedIn」などの利用が広ってきており、転職希望者が職歴を記入できるようになっている。しかし、職歴を持たない学生が「LinkedIn」に登録することは、少ないかもしれない。

1990年代半ばに登場したインターネットによって、新卒の採用手法は大きな変化を遂げた。就職ナビによる新卒採用が定着し、就職ナビのオープン=新卒の採用活動の解禁日、を意味するようになった。就職ナビ会社は、就活生が企業を探すナビケーション機能を最大化、最適化してきた。こうして2010年を過ぎるあたりまで就職ナビ万能の時代が到来した。

就活ナビだけでは採用が難しくなってきた

1990年代までの企業と学生の出会いは、電話帳のような情報誌とハガキによって行われていたから、掲載社数や配布部数などの数に限りがあった。就職ナビの時代になると制約がなくなったので、人事部だけでは処理できない数のエントリーが集まる。一方の学生も、自己分析とエントリーシート対策、そして企業研究に追われて、負荷が肥大化した。​​​​​​​​​​​​


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いわばダイレクトソーシングは、こうした就職ナビの弊害を”中和”する可能性を持っているように思える。逆求人サイトは10年ほど前から登場しているが、利用する学生と企業が増え始めたのは2015年卒あたりから。売り手市場に転じた時期と重なる。

学生は逆求人サイトの利用に前向きだ。「オファーがよく来るから」「先輩からのススメで使用している」「スマホアプリもあるため、使い勝手が良い」「自分のプロフィールが検索、閲覧された件数がグラフになるので、それを見て自己PRの改善などができる」といった意見が出ている。

今後拡大が予想されるダイレクトソーシング。利用率が現在の2割強から急伸し、7〜8割という「就活の主流」になると、新たな弊害や問題が起こるかもしれない。ただ少なくともそれまでは、就職ナビのみに頼るのではなく、これら逆求人サイトなどのダイレクトソーシングを活用すれば、企業、学生ともにメリットは大きそうだ。